「大丈夫、フリーゼはそんなことありえないから──」
俺は自信を持った笑みで言葉を返す。
「フリーゼは、こんなところで負けない」
「まあいい。まずはお前からだ。このふざけた壁と一緒にぶった切ってやるよ」
俺は一瞬だけ剣を上にあげると、そこから魔力が灯った球状の珠を打ち上げる。
これで準備が整った。
「さあ、お前の敗北する時間だぜぇぇぇ」
一気に突っ込んでくるザニア。俺は自信満々の笑みで剣をザニアに向ける。
そして──条件は整った。これで、勝負を決める!
「フリーゼ!」
「はい」
ピッ──!!
俺が指を鳴らすと、二人を分断していた壁が形を変える。中央部分に穴が開いたようになり、その場所を使って俺たちは互いに場所を入れ替わるように移動。
「な、なんだと──」
「貴様ら……」
二人とも予想をしなかった行動に目を見開く。慌てて構えをとろうとするが間に合わない。
二人にとっては、完全に不意打ちを食らったような形になった。
そしてフリーゼはザニアへ、俺はヴィッツへと突っ込んでいき、その胴体に一撃を加える。
二人とも、俺たちの攻撃が直撃。数メートルほど体が吹き飛んだあと、雪原へと体が落下。
かなりの有効打になったはず。しかしまだ戦いは続く可能性もあり、俺達は追撃のために一気に距離を詰めていく。
しかし──。
「んだよ。やるじゃねえかよお前」
「そうだな。俺にはわかる、これ以上の交戦が無意味ということも」
二人はそんな捨て台詞を吐いて──。
森の奥へと逃げ出した。
「待て、お前達!!」
「ダメです。フライさん」
叫ぶ俺を、フリーゼが肩を掴んで留める。
大丈夫、わかってる。ここで食いつく俺じゃない。
この辺りはこいつらの住処みたいな場所。
道すらない森の中。どんな罠が待っているかわからない。
おまけに持ち場から離れてしまうことになる。その裏ををつかれて強力な魔物を召喚される可能性だってある。
本当はあいつらを捕まえたいのだが、仕方がない。
とりあえず一番の危機は去ったものの、他の場所ではまだ戦いが続いている。
俺達は、周囲の応援へと向かっていった。
さらに、クリムとハウゼンの戦い。ハウゼンは大きな剣を持ち、クリムと戦っていく。
クリムは、技の威力こそそこまでないものの、手数が早い。
目にもとまらぬ速さでハウゼンに連撃を加える。
ハウゼンはそれに対応しながら引き気味に戦い、時折カウンターを入れる。
クリムはそれを間一髪で回避。
「へぇ~~やるじゃない。意外とやるわね」
それでも攻撃を続けるものの、カウンターを恐れて攻撃的に行くのを戸惑ってしまう。
ハウゼンの実力を理解し、一気に勝負をつけるやり方を切り替えた。
「けれど、勝つのは私なんだから!」
無理に前がのめりにならずに、少しずつ追い詰めていく方法に変えていった。
焦らず、しかし攻勢を緩めずハウゼンに対して有利をとっていく。
最初こそ互角に戦っていたものの、徐々にクリムが押し始めた。
しかしハウゼンも経験豊富な傭兵であったため、押され気味になるも粘り強く対応し有効打を許さない。
それでもクリムは前かかりになるようなことはせず、少しずつハウゼンを追い詰めていく。
一歩一歩と──。
そしてハウゼンに対し遠距離攻撃をヒットさせた。ハウゼンは右肩を痛め、出血した部分を抑える。
苦そうな表情。
「しょんべん臭い割ガキのに、よくやれるだね」
「当たり前じゃない。あんたみたいな小悪党に、私が負けるわけがないわ!」
クリムは決して油断せず、しかし自分の力を卑下するわけでもなく、冷静に力を見極める。
そして自分の力なら、油断さえしなければ負けることはないと理解。
一気に勝負を決めようと行動に出た。
剣を天に向かって掲げ、強力な魔力を込める。
それは見たことがないくらいの電気の塊。バリバリと大きな音を上げている。
「さあ、これでとどめよ。くらいなさい!」
──轟の雷鳴──
サンダー・ボルテックス!
クリムが剣を思いっきり振り下ろすと、その電気の塊は横に進む雷の様にハウゼンに向かっていった。
電撃はハウゼンに直撃し大爆発を起こす。ハウゼンの肉体は後方に吹き飛び、木に激突。
そのままスキを見せるようなことはせずすぐに身を起こし、槍をメイルに突き付ける。
クリムは余裕があるのかにこっと笑ってウィンク。
ハウゼンは体勢を立て直したものの、すでに息が上がっている。そしてハウゼンの槍を叩き落とし、逆に彼女の喉元に対して剣を突き付けた。
「言ったでしょうおばさん。あんたなんかじゃこのクリム様には力不足なの。さっさと投降しなさい」
ハウゼンはにやりと笑みを浮かべ言葉を返す。まるで自分が追い詰められている自覚がないかのように──。
「大したやつだねぇ。だがね、ここで死ぬはけにはいかないだね」
「ハァ? 逃がすつもりなんてないから。じゃあ、とどめよ」
クリムは余裕の笑みでハウゼンに接近。さらに追撃を加えようとするが──。
「……大したやつだね。あばよ!」
ハウゼンはピッと指をはじく。すると、眩しいくらいの閃光が走り、俺達は思わず目をつぶってしまう。
次の瞬間。目を開けると、ハウゼンはそこにいなかった。
「あーあ、逃がしちゃった」
「ハウゼンは、いつもそうです。逃げ足が速く、撤退がうまい。やっと追い詰めたと思っても、すぐに逃げられてしまいます」
「手ごわそうなやつだ」
勝てないと思ったらすぐに撤退。一見すると臆病なようにも感じるが、こっちからすれば厄介この上ない。
なぜなら、強さを見極めることに優れていて、
「嘘。どんだけ逃げ足早いのよこいつ」
クリムは思わず肩を落として舌打ちをした。
確かに敵組織のトップを捕らえられなかったのは痛かった。
しかしとりあえずこの危機は脱した。後はデュラハンと三刑士の一人だ。
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