「とりあえず、何から始めましょうかフライさん」
「まずは道端の人とかに聞いてみよう。水晶ドクロのこと。何か分かるかもしれない」
「そうですね」
出来るだけ身分が高そうな人から聞いた方がいいだろう。そして俺が周囲をきょろきょろと見回していると──。
フリーゼが俺の肩をつついて話しかけてくる。
その表情からは、どこか心配そうな感じが見て取れる。
「どうしたのフリーゼ、何か心配事でもあるの?」
「いや、あれ──なのですが……」
俺はフリーゼが指をさしている方向に視線を向ける。そこには一軒の露店。
何か商品を売っているのがわかる。ってあれは??
俺は陳列してある商品に目を奪われた。
「あれ、水晶ドクロじゃないか? それも赤いやつに青いやつ」
そう、そこには赤と青、俺とアドナが追い求めていたはずの水晶ドクロが何十個も陳列されていたのだ。
「フリーゼ、とりあえず行ってみよう」
「そうですね」
ヴィーザルの言葉からして水晶ドクロは貴重品のような物をイメージしていたが。
その露天にはまるで観光客の土産物の様に結構な数が陳列されているのだ。予期しなかった事態に俺達は速足で露店へと向かう。
「へいらっしゃい。よそもんかい。この村の名物、水晶ドクロさ。さあ買っていきなよ。他じゃ手に入らないよ!」
「すいませんおじさん。一つ聞きたいことがあるのですが、これは本物なのですか?」
威勢よく売ってくるおじさんに俺は話かけた。
おじさんは明るくがははと笑いながら言葉を返す。
「がはは、冗談きついねぇ兄ちゃん。ごめんな、本物なんかオラごときには手に入らないさ。これは暇な時間を使ってオラが作った偽物だぁ」
独特な口調。
その言葉に俺は冷静さを取り戻す。偽物か。材質が違うんじゃ買った所でまったく意味がない。
流石にうまくはいかないか。
「偽物? 売り物ということですね」
「ああ、これは商品だよ嬢ちゃん。この村は貧しくてね、やる事がない時間を使って小遣いの足しにしてるんだぁ。材質も、安いもので間に合わせた。すまんのう、代わりに作っている人の家、教えてやっからよう。赤と青、お前さんはどっちが欲しいんだい?」
「ありがとうございます。私が欲しいのは青いドクロです」
そしておじさんはドクロが手に入るかもしれない場所を教えてくれた。
「この村で青いドクロを作っているのはその家だけだ。もらえる保証はないけど、行ってみるといい」
「おじさん。ありがとうございます」
思いがけない情報に俺とフリーゼはぺこりと頭を下げる。
しかし俺は気が付いてしまった。
この村はクラリアから見れば未開の地、だからもこの偽物を本物だと主張して持ってきても、見分けがつかずギルド側が信じてしまう可能性が高い。
そう、アドナがそんな真似をしてきても本物だと通ってしまうかもしれないということだ。
本来こういうことは俺の趣味じゃない。相手を疑っているようで罪悪感を感じてしまう。
──がだからといってお花畑の様に何も疑わずに対策を打たないなんてことはしない。勝負は勝負。
あらゆる負け筋をつぶす必要がある。
「あとすいません。ご勝手ながら協力してほしいのですがよろしいでしょうか」
俺はおじさんに事情を説明する。俺ともう一人の冒険者が、この村で二つのドクロを巡って勝負をしていること、そしてここで買い占めてごまかすようなことがないこと。そのために商品にとある対策をしたいということだ。
「──ほう。頭がいいだねあんた。これなら価値も落ちないし、買ったものか一発でわかるだ」
「ありがとうございます。では、対策の方させていただきます」
そして俺はドクロを手に取り、一つずつ対策を施していく。 あくまで商品。傷つけないように慎重に扱う。
数十分ほどで対策は完了。
「店主さん。有難うございました。お礼といっては何ですが、そのドクロ。一つ買わせていただきますとってもきれいな外見なので、仲間達にも見せてあげたいんです」
「ええだよ。買ってくれてありがとな、毎度あり」
もちろんこれは成績には残らない。おじさんへの感謝と、記念を兼ねてだ。
「ありがとうな、兄ちゃん。また来てくれよ」
「こちらこそありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
手を振っておじさんに別れを告げる。
そして俺たちは店を離れ、目的の場所へ。
歩きながら俺はフリーゼに話しかける。
するとフリーゼは人差し指を顎に当て、困惑していた。理由は、なんとなく理解できる。
「フリーゼ。やっぱり不正対策をしたのが不思議なのか?」
「はい。いくら勝利のためとはいえ、不正とわかるようなやり方を本当にするのかと。勝つためとはいえ材質が違う売り物を本当に買うなんてマネ、もし調べられたらすぐにばれてしまうでしょうし……」
確かにフリーゼの言うことはごもっともだ。もしアドナが勝負に勝とうとこの偽物を買っても材質が違う以上証明する手段はいくらでもある。やる有用性は全くない。
けれど人間というのは理性や損得だけでは図り切れないものなんだ。
「フリーゼ、お前の言うことはごもっともだし、正しい。けれど人間というのはフリーゼが考えているよりもずっと感情的なんだ。俺は冒険者としていろいろな冒険者を見てきたからわかる。
普段は人が良くて聖人じゃないかって人が勝敗が付いたとたんに豹変、本能むき出しに暴れまわることだってあった。人を信じるのは構わないけど、そういう所はきっちりとしなきゃ」
「そ、それもそうかもしれませんね。申し訳ありませんでした」
フリーゼは、理解するのに戸惑いを感じている。
俺だってアドナを疑うようなことはしたくない。けれどこれは真剣勝負。特にアドナにとっては結果次第では奴隷落ちだってあり得る。
「アドナが正々堂々勝負し、ドクロを買うなんてしなければ、これは俺の取り越し苦労で終わる。そうなることを願っているよ」
もちろんあれは商品。みだりに傷つけるわけにはいかない。だからそれに配慮して不正対策を実行したのだ。
「わかりました──」
フリーゼは、なんとか納得してくれた。やはり彼女は感情的なことがどこかわからないのだろう。
すぐには無理だろうけど、これから少しづつ理解していけばいい。
その時は、俺も力になるから。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!