~唯一王の成り上がり~ 追放された「加護」使いの英雄碑

主人公フライが大活躍 王道系、成り上がり×追放ストーリーです
静内
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第169話 唯一王 スキァーヴィの過去を知る

公開日時: 2022年1月28日(金) 20:21
文字数:2,670

 次の日、俺達は街の様子を少しでも知ろうと街中を歩いていた。


 色々な人が買い物をしていたり、楽しそうに歩いたりしているにぎやかな街中。

 繁華街の中を二人で歩いていた時、事件は起こった。


 トントン──。




 誰かが俺の肩をたたく。後ろを振り向くと、一人の女の子が服のすそを掴んでいる。


 肩が露出したワンピースにひらひらのミニスカート。

 淡いぽわぽわとした髪。あどけない顔つき。


 人見知りなせいか、うつむいたまま話しかけてくる。

 か弱くて、かわいらしい女の子という印象だ。


「す、す、すいません。よろしいでしょうか──」


 ボソッとした小さな声。俺は、戸惑いながら言葉を返す。


「な、何でしょうか……」


 女の子は俺とフリーゼに接近して耳に手を当て、ささやいた。


「青の髪の人、精霊ですよね……」


「え──」


 フリーゼは今、変装のため髪色を変えている。予想もしなかった言葉に俺もフリーゼも言葉を失ってしまう。


「い、いきなり、どうされたのですか?」


「私、生まれつきわかるんです。もしかして、スキァーヴィに関することでここにいるんですか?」


 突然の出来事に動揺する俺とフリーゼ。

 どうすべきか、街に秘密警察がいる以上、こういう所でフリーゼのことを話されるのはまずい。


 それに気づいたのか、フリーゼが優しく話しかけた。


「とりあえず、立ち話もあれなので、どこかの店に入りましょう」


「そ、それもそうですね……」


 そして俺たちは付近を捜し、手ごろな飲食店を見つけ、店の中に入る。


 街の中にある静かな雰囲気のカフェ。食事時ではないということもあり、店内にあまり人はいない。

 みな読書をしていたり、たわいもない会話を楽しんでいたりしている。


 ウェイターに案内され、店の一番奥の席へ。

 周囲に客はいない。これなら盗み聞きはされなさそうだ。


 俺と女の子はホットコーヒー、フリーゼはミルクティーを頼んだ。

 そしてウェイターの人が机から離れた瞬間に話しかける。


「とりあえず、自己紹介から始めようか」


 俺の言葉に女の子はちょこんとおとなしく座りながら答える。


「私、ソルトと言います」


「俺は……フライ」


「私は、フリーゼです」


 周囲を見回したが、一般人しか店の中にいない。


 流石に店の中にまで秘密警察はいないだろう。この後のことも考え、俺もフリーゼも本名を言った。



 両手を膝のあたりにつけ、スカートをぎゅっと握っている。


 色々聞きたいことはあるけれど、どうしようか……。

 するとソルトは出されたホットコーヒーに一さじの砂糖を入れて一口飲んだ後、そっと話し始めた。


「スキァーヴィと、幼なじみで、子供のころはよく遊んでいたんです」


 これはかなり重要だ、スキァーヴィのことが、何か分かるかもしれない。


 ソルトの話によると、彼女は元々下級商人の末っ子だった。

 スキァーヴィとは、街で偶然出会った存在で、よく遊んでいるうちに仲良くなったらしい。


「もともとはおとなしい子だったんです。気が弱くて、いつも私の隣にいてくれて──」



「じゃあ、どうして彼女はあんな性格になっちゃったんだ?」


 俺の頭に、恐らくフリーゼの中にも大きな疑問が浮かぶ。

 ソルトが言っているスキァーヴィの過去。それは今の彼女とは正反対といってもいいほどのものだ。


 ソルトは、暗い表情でうつむいたまま答える。


「それなんですけど、精霊の気配がわかるんです」

「えっ──そうなんですか?」


 だからフリーゼのことも理解できたんだ……。


「私の、物珍しい力。当然、色々な人に狙われました。闇商人だったり、秘密警察だったり、私の力を利用して、いろんな人が利益を得ようと近づいてきました」


 中には無理やり拉致しようとするやつもいたとか──。



 スキァーヴィは、そんな奴らからソルトを守ろうとして、戦っていたらしい。

 しかし、当時は魔法が仕えるとは言っても並程度で、返り討ちにボコボコにされたり、そのスキに闇商人に一緒に拉致されかけたこともあったとか。



 予想もしなかった事実。驚くばかりだ。



「私、いつも気が弱くて、人見知りで──。よく暴力を受けたりされていました。スキァーヴィはそんな私を守ろうとしてくれていたんです」



「あの人の、意外な過去ですね」


「……そうだね」


 確かに、そんな生い立ちは予想できなかった。


「ただ どんどん強さを求めていくうちに、変わっていってしまったんです。それがすべてだというふうになってしまって。性格も、優しい性格からどんどんきつくなって」


「そ、そういうことだったんですね……」


「あんなスキァーヴィ、もう見たくないよ……」


 ソルトは、悲しそうに顔を覆った。

 俺とフリーゼは、互いに顔を見合わせた後、コクリとうなづく。

 確かに、ソルトにとってはつらいだろうな……。


 自分のことを必死に守ってくれた人。それがソルトを守ろうとしたがために強くなり、性格があそこまで変質してしまったのだから。


「それから、見る見るうちに強くなったスキァーヴィは──買われました、政府に。私の周り見張りを付け、手出しした者を問答無用で死刑にするという条件で──」


「そして、ソルトに手出しする者はいなくなり、平和に暮らせるようになったと──」


「はい。まあ、秘密警察こそいますが、何もしなければ問題ありませんし……」


 そういうことだったのか。


 スキァーヴィのおかげで、今の自分がいるってことなんだ。

 何とかしてあげたいという気持ちはある。それに、ソルトの力はかなり重要なものだし、ただスキァーヴィを倒せば解決するというわけではないような気もする。


 そう話しているソルトの握りこぶしが、強くなっているのがわかる。

 それなら、出す答えは決まっている。


「分かった、俺達も協力するよ」


「あ、ありがとうございます……」


 ソルトははっと微笑みだし、立ち上がるとぺこりと頭を下げた。

 それから、今後の予定について話し始める。


 数日後に控えた闇市のことも。もっとも、ソルト自身は参加できないのだが。

 それから、ソルトから家の場所を聞き出し、俺は泊っているホテルの場所を教えた

 それが終わり、店を出る。


「じゃあ、これからよろしくお願いしますね」


「こちらこそ、よろしくね」


 互いに握手をして、この場を去っていく。


 まさか、スキァーヴィにこんな親友がいたなんて思いもしなかった。


 そして、スキァーヴィの意外な過去も理解することができた。



 自分の弱さ、それでもソルトを救うため、強くなろうとして、あんな姿になってしまった。

 けれど、だからと言って彼女たちのやっていることが正しいとは思えない。それに、こっちだって、天使たちのことを調べなきゃいけない。


 複雑な思いはあるけれど、良い結果になるように頑張っていこう!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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