死なないで。
何度、そう心の中で唱えた事か。
私は今日も心で祈る。
死なないで、と。
医療に現場はシビアだ。
人が生まれる場所であると同時に、人が死んでいく場所でもある。
何度も何度も、数え切れない誰かの『死』に立ち会う事になる。
自分と関わりのない、誰かの。
しかし毎回思うのだ。
どうか生きてくれ、と。
誰かを助けたい。
その一心で医療の道を志した。
実際に、救えた命だってある。
しかし、いつだって医療は100%ではあり得ない。
幾ら最善を尽くしても、患者から『死』遠ざけられない事だってある。
口でどんな事を言っていたって、人は生きていたいと思うものだ。
そう信じて、今日までやってきた。
そしてこれからも、そう思って最善を尽くすだろう。
そんな人間に「死なないで」だなんて、口が裂けても言えはしない。
だって彼らは生きたいのだ。
死にたくないのだ。
ならばその言葉の答えは、「分かってる、でも出来ないんだ」だ。
死の間際にそんな悲痛な叫びを、一体どうして患者に強いる事ができるだろう。
だから私は心で叫ぶのだ。
「どうか、死なないで」と。
手を動かし、最善を尽くしながらいつも思う。
「どうか、連れて行かないで」と。
そうして今日も、現世に命を繋ぎ止める。
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