大聖堂前でも、激闘は始まっていた。
レディナ達が大聖堂から爆発場所へと向かっていった直後、突然テレポートで現れたかのように、スパルティクス団の兵士たちが大聖堂前に現れたのだ。
突然の奇襲に兵士や冒険者達は面食らい、大きな被害が出る。
しかし、メイルが先陣を切って敵たちを次々倒していくと、兵士たちもそれに続いて戦いに加わっていく。
「なんだこれは。初めて見ましたぞ、メイル様」
「おそらく、強い魔力を持っているやつがいるのだろう。その魔力を使用してこいつらを転送したんだ」
メイルの言葉は、当たっていた。ここにいる百人近い兵士、転送するとなると相当な魔力がいる。
それこそ、Aランク冒険者が何十人も必要なくらい。
このウェレン王国に、それだけの冒険者なんていない。
恐らく、他に強力な魔力を持っているやつがいるのだろう。
「とりあえずは、この場を打開するしかなさそうですね──」
とはいえその人物の居場所がわからない以上できることはない。
まずやることは、この場を襲ってきた敵の一掃。
「甘い!!」
メイルは次々に襲ってきた敵たちを倒していく。
時折ピンチの味方がいればそれをかばって代わりに戦っていく。
ここで戦っている人たちの多くがメイルとは顔見知り。
気さくに挨拶をしたり、一緒にお祈りをしたり──。
だからそんな仲間同然の彼らを失いたくないと、メイルは本気で戦っていた。
そして、その人物は現れる。
「ハウゼン。貴様──」
メイルの視線の先。彼女に立ち向かっていく冒険者が次々に倒れていく。
ウェレンでもトップクラスの力を持つ大敵。
「ほう─エサを見つけた魚みたいに我先にと食いついてくると思っただね。お前達も、今までよりは成長しただね」
「当然だ。お前達の策など、お見通しだ」
メイルが剣をハウゼンに向けて言い放った。ハウゼンがにやりと笑みを浮かべる。
「まあ、小細工をしたところで結果は同じだね。お前達は、ここで打ち取られるんだね」
ハウゼンの長髪の言葉。答えは決まっていた──。
「逆だ。私が、打ち取らせてもらう!」
ハウゼンは、ニタニタと笑みを浮かべ、余裕そうに言葉を返す。
「あーあー、折角転送させてもらった仲間が台無しだね。この代償は、お高くつくよ」
「させてもらった? やはり共犯者がいるのだな──」
(だが、まずはこいつを仕留めない限り、その答えは出ないだろう
すると、周囲の冒険者達もその姿に気が付いたのか、ハウゼンに向かって剣や槍を向けてくる。
「あっ、ハウゼンじゃねぇか!」
「このクソ野郎。今度こそ片づけてやる!」
しかし、それをメイルは止めた。
「ごめん、他の冒険者は手を出さないで。こいつは私が戦う。皆さんは、他の敵たちを相手取ってくれ! お願いだ」
メイルの言葉に、冒険者達は戸惑いながらも首を縦に振る。
「──わかったよ。勝ってくれよ」
「取り逃がしたり、するなよ」
冒険者達の言葉に、メイルはフッと彼らに向かってコクリとうなづいて、もう一度ハウゼンに視線を戻した。
「ほう、ずいぶんと賢いだね」
「ああ、お前を倒すのは、この私だからな」
メイルの判断は、間違っていなかった。ハウゼンの実力は、王国でもかなりの腕だ。そんな奴に一般冒険者が戦った所で瞬殺されるのがオチ。
最悪、人質にされる可能性があるからだ。
それならば、ハウゼンは自分ひとり相手取り、周辺の奴らを相手取らせておいた方がいい。
「ハウゼン。貴様は、私が相手をしてやる。覚悟」
そしてメイルは剣先をハウゼンに向けた。そして一気にハウゼン目掛けて突っ込んでいく。
ハウゼンも、ゆっくりと剣を天に上げ、メイルの向かっていく。
二人の戦いが、今始まった。
戦い続けてしばらく──。
「ふっ、まるでイノシシみたいに策もなく突っ込んでいくだけ。そんなんじゃあ、私にかすり傷一つ与えられないだね」
「やはり、それなりの実力はあるようだな……」
メイルは、険しい表情をしながら、ハウゼンの攻撃を耐えていく。
しかし、完全には防ぎきれず、何度か攻撃を食らってしまう。
それに対抗しようと、何度かリスクを負って攻撃を仕掛けるが、全ていなされてしまい、通らない。
「そんなお遊戯、私に通ると思っているのかい?」
「──黙れ!」
実力はそうでもないのだが、試合運びというのがとてもうまい。
自分より格上との戦いに、慣れている。
単純な力比べではメイルはハウゼンを上回っいる。
しかしただひとつだけ、ハウゼンはメイルより上回っている強さがある。
それは一言で言うと、自分の戦いをごまかす技術だ。
フェイントに間合いの取り方、身のこなし、戦いのすべてが、本当なのかフェイントなのかわからないのだ。
振り下ろしに来たと思えば、メイルの反応を見て横殴りの攻撃に変えてきたり、突いてくる動をして対応するとそのまま振り上げてきたりしてくる。
メイルは反撃しようとするが、思うようにこちらの試合運びを運ばせてくれない。
そのことに、メイル自身にも焦りが生まれる。
「どうしたどうした。威勢良くかかってきた割には、逃げてばっかりじゃないか?」
「何というか、生き残ることに特化した戦いだな。貴様は──」
「当然だね。あたいは闇組織として、何度も生死をさまよい、戦ってきた。その中でどうすれば生き残れるか、魂に刻み込んでいるだね」
「生き残るために、勝ち残るために特化した戦いということか」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!