「東京都○○区の一室で遺体が発見されました。自宅には遺書が見つかっており、いじめを苦にした自殺という線でーー」
テレビから流れてきたそんなニュースに、私は思わず顔を顰めた。
「命を粗末にするなんて」
その声には、妬みを通り越して最早憎しみの感情さえ滲んでいる。
この世には、生きたくても生きられない人が沢山居る。
それは貧困や不清潔な環境の所為だったり、事故だったり。
かくいう私の従兄弟は、不治の病だ。
厳密には不治の病ではなくドナーさえ見つかればどうにかなるかもしれない類のものなのだが、ドナーを待ってもう3年。
そろそろ彼の体力も限界に近いらしい。
彼はまだ12歳だ。
しかしその体のせいで学校さえ行く事がままならず、ずっと病床から窓の外を夢見ている。
先日もお見舞いに行った私を「お姉ちゃん!」と満面の笑みで歓迎してくれた。
そんな彼の健気さを知っているから、どうしたって嫌悪する。
自殺なんていう、自らの命を簡単に断つその行為に。
命は、天からの贈り物だ。
いくら欲したところで容易に与えられるものではない。
そんな神秘を惜しげもなく捨てる行為は、私にはあまりに贅沢で傲慢に見える。
「大体自殺なんて、そんなの『逃げてる』だけじゃない」
命は大切に。
そんな簡単な事も習わなかったのか。
思わずそんな悪態を吐きたくなる。
「ちょっとくらい辛くったって悲しくったって我慢しなさいよ」
その苦しみさえも経験する事ができない人が居るのだ。
それなのに、どうして我慢ができないのか。
「結局、そういう人って知らないのよね」
人よりも尚限られた世界と時間の中で、ソレでも懸命に生きている人の姿を。
でなければ、たとえ衝動的にだってそんな行動を出来る筈がない。
「全く……何でそんな簡単な事ができないのかしら。これだから『近頃の若者は』とか言われるのよ」
机に頬杖をつきテレビの向こうで話すコメンテーターを眺めながら、私は硬い煎餅を噛み潰す。
自分の中にある様々な負の感情を、ボリボリと。
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