「そ、そうだったのですか──。申し訳ありません。今からでも取り消しにしましょうか?」
「いやいいです。どの道勝負を受けないわけにはいかないんで──」
リルナさんは申し訳なさそうに頭を下げている。
本来ギルドに虚偽の説明をしてクエストの依頼をした場合、そのクエストを無効にし当事者に賠償請求をすることだってある。
──がそんなことをしたところで俺たちは救われたことにはならない。
下手をしたらヴィーザルが精霊のことを教会に告発してしまう。それだけは避けないと。
だから相手がどんなに汚い手を使おうと勝負を引くけないわけにはいかないのだ。
それをリルナさんにも説明。
「そういう事情だったんですか。それでは、私も応援させていただきます。遠い所に行っても応援してますよ。頑張ってください」
「ありがとうございます、リルナさん」
その後、クエストを引き受けるにあたって事務作業を済ませ、俺達は外へ。
ホテルへ歩きながら、レディナが心配そうな態度で俺に話しかけてきた。
「フライ、大丈夫だったの? こんな無茶な勝負引き受けて──」
「仕方ないよ。受けないとレディナ達に支障が出るんだから。それに、個人的にアドナを許せなくなった
俺はその言葉を言うとその時の感情を思い出し、つい表情が険しくなる。
「許せないって、どういう事?」
「簡単だよレシア。俺を恨むのは仕方がない。理由はどうあれ俺を追放してから、アドナはSランク冒険者から転がり落ちるようにランクを落とされ、最終的には追放されたんだから」
「しかしそれは、フライさんのせいではなく──」
「そうでなくてもアドナはそう思っているんだ、フリーゼ。俺たちがどういってもその復讐心は消えないだろう。どんな思い違いがあれどその復讐自体を否定するつもりはない。
人間、綺麗ごとだけじゃ生きていけないしね。
けれど俺に復讐するために熾天使と手を組んだ、おまけにレディナたちを人質にとるような真似をしたのを見て、絶対にこいつには負けちゃいけないって強く思った」
当然だ。復讐したいなら俺一人を攻撃してくればいい。それをわざわざ周囲を陥れるような真似をした。
その瞬間、もうアドナに対する同情の心は完全に消えた。
アドナに絶対勝つという強い想いが俺の心に芽生えたのだ。
「今度の戦い、どんな敵かはわからない。けれど、絶対に勝とう」
俺達は互いに手を合わせ、そう強く誓った。
アドナとの決戦、俺は絶対に負けない。アドナがどんな姑息な手を使おうと、絶対に勝つ!
当日。旅用の荷物をしょって、俺とフリーゼは出発。
ハリーセルとレディナ、レシアに別れを告げる。
ここから先は二対二の勝負。そういう約束だからだ。
そして俺の相方はフリーゼ。理由は簡単、どんなことが起こるかわからないうえにチームで戦うことができないからだ。
だから四人の中で最も対面能力が高く、どんな状況でも力を発揮しやすいフリーゼを選んだ。
他の三人は、うまく状況を作れば確かに強いんだけど、どうしてもそのタイミングが限られてしまう。
レシアはピンチの時、レディナは力を使うには連携を絶たなきゃいけないし、ハリーセルは水中といった所だ。
しかし今回、どんなシチュエーションで戦うことになるのか全く見当がつかない。なのでどんな時でも強さを出せるフリーゼが一番いいと感じたのだ。
三人とも話した時は残念そうな表情をしていたが、理由を説明すると三人とも納得してくれた。
「しょ、しょうがないフィッシュね」
「別にいいわ。信じているわよ」
「二人とも、頑張ってね」
当然だ。三人の分も、俺は戦うつもりだ。
そしてシャフルスク村へ旅立ち。しばしの別れのため、別れの挨拶をする。
「フライ、フリーゼ。信じてるわ、頑張りなさい。けれど、無事で帰ってきてね」
「ありがとうレディナ。絶対勝つから」
レディナの、優しい微笑み。いつもはおせっかいだけど、本当は俺のことを心配してくれている。
彼女の想いに、答えられるようにしたい。
「フライ、頑張るフィッシュ。負けるなフィッシュ!」
「そうよ。負けたら承知しないんだからね」
「頑張ってね、フライ」
レディナだけじゃない、ハリーセルも、レシアも俺たちの事を応援している。
三人とも、心配そうな表情で俺たちを送ってくれた。
それなら、返す言葉なんて一つしかない。
「大丈夫だよ。俺たち、必ず勝って戻ってくるから」
「そうです。私とフライさんなら、絶対に負けません」
フリーゼも、自信満々に言葉を返した。当然だ、みんなの気持ちにこたえたい、だから、絶対に勝つ。
そして出発。王都を離れ旅立つ。
草原を抜け、山を越え、人気が全くないジャングルへ。
道は険しく、獣道の様になっていく。
「道はこれで合っているんですか? なんか道じゃなくなっている気がするのですが……」
「大丈夫だよフリーゼ。地図を見ながら進んでいるから」
流石にフリーゼも心配しているようだ。けれど、周囲の地形も確認しているし、問題はない。
時折動物たちと遭遇するも、順調に旅は進む。
夜はキャンプで就寝、警戒をしつつもしっかりと体を休める。
そんな数日間の旅路を続ける。険しい山々や、大きな木が茂るジャングルを超え、目的の場所にたどり着いた。
周囲にこの村のほかに人気は全くない、人里離れた場所にあるシャフルスク村という場所。
大きな山の中腹に位置するこじんまりとした村といった雰囲気だ。
村人は、みんな毛耳がついている亜人。服装は、動物の毛皮を着ている。あまり裕福な格好ではないというのがよくわかる。
家はどれも木でできた簡素な家。
文化レベルも、王都と比べると遅れているのを感じる。そんな素朴な雰囲気の村。
「とりあえず、何から始めましょうかフライさん」
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