『死』を描く

人それぞれで良いんです
野菜ばたけ
野菜ばたけ

case.4 憤る

公開日時: 2020年12月29日(火) 18:01
文字数:814



「東京都○○区の一室で遺体が発見されました。自宅には遺書が見つかっており、いじめを苦にした自殺という線でーー」


 テレビから流れてきたそんなニュースに、私は思わず顔を顰めた。


「命を粗末にするなんて」


 その声には、妬みを通り越して最早憎しみの感情さえ滲んでいる。



 この世には、生きたくても生きられない人が沢山居る。

 それは貧困や不清潔な環境の所為だったり、事故だったり。

 

 かくいう私の従兄弟は、不治の病だ。


 厳密には不治の病ではなくドナーさえ見つかればどうにかなるかもしれない類のものなのだが、ドナーを待ってもう3年。

 そろそろ彼の体力も限界に近いらしい。


 彼はまだ12歳だ。

 しかしその体のせいで学校さえ行く事がままならず、ずっと病床から窓の外を夢見ている。


 先日もお見舞いに行った私を「お姉ちゃん!」と満面の笑みで歓迎してくれた。

 そんな彼の健気さを知っているから、どうしたって嫌悪する。


 自殺なんていう、自らの命を簡単に断つその行為に。



 命は、天からの贈り物だ。

 いくら欲したところで容易に与えられるものではない。

 そんな神秘を惜しげもなく捨てる行為は、私にはあまりに贅沢で傲慢に見える。


「大体自殺なんて、そんなの『逃げてる』だけじゃない」


 命は大切に。

 そんな簡単な事も習わなかったのか。


 思わずそんな悪態を吐きたくなる。


「ちょっとくらい辛くったって悲しくったって我慢しなさいよ」


 その苦しみさえも経験する事ができない人が居るのだ。

 それなのに、どうして我慢ができないのか。


「結局、そういう人って知らないのよね」


 人よりも尚限られた世界と時間の中で、ソレでも懸命に生きている人の姿を。

 でなければ、たとえ衝動的にだってそんな行動を出来る筈がない。


「全く……何でそんな簡単な事ができないのかしら。これだから『近頃の若者は』とか言われるのよ」


 机に頬杖をつきテレビの向こうで話すコメンテーターを眺めながら、私は硬い煎餅を噛み潰す。


 自分の中にある様々な負の感情を、ボリボリと。



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