あらかじめ決めておいたルートを進みながら人々を眠らせていく。
眠らせられるのはなにも作業していない人や、道からどこうとしない人たち、あとは役目をおえた冒険士だけだ。全員をねむらせる必要はないし、そんなことをすれば大変な迷惑をかけることになる。
ギリスを手にのせ、走って街をまわる。道端(みちばた)で居眠りをこく人たちをみていると呪いのカードもとてつもないがフォッシャの力も常識を越えていると再確認させられる。
念のため道のはじに移動させつつ、街をまわっていく。かなり体力をつかうのでさすがに俺たちも息がきれ、だんだんと走るペースが落ちてしまう。
「効率わるいワヌ! もっといいやり方なかったワヌ!?」
「しょうがないだろ……ハァ。これしか思いつかなかったんだよ。のんびり作戦考えてる間に病気はひろがってく。あんなに苦しんでる人をもっと増やしたいか」
「それはわかってるワヌ。ついてくワヌ」
あらかた街がしずかになったところで、ギリスをカードにもどす。
これだけやればすくなくとも雑音や気配は半減できたはず。あとはフォッシャ次第だ。
「いつまで寝てくれてるのかわからない。チャンスは一度きりだ。たのむぞフォッシャ」
フォッシャはうなずき、目をとじて集中する。
「この感じ、呪いのカードワヌ。こっちワヌ!」
場所は特定できた。気配は街中ではなく町外れの地帯から感じるという。地図で確認するとそこには炭鉱(たんこう)があった。
いそいで現場に急行し、あたり一帯をしらべる。人の姿がない。作業員も全員感染したのか。
洞窟のようになっている坑道をみつけ、そこに入る。
奥には、たしかにカードがあった。これが蔓延(まんえん)している病の正体。
【影(かげ)なる手札伝染(てふだでんせん)】。
まぎれもなく呪いのカード。
カードゲームですさまじい破壊力を発揮しそうな名前だ。もちろん自分も対戦相手も病気になるからだれもつかうわけないが。
でもどうしてこんなところにいきなり出現したんだ。発掘作業でぐうぜん掘り当てたにしても妙だ。
考えるより早くすぐさまベボイを呼び出す。実体化した妖精がパチンと指を鳴らすと、カードは粉々にくだけ散った。
「ふう。これでいっけんらくちゃくワヌね」
「いや……どうかな」
土に埋まっているからと言っていつ呪いのカードは発動してもおかしくはないはず。ここに元々あったなら、もっとはやくから感染がおきてなければおかしいことになる。
これで終わったとは思えなかった。
根源(こんげん)は絶(た)てたので、その後はまた隔離病棟をおとずれた。医師とラトリーに薬瓶を小分けにしたものを渡す。
もう充分俺たちは働いた。まだ患者はいるが、これ以上はもう彼らに任せておけばいいだろう。
ラトリーがスポイトで一滴ずつ患者の口にたらしている。みるみるうちに元気な人が増えていき、静寂につつまれていたこの施設に活気がわいた。
人々に笑顔がもどっていく。一日中走り回って疲れきったが、こうなってくるとやってよかったと思う。
「エイトお兄さん! フォッシャちゃん!」
ラトリーが満面の笑みをうかべてこちらに手を振った。どうやら友だちが目をさましたらしい。
フォッシャが俺の肩にのって、片手をあげる。
カードは笑顔を守るためにある、か。たしかにそうだなと思う。
まだ心のなかイヤな予感は残っていたが、俺はラトリーにわずかな笑みを返し、その場をあとにした。
帰り道でフォッシャが、自分はカードの使い方が下手だから俺と会えてよかったと、そんなことを言ってくれた。俺は照れて、「そうか」みたいな言葉しか返さなかった。
ローグに事件のことを伝えると、やはり俺と同じようになにか気になるところがあるようだった。
本当に終わったのだろうか。この件は。
ついでにおそるおそるサインのことを言うと、特に嫌そうな顔もせず承諾してくれた。
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