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仕事部屋には日当たりのよい部屋をえらんだ。今でも気にいっている。
近々、調査団(ちょうさだん)の遠征(えんせい)を率(ひき)いなくてはならない。天変地異による影響を把握するためだ。
そうなればこうしてゆるりと至福のひと時に浸るのもむずかしい。
とは言え、市民の安全を考えれば仕事をしないわけにもいかない。
紅茶を飲みながら窓の外の景色に目をやり、空を見上げる。ついこの間まで紫の雲が天を覆っていたのが嘘のような晴天だ。
「王都諜報局の情報では、反オド勢力は禁断カードを召喚しようとしていたらしいです」
私がひと息ついたのを見て、部下が報告をはじめた。
優秀な存在だ。ラジトバウムの保安庁に所属させておくのは惜しい。才の器を考えればしかるべきところにいる人材だが、本人が私の従者でいたいというのだから仕方がない。
ふだんは妖面をかぶっているが、私のまえではつけないようだ。
「我々が奪われた秘宝、『世界の破壊者』の一部が関係あるかと。伝説上の存在ですが……」
私は紅茶を持つ手をとめ、もとにもどした。カチャ、と陶器のこすれる音がする。
空に目をやる。
平和はもどったのだろうか。いやあるいは、さいしょから平和などはなく、オドの統治の及ばないところでは闇が常にうごめいていたのか。
妙な予感がある。心が急いて、仕度をはじめなくてはならないような気になってきた。これもオドの導きか。
「世界の破壊者……ね……」
視線をおとし、ティーカップの中の紅茶に水滴を落とすかのように、ポツリとわたしは呟く。
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