冷静にハウゼンの力の種を理解したメイルに、ハウゼンが突っ込んで来る。
(大丈夫。私なら、出来る──)
そしてメイルは目をつぶったままハウゼンの攻撃をかわした。
ハウゼンは一撃目を交わされた時点で焦りだし、後ずさりながら攻撃を加える。
なぎ払い、振り上げ。しかしその攻撃はどれもメイルに交わされる。そしてスッとハウゼンの攻撃をかいくぐり、彼女の槍の、柄の部分をたたきつけた。
意表を突かれたハウゼン、いったん後方へ逃れようとするも、その瞬間をメイルは逃さない。
一気に剣を切り上げる。
ハウゼン、何とか剣の間合いから逃れるものの、メイルは切り上げた剣から魔力を放出。
その攻撃がハウゼンに直撃。
そのままハウゼンの体は後方に吹き飛び、ギリギリで着地した。
「ふぅ……。とんだ小細工をするねぇ小娘」
ハウゼンの質問に、メイルは答えない。冷静な口調で、別の質問をする。
「貴様の実力さえあれば、裏社会から抜け出てもそれなりに良い身分に離れたはず。なぜ──こんな稼業を続けている!」
ハウゼンを、真剣な表情でじっと見つめる。
すると、今まで薄ら笑いを浮かべていたハウゼンの様子が変わる。
ゆがんだ、憎しみ満ちた表情へと変貌していく。
「ふざけるな。貴様たちに、私達の何がわかる!!」
「──何が言いたい。吐き出して見ろ」
メイルは、ハウゼンの過去は全て知っている。王国でも、そこそこ名の知れた存在だからだ。
それでも、彼女の抱えている感情について、興味があったのだ。
「貴様らの様に、まっとうに生きる道など私にはなかっただね。私には、この道で生きる以外、無いのさ」
ハウゼンは元々、この街の冒険者としてそこそこの位置にいた。しかし、大きな魔物が近郊に現れた。その中であの王族たちの立てた無茶苦茶な作戦によって駒の様に使い捨てられ、たくさんの仲間や部下を失った。
そして王族たちは責任逃れのため、その責任をハウゼンに擦り付けたのだ。
彼女が無能だったせいで負けた。俺たちは悪くない。
と──。ハウゼンは実力がないわけではないが、それを打ち消すほどの名声があったわけでもなく、部下たちを失った責任と取らされ、冒険者としての資格をはく奪されたのだ。
「これはな、復讐なんだ。私達を見殺しにしたやつらに一泡吹かせて、同じ屈辱を味合わせてやると──」
ハウゼンが精一杯の声で叫んで、メイルを指さす。メイルは、真剣な表情のまま動じない。
「だったら、暗殺の技術でも学んで憎い奴だけ復讐すればいいだろう。なぜ無実の人たちを巻き込む必要がある。そんな、子供の八つ当たりみたいな理由で、無実の人々を傷つけさせるわけにはいかない」
「黙れ、私が無実の罪を着せられた時。誰も私のことを助けようとしなかった。保身のため、誰もが私を負け犬呼ばわりした。だからこの王国に復讐してやるのさ──」
その言葉に、メイルは下を向き、ため息をついてただ一言。
「呆れた──」
「何だと。初めから周囲の奴らに恵まれ、愛されていたようなやつが、まっとうな道を、歩く権利を持ったやつらが、知ったような気持ちで上から目線で──。そんな奴に、私の気持ちがわかってたまるか」
ハウゼンは今までにないくらい感情を荒立て、激高する。しかし、メイルは全く動じない。冷静な表情のまま、ハウゼンをじっと見つめる。
「皆殺し? かつての仲間たちが、そこにいてもか?」
「なっ──。どういうことだ?」
ハウゼンの表情が変わる。歯ぎしりをして、ゆがんだ顔つきになり、今までにないくらい怒りの感情をむき出しにしてメイルをにらみつけた。
「その中に、かつての仲間たちがいても、お前は同じことができるのか? そういうことだ」
「ふざけるな、仲間達を見殺しにしておいて、何を抜かす」
そしてハウゼンが再びメイルに突っ込んできた。
さっきよりはるかに強い威力の斬撃。
メイルは攻撃を受けながら感じた──。これが、彼女の力の正体なのだと。
王国への怒り、自分を失脚させたやつらへの憎しみ。
強く、深い憎悪。
そして攻撃を受け、すぐに気が付いた。
(ハウゼンの攻撃が変わっている──)
力が強くなった分、感情任せの攻撃となっている。
さっきまでの滑稽で対応しにくい攻撃は影を潜め、力づくで単調な攻撃へと変わってった。
「精神を乱しているな。今までの戦い方の方が、ずっと戦いにくかった──」
メイルは、淡々とハウゼンの攻撃を受けていく。
さっきの様な、滑稽な強さがあった時より、よほど対応しやすかった。
「黙れ黙れ。貴様を、必ず亡き者にする。覚悟しろぉぉぉぉ!!」
そう叫んで、ハウゼン、メイルの方へと突っ込んでいく。
「来い──。お前の想い、全て受け止めてやる!」
メイルはスッと身をかがんで、ハウゼンに向かって突っ込んでいく。
ハウゼンは、メイルをくし刺しにせんとメイルの頭目掛けて渾身の突きを繰り出した。
メイルを殺さんとする、今まででも一番威力を高くした一撃。
ハウゼンの繰り出した突き。その槍の、柄の部分でも穂に近い場所に自らの切っ先を当てたのだ
口で言うのはたやすいが、簡単な事ではない。技術的なことももちろんだが、刃の部分に当たったり、数ミリでも外したら死というプレッシャーの中でそれを、メイルはやり遂げたのだ。
そしてそのまま切っ先を上にあげる。切っ先はくるりと円を描くようにして攻撃を受け流し、メイルの体はそのままハウゼンの胴体へと進む。
攻撃的になり、身体が前のめりになっているハウゼンになすすべはない。メイルはそのまま剣を回転させ──。
「これで──、おしまいだ」
そのまま剣を振り上げ、ハウゼンの胴体を切り裂いた。
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