やってまいりました第2話!
名前の通り、璃乃は翔也が好きなんだよ。
まあ、優しく見守ってやってくれ。
大日向 璃乃。
先月まで大人気のアイドル『Re:noa(リノア)』として活動していたが、自らの人生を歩みたいという理由で地位も名声も捨てた人だ。
それにしても、どうしてそんな人が……?
「私はこの地域で生まれて、6歳くらいまでここで暮らしていました。私がアイドルだったことは気にしないで仲良くしてください」
そう言って一礼した璃乃は、俺の隣の席に座る。
今日から俺等はこの人と過ごすのか……。未だ実感が沸かない。
座った璃乃はこちらに向き。
「今日からよろしくね。翔也くん」
と言ってきた。
この心臓のバクバクはどうしたらいいだろう。
俺はドルオタだったワケでもなければ、応援してたワケでもない。
テレビで数回みたことある程度だ。
しかし、こうやって間近でその顔を拝めるとなると、アイドルに抜擢されただけあってその微笑みはとても輝いて見えた。
「……神山、後で覚えてろ」
「……神山を許すな」
後ろの方から聞こえたトンデモ発言の数々。
それは俺の心臓の鼓動を抑えるのには十分な効果があったのは黙っておこう。
とりあえず、男子に近寄るのは避けよう……と思いながら、俺は担任の話に耳を傾けるのだった。
*
担任の話が終わり、一限目までにはまだ余裕がある。
男子たちからどう逃れてやろうかと思案していると、璃乃が話しかけてきた。
「ねえ、翔也くん。私のこと覚えてる?」
そういえば、璃乃はどうして俺を下の名前で呼ぶんだろうか。
まあ、元人気アイドルの美少女にそうされるのはやぶさかでないんだけど。
……というか、『覚えてる』?
「それってどういう……?」
「あー、やっぱり覚えてない?ほら、近所に赤い髪の女の子て住んでなかった?」
「……ごめん。覚えてないからさ、話してくれる?その昔のこと」
……そして璃乃は話し始めた。
昔、それも11年前のことだったらしい。
俺と璃乃は家が隣で、よく遊んでいたんだとか。
つまりは、愛果と同じく幼馴染だったってことだ。
そんなある日、璃乃が小学生低学年のガキにイジメられてるところを俺が助けて、こう言ったとのこと。
「ぜったいに、まもってあげる」
……随分と無責任なことを言ったな、昔の俺。
そしてある時、璃乃一家が引っ越すことになった際に、その時の純真無垢な俺がヤバいモノを渡していたらしい。
「この手の中のお守り、その時に翔也くんがくれたの。あなたは言ってたんだよ。『またあえたなら、そのときは……』」
「もう止めて!俺の黒歴史を話さないで!俺が恥ずかしいよ!」
周りからの『ウワァ……』って視線が痛い!
男子たちに至っては俺の暗殺とかを企てるとうな話をしているように聞こえたけど、きっと気のせいのはず。うん。
「そうかな?私は嬉しかったよ」
「……」
璃乃が嬉しそうだから、返す言葉が見つからない。
まあ、俺は誰が好きとかは今のところないけど……。
あれ、待てよ?つまり、今の話をまとめると……!?
「私は、そんな翔也くんが……ずっと大好きです」
火照った顔で告白してくる璃乃。
恋バナときてキャーキャー騒ぎ始めた女子。
戦慄と殺戮に顔を歪めた男子。
意外だと言わんばかりに興味津々な顔の燿利に、……寂しそうな顔の愛果。
そして、混乱と恐怖、焦りと孤立感によって、俺の意識は現実から乖離していった……。
*
目を覚ますと、俺は仰向けで白い天井を見ていた。
どうやら、情報処理が追い付かなかった俺の頭はオーバーヒートしたらしい。
実際にこんなことってあるんだな。
そう思いながら起き上がる前に軽く寝返ると。
「翔也くん、大丈夫?」
「うわッ!?」
まさか璃乃が覗き込んでくるとは……。
っていうか、授業は?
「隣の席だから、見守りを任されちゃった」
ああ、そういうことか。
まったく人使いの荒い連中だ。
璃乃はアイドルであったことは気にしないでと言っていたけど、少しは気にするのが礼儀じゃないのか。
まあ、本人が不快じゃないならそれでいい……のか?
「皆さん心配してたよ?早く戻らないと授業も始まってるし」
それもそうだ、早く戻……。
いや、もう少しだけ。
「ねえ、璃乃ってさ。俺のことが好きなの?」
「うん。ずっと言いたかったこの気持ちに嘘はないよ」
……良いんだか悪いんだか。
友達的な意味じゃなくて、予想通り恋人的な意味だったとは。
話の途中から薄々感じてはいたけど。
「……まあ何にせよ、これからはもう一度、友達からでよろしくな」
「一足飛びにカップルはダメなの?」
「それだと色々問題が生じるんだよ。それに、焦りは禁物だし。あと、少しずつ知っていきたいんだ。キミのことを」
問題って言っても、あの愛果の寂しそうな表情とか、俺をどうしてやろうと企んでる男子のこととかなんだけど。
「……翔也くんが言うならそうするね。これからもう一度、よろしくお願いします」
別に俺としてはソレはソレで悪くないとは思うけど。
愛果がこのことをどう思ってるかを聞いてからでも遅くはないし。
そんな感じで話をまとめ、俺たちは教室に戻ったんだが……。
教室に入るなり、一限目の国語の女性教師が一言。
「どうせイチャついてたんですよね?廊下に立っていてください」
……一緒に廊下に立たされたのも、ある意味では良い思い出になるかもしれない。
次回 Episode003 愛果の嫉妬と三角関係
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