次の日、俺達は街の様子を少しでも知ろうと街中を歩いていた。
色々な人が買い物をしていたり、楽しそうに歩いたりしているにぎやかな街中。
繁華街の中を二人で歩いていた時、事件は起こった。
トントン──。
誰かが俺の肩をたたく。後ろを振り向くと、一人の女の子が服のすそを掴んでいる。
肩が露出したワンピースにひらひらのミニスカート。
淡いぽわぽわとした髪。あどけない顔つき。
人見知りなせいか、うつむいたまま話しかけてくる。
か弱くて、かわいらしい女の子という印象だ。
「す、す、すいません。よろしいでしょうか──」
ボソッとした小さな声。俺は、戸惑いながら言葉を返す。
「な、何でしょうか……」
女の子は俺とフリーゼに接近して耳に手を当て、ささやいた。
「青の髪の人、精霊ですよね……」
「え──」
フリーゼは今、変装のため髪色を変えている。予想もしなかった言葉に俺もフリーゼも言葉を失ってしまう。
「い、いきなり、どうされたのですか?」
「私、生まれつきわかるんです。もしかして、スキァーヴィに関することでここにいるんですか?」
突然の出来事に動揺する俺とフリーゼ。
どうすべきか、街に秘密警察がいる以上、こういう所でフリーゼのことを話されるのはまずい。
それに気づいたのか、フリーゼが優しく話しかけた。
「とりあえず、立ち話もあれなので、どこかの店に入りましょう」
「そ、それもそうですね……」
そして俺たちは付近を捜し、手ごろな飲食店を見つけ、店の中に入る。
街の中にある静かな雰囲気のカフェ。食事時ではないということもあり、店内にあまり人はいない。
みな読書をしていたり、たわいもない会話を楽しんでいたりしている。
ウェイターに案内され、店の一番奥の席へ。
周囲に客はいない。これなら盗み聞きはされなさそうだ。
俺と女の子はホットコーヒー、フリーゼはミルクティーを頼んだ。
そしてウェイターの人が机から離れた瞬間に話しかける。
「とりあえず、自己紹介から始めようか」
俺の言葉に女の子はちょこんとおとなしく座りながら答える。
「私、ソルトと言います」
「俺は……フライ」
「私は、フリーゼです」
周囲を見回したが、一般人しか店の中にいない。
流石に店の中にまで秘密警察はいないだろう。この後のことも考え、俺もフリーゼも本名を言った。
両手を膝のあたりにつけ、スカートをぎゅっと握っている。
色々聞きたいことはあるけれど、どうしようか……。
するとソルトは出されたホットコーヒーに一さじの砂糖を入れて一口飲んだ後、そっと話し始めた。
「スキァーヴィと、幼なじみで、子供のころはよく遊んでいたんです」
これはかなり重要だ、スキァーヴィのことが、何か分かるかもしれない。
ソルトの話によると、彼女は元々下級商人の末っ子だった。
スキァーヴィとは、街で偶然出会った存在で、よく遊んでいるうちに仲良くなったらしい。
「もともとはおとなしい子だったんです。気が弱くて、いつも私の隣にいてくれて──」
「じゃあ、どうして彼女はあんな性格になっちゃったんだ?」
俺の頭に、恐らくフリーゼの中にも大きな疑問が浮かぶ。
ソルトが言っているスキァーヴィの過去。それは今の彼女とは正反対といってもいいほどのものだ。
ソルトは、暗い表情でうつむいたまま答える。
「それなんですけど、精霊の気配がわかるんです」
「えっ──そうなんですか?」
だからフリーゼのことも理解できたんだ……。
「私の、物珍しい力。当然、色々な人に狙われました。闇商人だったり、秘密警察だったり、私の力を利用して、いろんな人が利益を得ようと近づいてきました」
中には無理やり拉致しようとするやつもいたとか──。
スキァーヴィは、そんな奴らからソルトを守ろうとして、戦っていたらしい。
しかし、当時は魔法が仕えるとは言っても並程度で、返り討ちにボコボコにされたり、そのスキに闇商人に一緒に拉致されかけたこともあったとか。
予想もしなかった事実。驚くばかりだ。
「私、いつも気が弱くて、人見知りで──。よく暴力を受けたりされていました。スキァーヴィはそんな私を守ろうとしてくれていたんです」
「あの人の、意外な過去ですね」
「……そうだね」
確かに、そんな生い立ちは予想できなかった。
「ただ どんどん強さを求めていくうちに、変わっていってしまったんです。それがすべてだというふうになってしまって。性格も、優しい性格からどんどんきつくなって」
「そ、そういうことだったんですね……」
「あんなスキァーヴィ、もう見たくないよ……」
ソルトは、悲しそうに顔を覆った。
俺とフリーゼは、互いに顔を見合わせた後、コクリとうなづく。
確かに、ソルトにとってはつらいだろうな……。
自分のことを必死に守ってくれた人。それがソルトを守ろうとしたがために強くなり、性格があそこまで変質してしまったのだから。
「それから、見る見るうちに強くなったスキァーヴィは──買われました、政府に。私の周り見張りを付け、手出しした者を問答無用で死刑にするという条件で──」
「そして、ソルトに手出しする者はいなくなり、平和に暮らせるようになったと──」
「はい。まあ、秘密警察こそいますが、何もしなければ問題ありませんし……」
そういうことだったのか。
スキァーヴィのおかげで、今の自分がいるってことなんだ。
何とかしてあげたいという気持ちはある。それに、ソルトの力はかなり重要なものだし、ただスキァーヴィを倒せば解決するというわけではないような気もする。
そう話しているソルトの握りこぶしが、強くなっているのがわかる。
それなら、出す答えは決まっている。
「分かった、俺達も協力するよ」
「あ、ありがとうございます……」
ソルトははっと微笑みだし、立ち上がるとぺこりと頭を下げた。
それから、今後の予定について話し始める。
数日後に控えた闇市のことも。もっとも、ソルト自身は参加できないのだが。
それから、ソルトから家の場所を聞き出し、俺は泊っているホテルの場所を教えた
それが終わり、店を出る。
「じゃあ、これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくね」
互いに握手をして、この場を去っていく。
まさか、スキァーヴィにこんな親友がいたなんて思いもしなかった。
そして、スキァーヴィの意外な過去も理解することができた。
自分の弱さ、それでもソルトを救うため、強くなろうとして、あんな姿になってしまった。
けれど、だからと言って彼女たちのやっていることが正しいとは思えない。それに、こっちだって、天使たちのことを調べなきゃいけない。
複雑な思いはあるけれど、良い結果になるように頑張っていこう!
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