「では、なんでも言うことを聞いていただきましょうか?」
アーデルハイトはアベラルド男爵の執務室にて満面の笑みを浮かべていた。
男爵との約束では、3日の内に山賊を捕らえてくればなんでも願いが聞き届けられるはずだった。
彼女の握りしめたロープの先には、山賊の首領がグルグル巻きになっている。
「あ……、ああ、ありがとう」
アベラルド男爵は渋い顔をしていた。
まさか、たった一人で古城に立て籠もる山賊を打倒し、その首領を捕縛してくるなど夢にも思わなかったからだ。
しかも、この縄でグルグル巻きにされている山賊の首領は『怪力ワーグナー』と近隣に恐れられていた大男であり、男爵が古城に兵を向けなかった一つの理由でもあった。
明らかに男爵はア―デルハイトの実力を見誤っていたのだ。でも多分普通の人には見抜けないだろうが……。
「お礼は金貨100枚でどうかな?」
レディーファーストとして有名な男爵は、優しい仕草でアーデルハイトに席を薦めた。
「いえ、男爵殿の領地を全部ください!」
「ぇ? 全部!?」
「はい! ぜぇぇぇんぶです (∩´∀`)∩~♪」
「なんだとぉぉぉ!? ヽ(*`Д´)ノ」
満面の笑みのアーデルハイトに対し、だんだんと顔が引き攣る男爵。その様子を見ていた男爵のメイドにいたっては、お湯の入っていたポットを手から滑り落としてしまう。
「男爵殿の代わりに、私がこの土地を上手に治めます!」
「ふ……ふざけるな!!」
ついに男爵の堪忍袋の緒が切れてしまった。なにしろアーデルハイトの見た目はお人形のような可愛い女の子である。しかも女性の平均身長より少し小さい。
そんな小娘のような存在が『私の方が上手に土地を治める』と宣言してきたのだ。貴族の矜持と尊厳が無様に冒されたといってもよかった。
「見ず知らずの者に、先祖伝来の土地はやれぬ!」
男爵はそう言い放つと、近くで控える家来へ鋭い目線で合図した。
ドアを開けドカドカと音をたてて、警護の者も次々に入ってくる。
主人が変われば家来も失業する。この社会においては領主のみならず、家来もまた世襲でその職を得ていたのだ。よってこの場合、家来の戦意はとても高かった。
……しかし、
「いやあ……、きつく縛られていたから手が痛いや」
Σ( ̄□ ̄|||) ぇ!?
男爵の家来たちは突然に話が違うといった形相になる。縛られていたはずの『怪力ワーグナー』の縄がいつの間にか解かれていたのだ。
「アーデルハイトご領主様! このならず者たちを如何にしましょう!?」
怪力で鳴らす大男がそういい、指をパキパキと鳴らし始める。
それを見て、青ざめる男爵と男爵の家来たち。
遠距離兵器である弓もここには無く、男爵とワーグナーとの距離は心理的に指呼の間にも映った。
実はこの中で最も怪力で危険な存在なのはアーデルハイトなのであるが、男爵や男爵の家来たちがそう思うはずはない。
「か……勘弁してくれ……、でも領地はやれぬ、他のことならなんでも聞く」
不利を悟った男爵は、手と膝をついて小娘であるアーデルハイトに慈悲を乞うた。涙もたくさん流した。この小娘は自分の演技の前に絶対に屈すると……、
……結果、
「いいでしょう」
ヤッタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
馬鹿な小娘を見てやろうとチラリと目線を上げると、いつのまにか彼の領内の各村の村長たちがおり、にこやかに一斉に要求嘆願書を突き付けてきた。
(;’∀’)……ぇ???
「「「この契約書にサインを!!」」」
彼は突き付けられた契約書に一通り目を通すと、税収計画やら領内整備計画やらの文言がぎっしり詰まっていた。
「わたくしは領地が欲しいので、サインを頂かなくて結構ですよ」
男爵には椅子にてお茶を飲み寛ぐアーデルハイトが嘘を言っているように見えたが、実は彼女の本心だった。なにしろ彼女の目標はフーデマン家の再興なのだ。
彼女は内心領地がとても欲しい。
領地ほしぃいいいい ヽ(`⌒´)ノむっき~♪
余談だが、彼女はこの機会を逃した後に領地を得ることにはなる。しかしそれはここよりもとても小さく、さらにはかなり先のことだった。
「わ……わかりました。サイン致します」
結局、アベラルド男爵は羊皮紙に記された公文書にサインをした。
更にはそのことをアーデルハイトにの要請により、先祖代々の剣に誓わされてしまった。
……ぐったりとうなだれる男爵 (´・ω・`)
「あ……、あと私への金貨100枚も忘れないでね♪」
……さらにぐったりとうなだれる男爵 (´つωt`)
……後年、アベラルド男爵はその民衆想いの優れた領内経営により『南部のボルドー卿』とまで称えられるようになる。
その噂を聞きつけたハリコフ王国宰相のドロー公爵に見いだされ、アベラルド男爵はハロルド王太子教育係兼ハリコフ王国次席内務官に就任。ついにはアベラルド家は大臣の列に名を連ねる名家となった。
しかし、その起点に何があったかは、今日まであまり知られてはいない。
……もちろんアーデルハイトにも、その心当たりは全然ありませんでした。
めでたしめでたし (゜∀゜)/~♪
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