~唯一王の成り上がり~ 追放された「加護」使いの英雄碑

主人公フライが大活躍 王道系、成り上がり×追放ストーリーです
静内
静内

第204話 強く、なれる

公開日時: 2022年4月29日(金) 18:15
文字数:2,032

「ありえないですわ──セファリール様が敗れるなんて」


 他の熾天使たちは、動揺を隠せず互いにきょろきょろと顔色を窺っている。


「それも、私達が見捨てたはずの人間なんかに……」


 その言葉に反論したのはフリーゼだ。


「そんな考えだから、負けたんです。彼らは、私達が思っているよりもはるかに強くて、素晴らしい存在です」


「そんなことないわ」


「そうよ! あんな下劣な奴ら、滅ぼすべきなのよ!」


 他の熾天使たちから、反論の言葉が聞こえる。


 彼女達も、セファリールの様に人間を信じ……そして裏切られてきたのだろう。

 欲望にまみれた醜い姿を見て、あんな答えを出してしまったのだろう。


 否定はしない。

 俺だって今まで、いろんな人と接してきた。幼いころから一緒だった仲間に役立たずだと切り捨てられた身だし、それ以外にも人間の醜い部分をいろいろ見てきた。


 それでも……。



「確かに俺たち人間は弱い所だってある。俺もそう言った所は見てきたし、切り捨ててしまえなんて答えを出したのだって理解出来る」


「そうです、だったら!」


 セファリールが強く出たところに、俺はその言葉にかぶせるようにして言葉を返す。


「けれど、弱くて醜くなるだけが人間じゃない。強くなれるんだ」


 その言葉にセファリールははっとした表情になり、じっと俺に視線を向けた。


「強く……なれる?」


「そうだ。大切な人や街を守りたいって、そう心から思って、戦えるんだ」


「そう……なんですか?」


「ああ。俺だってそうだ。決して強いわけじゃ無かった。折れそうになったことだってあった。けれど、フリーゼやレディナ、みんなが支えてくれたから、俺はここまで来ることができた」



「そうね。私から見ても、大丈夫かなって思った時はあったわ。けれど、フライはそれを乗り越えてここまで来た。だから、フライの言うことは、とても説得力を感じるわ」


「私もです。フライさんが、いつも苦しんで、それでもみんなために、私達のために必死で戦っていました」


 レディナとフリーゼの言葉、そう思ってくれたのがとても嬉しい。


「そうだ。だから、例え俺たちが信用できないって思っても、見捨てないでほしい──。その陰で、そんな今を何とかしようともがいている人だっているはずだから……」


 セファリールは、その話を聞いてそっと胸に手を当てた。何か、心当たりでもあるのかのように……。



「そうですね。もう一度、彼らと力を合わせてみようと思います」


 セファリールに、俺達の言葉は届いてくれたようだ。額を手で押さえ、シュンとした表情になる。


 他の熾天使たちも複雑な表情になり、キョロキョロと互いに顔を合わせているのがわかる。

 今度は、ツァルキールの方を向き、言葉をかける。


「ツァルキール。人から話を聞くだけじゃなくて、実際に話を聞いて、人々を見て答えを出してほしい。そうすれば、今回みたいに気付かないうちに人々を傷つけていたなんてことは無くなる」


「わかりました」


 ツァルキールが口元に手を当てながら言葉を返す。真剣な目で、俺をじっと見つめている。

 大丈夫、見た感じ彼女は素直で人の心を理解できる人だ。心を込めて話せば、ちゃんと理解してくれると思う。


 そして、両手をお腹に当てお行儀よく頭を下げた。


「ありがとうございます、フライさん。あなたのおかげで、私も、熾天使の人も、大切なものを思い出しました。このご恩は、忘れません」


「そうね、あんた達だって、最初は信じてたんだもんね、人間たちのことを……」



 レディナの言葉、熾天使たちの表情から察するに、嘘ではないのだろう。

 確かに、誰だって感情というものはある。最初こそ理想を持っていて、そのために戦っていても、人間たちの醜い部分に触れて揺らいでしまう。



 ありえない話ではない。

 けれど、もう一度強い想いに触れることで、その心を取り戻すことだってある。


 それが、叶ったのだ。

 セファリールがその心を取り戻したようで、さらに話しかける。


「私も、あなたの強い想いと、言葉に心を動かされました。もう少し人間たちを信じてみようと思います。苦しい中で、もがいて何とかしようとしている人の、力になってみようと思います」


 他の熾天使たちも、罪悪感を感じているようで、それぞれ声をかけてくる。


「私も、そうしてみる」


「信じてみましょうか……」


「ええ」


 言葉を聞く限り、今までとは考え方を変えてくれそうだ。


 そしてツァルキールがもう一度頭を下げて、最後の言葉をかけてきた。


「またどこかで、会いましょう。あなたと会えて、本当に良かったです」


「こっちも、あなた達と会えてよかったです。機会があったら、会えるといいですね」


 俺達は大きく手を振る。ツァルキールや熾天使の人たちも、それに合わせるように大きく手を振ってくれた。



 厳しい戦いだったけれど、彼女達の心に届いた。


 これで、ひとまず激闘は終わった。

 これから、どうしようか……。


 考えながら元来た道を変える。



 取りあえず、街に帰ろう。そして、フリーゼとの約束を果たそう。





 フリーゼと、一つに結ばれる約束を──。



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