ざっと50名ほどだろうか。精霊杯の本戦出場者が結闘技場(ヴァーサス・テーブル)に一同に会し、セレモニーに参加した。
テーブルというシャレた名前だが、見事な建築と装飾によって荘厳(そうげん)な雰囲気が醸し出されている。
舞台中央で、茶色いローブを着た人たちが、なにかカードを使って怪しげな儀式のようなことをしている。
セレモニーというからタダでご馳走にありつけるんじゃないかと思っていた。そういうわけではないらしい。
会場のどこかにいればいいそうで、カードゲーマーらしき人たちがそれぞれカードをいじったり勝手に過ごしている。
だが、基本は大声を出すのはマナー違反なようだ。俺たちも観客席で黙祷(もくとう)をささげる。
すぐに終わるそうだが手持ち無沙汰なので、俺はフォッシャの頭やアゴを撫でたり、猫じゃらしで遊んでみたして、リラックスするよう心がけていた。
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俺の初戦の相手は、老齢の男性だった。
白髪に色黒の肌、民族衣装のようなうったりとした道着を身に着けており、威厳を感じる。
「……お手合わせ願う」
近づいてみるとわかったが、対戦相手は汗をかいていた。具合でも悪いのだろうか。試合の前からそんな状態でだいじょうぶなのかよ。
「……そなたの予選の試合を見た」
黄色い目で、じろとこちらの様子を窺いながらいってくる。
「強者(きょうしゃ)と戦えて光栄じゃ」
買い被りすぎだ。やってみなくちゃ、勝負はわからないぜ。
苦戦するかとも思ったが、想像以上に審官のカードの強さはケタが外れていた。
強い。そして速い。これじゃスキルを連発していれば勝ててしまうゴリ押しゲーだ。
敵のカードを一瞬で葬り去り、俺が練っていた策もほとんど使わずに勝負がついたのでいささか拍子抜けしてしまった。
その後もほとんど同じような内容で競り合うこともなく一回戦、二回戦と勝ち進み、俺はトーナメントを勝ち上がって行った。
試合を終えて控え室を出ると、フォッシャが待っていてハンカチを渡してくれた。
「エイト、エンシェントヴァーサスをやるのはあんまり乗り気じゃなかったのに、今じゃ快進撃ワヌね」
「……まあな」
エンシェント式は好きじゃないのはたしかだ。カードを失うリスク、怪我をするリスクは無視できない。
だが生きていくならカネは必要だ。審官のカードがある今、ここで稼ぐのは悪い判断じゃない。
「お金を稼がないといけないから、まあしかたないワヌね。だけどカードを失うリスクもあるワヌ」
「ここまできたら、乗るしかないだろ? 行けるところまで行ってみる」
ここまで稼いだ額はすでにかなりのものになっていた。まったく審官のカードが手に入ったのは幸運としかいいようがない。
これでもう食うものにも寝るところにも困らずに住む。フォッシャと過ごした厳しい生活の時が遠のくように感じた。
この異世界で、生きていくための手段を確保できたことに俺は安堵(あんど)していた。友達がいて、カードがあって。逆境のなかでどうすればいいのか途方に暮れていたころとはもう大違いだ。
いや、なんだったら審官のおかげでカネ持ちになれてりしてな。
俺はそんな妄想までして、期待を膨らませた。
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