しらべてみると、スライムビートルとの戦闘で左腕が折れているらしかった。
町に戻ってとりあえずフォッシャが三角巾を使ってそれらしい対処をしてくれた。
添え木と包帯で応急処置はしたが、さすがにすぐ完治とはいかない。
最初はフォッシャのあの獣手足ではぎこちなく、面倒になったのか全身包帯巻きにされたのだが、そんなギャグで直ってくれるほど骨折は甘くない。
念のため回復薬をたっぷり塗りたくったので大事にはいたらないはずだ。
とフォッシャは言うのだが、いまいち心配は残る。
それに治療(ちりょう)道具を揃えるのに、せっかく成功したクエストの報酬はほとんど使ってしまった。
「回復薬、高かったワヌね……」
「……おかげで野宿になっちまったな」
もう日は沈み始めている。
ジャングルの入り口のあたりで、俺たちはキャンプと言う名の野宿をしていた。
オドの魔法の力を使いこなせていないうちから、もろに攻撃をくらったのが良くなかったらしい。
フォッシャに謝ろうとおもったとき、フォッシャはすくと立ち上がって、力強く言った。
「あしたから挽回ワヌ!」
「……そうだな」
「フォッシャ、今日は疲れたから早く寝るワヌね。おやすみ……」
フォッシャはそう言って、焚き火の近くで丸まると、すぐにぐーぐーと寝息を立て始めた。
今日は俺のせいで気苦労をかけたんだろうな。
フォッシャのおかげで学ぶことがたくさんあった。あしたから、もっとがんばろう。
そう決意し、俺もすぐに眠りに落ちた。
空腹のせいなのか腹の調子が悪いのか、お腹の違和感ですこし目が覚めてしまった。
ねぼけながらあたりを見回すと、フォッシャの姿がない。
そんなことはなく、毛布にくるまって隠れていただけだとすぐにわかったのだが、奇妙なものが目に付いた。
見間違えだろうか。フォッシャが寝ているはずの毛布の下から、かわいらしい人間の女の子の顔と手足が出ている。
「うわああ!?」
驚きのあまり俺は奇声をあげてしまい、それで起きたのか女の子も目を覚ました。
「ん……どうしたワヌか……?」
たしかに人間の女の子に見えるが、声も喋り方もフォッシャのものだった。服装も、ふつうの服だがデザインがフォッシャの毛色や毛柄によく似ている。
「お、おまえ……? フォッシャ、なのか……!?」
「……え? ……あっ……」
俺の反応に、女の子は顔を赤らめて、手で自分の体を隠すように覆った。
「うん……」
小さく、フォッシャはこくりと頷いた。
肩にかかるかからないほどの短くふわっとした、やわらかそうな髪。恥じらいのある綺麗な瞳(ひとみ)。透き通った手足。
だがよく見ると、フォッシャと同じふりふりした尻尾や獣耳もやや小さくなっているがくっついている。
この街にきてから驚いてばかりだな。
「えーっと……」
はいそうですかと飲み込めるはずもなく、混乱する。
あの犬だか猫だかわからない不思議な生き物のフォッシャが、このかわいらしい女の子?
「わ、わたし……ヘンな体質だよね」
そんなこと聞かれたってこの世界の常識をなにも知らない俺に答えられるわけがないんですよね。
「……そう、かもな……」
と、なんとも歯切れの悪い受け答えになってしまった。
「俺は別に気にしない」
率直な気持ちを言ったのだが、フォローしたような形になる。
「……本当?」
でもそれで良かったのだろう。フォッシャは恥ずかしがりながらも声には嬉しさがこもっているような気がした。
「……夜になるとだんだんヒトの姿になるの。朝になるとまたいつもの姿にもどる。これがフォッシャの……わたしの一族の特徴……なんです」
「へー……」
俺がフォッシャの尻尾と耳をジロジロ見ていると、すぐに気づいたのか頭を手で覆(おお)い尻尾も毛布に隠した。
「は、恥ずかしいから変わるところは見せられないワヌよ」
なんだか可愛らしくて、思わず口元がゆるんでしまった。
フォッシャが女の子だってことすらぜんぜん知らなかったな。
「……明日も早いし、俺はもう寝るな」
俺にとって、フォッシャは心強い相棒だ。それは変わらない。
「……おやすみ……ワヌ」
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