キルコ視点。
私達は、貴重品がこのダンジョンにあるといわれて。この場所に来た。
ギルドで突然ノダルとかいうこの辺りでランクの高い冒険者に出会った。
彼は今クエストが立て込んでいて忙しいらしくとあるクエストを私達に委託したいと尋ねてきたわ。
「待ってくれよ、Aランク相当なんて難しくないか?」
リーダーであるシアンがそう問い返した。確かに、私達はパーティーを組んだばかりでコンビネーションとかも未知数。
私も不安になった。けれど──。
「大丈夫だよ。Aランクといてもそこまで強い敵がいないみたいだし。それにそこのキルコとミュアは元Aランクなんだろ。楽勝だよ。俺が保証する。それに、この報酬見てみろよ、破格だぜ──」
その言葉に、私とミュアはどこかうれしい気分になる。自分たちを認めてくれたみたいで……。
おまけにその報酬に私たち全員が目を輝かせた。金貨五十枚という今まで見たことがないくらいの数字。
正式な書類だから嘘ではないのはわかる。私達は大きく盛り上がり、このクエストの委託を引き受けることを決めたのだ。
それが、私に惨劇をもたらすということも知らずに──。
そして私達は地図を頼りに出発。途中道に迷ったりして時間がかかってしまったものの、何とか目的の山に到達。
そこから真っ暗な洞窟へ。
真っ暗で先がよく見えないダンジョン。ミュアの明かりを照らす魔法を使い先へ進む。
途中、魔物たちが襲い掛かってくる。組んだばかりのパーティーで拙い連携の私達だったけれど、敵がそこまで強くないこともあり、何とか先へと進む。
以前までの仲間達だったら、こんな敵たち瞬殺だったんだけどね──。
ノダルってやつの情報は嘘ではなかった。道端には高く売れそうな宝が時折落ちていた。
そのたびに私達の気分は高まっていく。
「これすごいな。高く売れそうだぞ──」
「そうよね。これなら私たち、早くランクを上げられそうね」
そしてそれらの宝をカバンに加えながらダンジョンを奥へと進んでいく私達。
やがて私達は狭い道を抜け、広い部屋のような場所へとたどり着く。
広い部屋の中央にたどり着くと、何かの鳴き声が聞こえだす。
「キ────」
「キキキキキィィィィ──」
茶色くて小柄な肉体。確か以前見たことがある。
「あれ、ゴブリンだよな」
「ああ」
シアンや他の仲間が恐れながら口を漏らす。
そう、ゴブリンというやつだ。それも一体じゃない。
正確にはわからないが、十体以上入る。
それに子供だっている。どうやらここはゴブリンの巣みたいね。
キーキーと彼らはにらみつけながら言葉を発している。
彼らの言語こそわからないが私達に敵意を持っているのがわかる。
「戦うしか、無いみたいだ。みんな、戦うぞ」
私達はいっせいに武器を取り、ゴブリンたちと対峙。
「ミュア、戦うしか道はなさそうね」
「……それしかないわよね」
他の仲間達も戦う準備をする。
「絶対勝とう。行くぞお前たち!」
そして私達とゴブリンたちとの戦いが始まった。
前線の冒険者たちがゴブリンたちと戦闘が始める。私とミュアは後方で彼らのサポートをする。
戦闘が始まってしばらく──。
私達は苦戦を重ねていた。
「なんだこいつら、すばしっこいぞ」
「やばい、集団戦に強すぎでしょ」
こいつら、一人一人は大したことない癖にコンビネーションが半端なくいい。
正面から対峙させたスキに後方からもう一人が襲い掛かっていくのだ。
動きも素早く私とミュアの攻撃がなかなか当たらない。
一人、また一人と吹き飛ばされ前線は崩壊状態。
「なんだこいつら、強すぎだろ──」
そして前衛が突破されゴブリンたちが私の方へと向かってくる。
仕方ない、近距離戦闘は、あまり得意じゃないけどミュアよりはできる。
「ミュア、私の援護をお願い!」
「うん!」
そしてミュアを後方につかせてゴブリンとの戦闘が始まる。最初のゴブリンは、私の攻撃で撃破。
しかし──。
後方のゴブリンが私の武器を弾き飛ばす。これで私は無防備になる、そして正面のゴブリンは私を思いっきり突き飛ばした。
私が起き上がろうとした瞬間他のゴブリンたちが素早く私の腕や足に絡みついてきて起き上がることができない。
完全に押さえつけられてしまった形になる。
正面のゴブリンはにやりとよだれを垂らしながら私を見つめている。
私の本能が、感じている。この後に何が待ち受けているかを──。
身体が恐怖でいっぱいになり、死に物狂いでゴブリンたちから脱出しようと暴れた。
おぞましいとしか言いようがない。
ミュア視点。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
キルコは懸命にゴブリンたちから逃れようともがくが、手足を押さえつけられていて逃げることができない。
そして他のゴブリンたちがキルコの服を乱暴に破いていく。
要領がいいのか、暴れもがくキルコの肌が次々と露出してしまう。
「キルコ!!」
私は慌ててゴブリンたちの間に入り、キルコを助けようとする。
私は体力がなく、接近戦は全くできない。無理に突っ込んでいったところであんな風にされてしまうだろう。
そんなことはどうでもよかった。早くキルコを助けなきゃ!
しかし、誰かが私の腕をぎゅっとつかみ、引っ張ってくる。
「ミュア、仕方ない。逃げるぞ!」
「い、イヤ! キルコがキルコが──、助けないと」
私の必死の願いもむなしく、他の仲間たちは尻尾を巻いてダンジョンの出口へと逃げていく。
「し、仕方ないだろ。戦ったって全員やられるだけだ。あれは、見捨てるしかないだろ。悔しいけれど──」
非情なシアンの言葉に私は言葉を失ってしまう。
考えてみればそうだ。私達はいろいろなパーティーからはぶられたり、居場所を失ったりして寄せ集めでできたパーティー。
フライやアドナたちの様に幼なじみで子供のころからずっと戦ってきたパーティーとは違う。
彼らだったら、一人がピンチになっても文句を言いながら戦っていたとは思う。
けれど、シアンたちはそんな思い入れなんてない。
だからピンチになったら簡単にわが身第一となり仲間であろうと切り捨てる。
当然のことだったわ……。
それに、私達が突っ込んでいったところで返り討ちに合うのが関の山。私も同じ目に合うのは目に見えている。
ごめん、キルコ……。私、守れなかった──。
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