そして、数日間の間、街の下見をしたり、体を休めたりして、いよいよ闇市へと潜入する。
夕方。オレンジ色の空、夕日が落ちかけている時間帯。
ホテルの外、俺達は集まった。
「フライ、準備は大丈夫?」
「大丈夫だよ、ミュア」
「私も大丈夫です」
「じゃあ、出発よ」
そして俺たちは出発。
人通りがそこそこある大通り。
取りあえず、この後のことについて話しかけてみる。
「ミュア、闇市に着いたら一緒に行動する? それとも、別れた方がいいかな?」
闇市についてから、何があるかわからない以上、まとまった方が身の安全は確保しやすい。しかし、何かを探すなら別れた方がいい。流石に単独はまずいから二手か──。
すると、ミュアが残念そうな表情で顔の前で両手を合わせる。
「ごめん。それは無理みたい」
「参加証が、確保できなかったのよ。だから中に入れるのはあなたたち二人だけ。
キルコも、どこか残念そうな表情をしていた。
「そ、そうなんだ。ごめん──」
俺は罪悪感を感じ軽く頭を下げる。
ミュアは、大丈夫だと言わんばかりに両手を振って、作り笑顔をふるまう。
「大丈夫大丈夫。私達が入ったって、足手まといになるだけだし。ね、キルコ──」
「まあね、無理して強い奴のところにいったって、ろくなことにならないもんね」
キルコが言うと説得力がある。
以前ゴブリンたちに滅茶苦茶にされたもんな。
キルコはそれを思い出したのか、気まずそうな表情で髪を撫でた。
「スキァーヴィのことだって、情報は入ってるよ。私じゃ、絶対勝てないような強さだって。だから、いいやって思ってる」
「私達は、あなた達のお役に立てればそれいいか。これからレディナだっけ、あの人達の迎え、行くことになっているの。ね、キルコ」
「そう、あの人たち、もうすぐ着くみたいだから」
ああ、レディナ達か。三人は遅れて別々に来るんだった。
「じゃあ、これからもよろしくね」
「任せて、フライ」
ミュアのどこか自信を持った言葉。俺の名を言っちゃったけど、なんていうか、どうでもよくなった。
これからも、二人とも報われてほしいと思う。
それからしばらく歩く。夕日が完全に落ちて夜になる。
一般層の人が住んでいるエリアから、治安が悪そうな、貧困層の人が住んでいるスラム街のようなエリアへ。
道の脇にはゴミが投げ捨てられていたり、ボロボロの服を着ている貧しそうな人が、腰を曲げ、悪そうな姿勢で歩いていたり、いかにも悪そうな人が多いエリアだと感じた。
そして、そこを抜けてすぐに、それは現れた
この辺りでは一番大きな建物。
大きな入り口には、警備役らしき兵士の人。そこにいろいろな人が並んでいる。
「あそこよ」
「随分人が多いですね」
「表向きは兵器や商品などの展示会だからよ、フリーゼ」
キルコの言葉に俺は納得する。
確かに、違法なやり取りをするにしては大々的に人が集まっている。
表向きは合法的な市場で、実は違法なものになっているということか。
「ちなみに、この裏に兵務庁、その隣に大商会のが建物あるわ」
「いい情報、ありがとうキルコ」
入口に立った俺たち。
そして俺たちとミュア、キルコはここでお別れ。
「二人とも、ありがとう」
「こっちこそ、生きて帰ってきてね」
ミュアの言葉、必ず帰ってきてみせると誓う。二人とも、本当に助かった。
一時は俺のことを追放したりしたけど、今はこうして俺たちに協力してくれている。
俺は、そのことがすごくうれしい。
二人の想いにこたえるためにも、この作戦絶対に成功させよう。
そう強く、心に誓った。
──行こう。
それから、門番の兵士に参加証を見せると、建物の中へ。
赤じゅうたんが敷かれた、豪華そうな道。
そして大きな地下へと続く階段。
人々はその階段を下っている。
俺達も同じように階段を下って、石造りの薄暗い道。
その先に大きな広間と、警備の人らしき姿。
方角的に闇市が開かれるのは、街の軍をつかさどる兵務庁の隣にある、大商会のビルの地下。
これは、本格的にきな臭くなってきた。
そして入口へ。
黒いタキシードをまとった俺に、ブラックドレス姿のフリーゼがギュッと手をつないで中へと入っていく。
入り口では黒服のガードマンによる厳重なチェック。
体を触れられ、危険なものがないか調べられる。
俺もフリーゼも特に問題はなく通ることができた。
そして、闇市へと入って行った。
周囲の商人たちの言葉から、この場所は地下市場といわれているらしい。
地下市場の名前の通り、表の市場では売られていない様々なものが売られていた。
見たことがない希少な肉や魚。古代の金貨や、聞いたことがない画家の美術品。
そして、フラスコの瓶にある明らかに怪しい薬品の数々。
緑色だったり青だったり。
「これは、なんの薬ですか?」
フリーゼが首をかしげながら呟くと、その出店の腹が出たおじさんの商人がにやりと笑った。
「兄ちゃん、この薬吸ってそこの妻とヤッてみなよ。天国じゃないかってくらい気持ちくなれるぜ!」
「……やめておきます」
「じゃあ、一つだけ……」
「やめてフリーゼ。どんなものかわからないんだからさ!!」
俺はきっぱりとNOを告げる。フリーゼは、顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!