『死』とは誰にでも平等に訪れる人生の終わりである。
そう誰かが言っていた。
実際にそうなのだろう。
否、そうとでも思わなければ、この『死』をうまく消化できそうもない。
目の前には、棺が1つ置かれている。
式場の人から花を一輪受け取って、私はそれを彼女の傍にそっと置いた。
『死』というものは、緩やかに訪れる事もあれば突然に降りかかってくる事もある。
彼女の場合は、後者だ。
「あんなに元気だったのに」
啜り泣く声の中に、ポツリと誰かがそう言った。
その通りだ。
私が彼女に会ったのは、1週間前。
その4日後にこんな事になるなんて、いったい誰が思っただろう。
もしかしたら彼女自身が一番びっくりしているかもしれない。
彼女は、中学生時代から友人だった。
どんなに嫌なことがあってもそれをすぐさま笑い飛ばすような、そんな強い子だった。
「笑顔を作りたい」
そう言って、彼女はイベント企画の仕事に就いた。
その時「何とも彼女らしい」と思ったのを、今でもよく覚えている。
「まさか交通事故で亡くなるなんてねぇ……」
「でも、子供が居なくて良かったわよね」
だって親を亡くした子供なんて可哀想で見ていられないもの。
そんな言葉が私の耳を掠める。
就職後、彼女は仕事に邁進していた。
だからというものあるのだろう、32歳になった今も独り身である。
だからそれは、正しく事実を述べていた。
しかしあまりに不謹慎な言葉である。
本来の私なら、その言葉に腹を立てただろう。
「幾ら事実だとしても『良かった』だなんて、彼女を送る真っ最中にしかもご両親の前でよくも言えたものだ」
そんな風に思ったに違いない。
しかしそんな反感を持てないくらい、私は自分の事で一杯一杯だった。
ーーいい子だったのだ。
少々楽観のきらいがあるが、それでも私にとっては唯一無二の存在だったのだ。
馬鹿な理由で一緒に笑って、辛い時には「気にすんな」と言ってくれて、間違ってる時はきちんと言葉にしてくれて。
そんな日々が、私の心を足早に駆け巡る。
もう彼女と、お喋り出来ない。
その事実が、私の心に深く突き刺さる。
もう彼女の顔を見る事ができない。
その事実が、私をどうしようもなく悲しくさせる。
「……またね」
今はまだ、すぐには会えないけど。
それでも私が年老いて、あなたと同じ所に行く時が来たなら、きっとまた2人で話をしたい。
バカな話をしながら、大声で笑いたい。
掠れた声でつぶやいたその声は、きちんと彼女に届いただろうか。
様々な『ありがとう』を込めたその声は、果たして。
棺がゆっくりと、閉じられる。
安らかな彼女の顔が見えなくなる。
私の顔は、もう涙でぐしゃぐしゃだ。
もう、声も言葉の体を成していない。
だから、心の中でもう一度唱えた。
「またね」と。
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