勝負はついた。ボルテンスは地面をみつめ、悔しそうに唇を噛んでいる。
「あ……あんな編成に……負けるなんて……」
キッと俺をにらみ、
「それだけじゃねえ、あの劣勢での強さ……! 俺の攻撃に全く動じなかった…お前……!」
俺は臆さずに、睨み返して言った。
「このカードのおかげでしょうね」
審官のカードを見せびらかすように手にもつ。まさしくこのカードが悪行を裁いてくれる形と成った。
「誇り高いエンシェントルールだかなんだか知りませんが……。人のものはさっさと返すべきでしたね。カードゲームにおいて大事な『マナー』を違反したあなたの負けは、最初から決まってたのさ」
「ジャッジエンド! 勝者エイト!」
会場に審判の声がひびいた。これで勝利、なのか。いまいちまだよくルールはわかっていない。モニターで観戦していた試合を見よう見まねでやっただけだ。とにかく技を当てて相手のオドのシールドとやらを壊せば勝利のようだが、一発で決まったところを考えるともしかするとこの審官のカードは強い部類に入るのかもしれない。
地下から出て、街の広場にもどった。俺の怪我をみて、通行人たちがすこし驚いた顔を残して過ぎ去っていく。
男二人が近づいてくるのがわかった。ボルテンスと、たしかゴロクとかいう冒険士の人だったか。
ゴロクは笑いながらボルテンスの後ろ頭をおさえて、ぐっと下げさせた。
「わりーな、こいつほんとカードバカだからよ~。燃える勝負したいがためだけに煽(あお)るようなこと言っちまったみたいだな。許してやってくれ」
「あっ! 言うんじゃねえよ!」
ボルテンスはゴロクの腕を払いのけ、突っかかる。
ゴロクの方が申し訳なさそうにしていて、ボルテンスは勝てなかったのが悔しいのか機嫌が悪そうだ。
「だいたいおめーそんな首飾り持ってたところであげる彼女もいねーだろうが!!」
「あー!! お前言っちゃいけないこと言ったな!」
ゴロクに指摘されて、怒鳴るボルテンス。すこし離れたところから、フォッシャがこっちに向かってくるのがみえた。
「いいから彼に謝れ。礼にはじまって礼に終わる、それがヴァーサスなんだろ?」
ゴロクに言われて、ボルテンスは嫌そうに舌打ちしてから、顔は横に向けて謝罪の言葉を口にした。
「……次は俺が勝つ……逃げるなよ」
「あ、ああ」
「くやしいが……お前の力はホンモノだ。だから認めてやる。お前は俺の終生のライバルだとな!」
ボルテンスはそう言ってきたが、俺は丁重にことわった。
「いや、いいっす……」
「えええ!?」
ゴン、とゴロクはボルテンスの頭にゲンコツを振り下ろす。
「謝れっつっただろうが」
「ってーな! だいたい俺が拾ってあげたんじゃねーか!」
拾ったとは、カードのことを言っているのだろうか。そうだとしたら、こいつそんなに悪い奴でもなかったのかな。
「そうだったのか……てっきり勝手に売っちゃうのかと」
俺の言葉に、ブンブン、とゴロクが手を振る。
「それはないない。こいつオドの天罰が怖いからそんなことできねーって」
オドの天罰? そういえばフォッシャもさっきそんなこと言ってたような。
「まったく……迷惑かけたな。お詫びってわけじゃねえが仕事のことでわかんねえことあったら俺に聞け」
ゴロクは呆れ気味に笑って、去っていった。
「……その傷のことは、悪かったな。どうしてついたのかはわからんが……ま、治りが遅れたら手に入れた賞金で病院にでもいけや。あばよ」
そう言って、首飾りのカードを俺に差し出した。
俺がカードを受け取ると、ボルテンスもゴロクの後を追っていく。彼は、本当にただカードを拾って渡すつもりだったのだろうか。
なにか彼なりの手荒い歓迎だったのかもしれないな、となんとなく俺は思った。
冒険士カードがピッと鳴る。手に取ると、立体ウィンドウが浮かび上がり、お知らせと文字を表示した。
『カーダーランクがあがりました。規定の賞金が支払われます』
「エイトすごいわぬ! 本当にヴァーサス初めてワヌか!?」
フォッシャが足元に寄ってきて、興奮気味に言った。
彼女もどこかで応援してくれてたはずだ。なんだか照れるな。
「……まあ、実際に戦うのははじめてだね」
「フォッシャも詳しくはないけど、勝っちゃうんだから才能があるんじゃないワヌか!?」
「……どうだろう」
カードをフォッシャの首元に持っていってやると、首飾りに変わった。この手じゃやりにくいだろうから、少し後ろに回ってつけてやる。
「ほら、首飾りのカード。もう落とすなよ」
「……あ、ありがとワヌ」
俺はしゃがんでフォッシャに渡す。カードは首飾りになって、ふたたびフォッシャの首元に戻った。
フォッシャは安心したのか、表情におだやかさを取り戻す。
「でも、よくあの劣勢から巻き返せたワヌね。ヘンなハプニングもあって……」
結局俺がダメージを食らうのは、なんなのだろうな。考え当たる節は、ないでもないんだが。
「エイトのあのエースカードは強力だったけど、もう片方は……弱かったし……トリックカードも……安物だし……もしや!」
カッ、とフォッシャは目を見開く。
「エイトって……カードの天才!?」
「フォッシャ、わかってないな。カードは信じてやらないと、そのカードがどんなに強くても力を発揮しない。だが逆に、信じてやればどんなカードにも意味がある。魂が宿るんだ」
「……おお……! ほ、本当に初心者ワヌか…?」
「……なんてな! 適当に言ってみただけだよ」
そう言って俺は、アッハッハと高らかに笑う。怪我をしたところは痛むが、勝てたので機嫌がいい。
「なっ……! もう! ちょっと感動しちゃったワヌよ」
「運がよかったんだよ、運が」
自分で言っていても、可笑しい。
カードに魂が宿るだって? そんなのあるわけない。
だけど……この世界なら本当にあるのかもな。
カードとの絆ってやつが……
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