~唯一王の成り上がり~ 追放された「加護」使いの英雄碑

主人公フライが大活躍 王道系、成り上がり×追放ストーリーです
静内
静内

第130話 クリムの激闘

公開日時: 2021年10月30日(土) 22:04
文字数:2,308

「大丈夫、フリーゼはそんなことありえないから──」


 俺は自信を持った笑みで言葉を返す。


「フリーゼは、こんなところで負けない」


「まあいい。まずはお前からだ。このふざけた壁と一緒にぶった切ってやるよ」



 俺は一瞬だけ剣を上にあげると、そこから魔力が灯った球状の珠を打ち上げる。

 これで準備が整った。


「さあ、お前の敗北する時間だぜぇぇぇ」


 一気に突っ込んでくるザニア。俺は自信満々の笑みで剣をザニアに向ける。



 そして──条件は整った。これで、勝負を決める!


「フリーゼ!」


「はい」



 ピッ──!!



 俺が指を鳴らすと、二人を分断していた壁が形を変える。中央部分に穴が開いたようになり、その場所を使って俺たちは互いに場所を入れ替わるように移動。



「な、なんだと──」


「貴様ら……」


 二人とも予想をしなかった行動に目を見開く。慌てて構えをとろうとするが間に合わない。

 二人にとっては、完全に不意打ちを食らったような形になった。


 そしてフリーゼはザニアへ、俺はヴィッツへと突っ込んでいき、その胴体に一撃を加える。

 二人とも、俺たちの攻撃が直撃。数メートルほど体が吹き飛んだあと、雪原へと体が落下。


 かなりの有効打になったはず。しかしまだ戦いは続く可能性もあり、俺達は追撃のために一気に距離を詰めていく。


 しかし──。


「んだよ。やるじゃねえかよお前」


「そうだな。俺にはわかる、これ以上の交戦が無意味ということも」


 二人はそんな捨て台詞を吐いて──。


 森の奥へと逃げ出した。



「待て、お前達!!」


「ダメです。フライさん」


 叫ぶ俺を、フリーゼが肩を掴んで留める。

 大丈夫、わかってる。ここで食いつく俺じゃない。


 この辺りはこいつらの住処みたいな場所。

 道すらない森の中。どんな罠が待っているかわからない。


 おまけに持ち場から離れてしまうことになる。その裏ををつかれて強力な魔物を召喚される可能性だってある。


 本当はあいつらを捕まえたいのだが、仕方がない。


 とりあえず一番の危機は去ったものの、他の場所ではまだ戦いが続いている。

 俺達は、周囲の応援へと向かっていった。






 さらに、クリムとハウゼンの戦い。ハウゼンは大きな剣を持ち、クリムと戦っていく。


 クリムは、技の威力こそそこまでないものの、手数が早い。

 目にもとまらぬ速さでハウゼンに連撃を加える。


 ハウゼンはそれに対応しながら引き気味に戦い、時折カウンターを入れる。


 クリムはそれを間一髪で回避。


「へぇ~~やるじゃない。意外とやるわね」


 それでも攻撃を続けるものの、カウンターを恐れて攻撃的に行くのを戸惑ってしまう。


 ハウゼンの実力を理解し、一気に勝負をつけるやり方を切り替えた。


「けれど、勝つのは私なんだから!」


 無理に前がのめりにならずに、少しずつ追い詰めていく方法に変えていった。

 焦らず、しかし攻勢を緩めずハウゼンに対して有利をとっていく。



 最初こそ互角に戦っていたものの、徐々にクリムが押し始めた。

 しかしハウゼンも経験豊富な傭兵であったため、押され気味になるも粘り強く対応し有効打を許さない。


 それでもクリムは前かかりになるようなことはせず、少しずつハウゼンを追い詰めていく。

 一歩一歩と──。




 そしてハウゼンに対し遠距離攻撃をヒットさせた。ハウゼンは右肩を痛め、出血した部分を抑える。


 苦そうな表情。


「しょんべん臭い割ガキのに、よくやれるだね」


「当たり前じゃない。あんたみたいな小悪党に、私が負けるわけがないわ!」


 クリムは決して油断せず、しかし自分の力を卑下するわけでもなく、冷静に力を見極める。

 そして自分の力なら、油断さえしなければ負けることはないと理解。


 一気に勝負を決めようと行動に出た。

 剣を天に向かって掲げ、強力な魔力を込める。



 それは見たことがないくらいの電気の塊。バリバリと大きな音を上げている。


「さあ、これでとどめよ。くらいなさい!」


 ──轟の雷鳴──


 サンダー・ボルテックス!



 クリムが剣を思いっきり振り下ろすと、その電気の塊は横に進む雷の様にハウゼンに向かっていった。


 電撃はハウゼンに直撃し大爆発を起こす。ハウゼンの肉体は後方に吹き飛び、木に激突。

 そのままスキを見せるようなことはせずすぐに身を起こし、槍をメイルに突き付ける。



 クリムは余裕があるのかにこっと笑ってウィンク。

 ハウゼンは体勢を立て直したものの、すでに息が上がっている。そしてハウゼンの槍を叩き落とし、逆に彼女の喉元に対して剣を突き付けた。


「言ったでしょうおばさん。あんたなんかじゃこのクリム様には力不足なの。さっさと投降しなさい」


 ハウゼンはにやりと笑みを浮かべ言葉を返す。まるで自分が追い詰められている自覚がないかのように──。


「大したやつだねぇ。だがね、ここで死ぬはけにはいかないだね」


「ハァ? 逃がすつもりなんてないから。じゃあ、とどめよ」


 クリムは余裕の笑みでハウゼンに接近。さらに追撃を加えようとするが──。


「……大したやつだね。あばよ!」


 ハウゼンはピッと指をはじく。すると、眩しいくらいの閃光が走り、俺達は思わず目をつぶってしまう。


 次の瞬間。目を開けると、ハウゼンはそこにいなかった。


「あーあ、逃がしちゃった」


「ハウゼンは、いつもそうです。逃げ足が速く、撤退がうまい。やっと追い詰めたと思っても、すぐに逃げられてしまいます」


「手ごわそうなやつだ」


 勝てないと思ったらすぐに撤退。一見すると臆病なようにも感じるが、こっちからすれば厄介この上ない。

 なぜなら、強さを見極めることに優れていて、


「嘘。どんだけ逃げ足早いのよこいつ」


 クリムは思わず肩を落として舌打ちをした。

 確かに敵組織のトップを捕らえられなかったのは痛かった。



 しかしとりあえずこの危機は脱した。後はデュラハンと三刑士の一人だ。

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