ご近所STORY2 エレクトリック・ダンス

ちょっぴり笑えるSF ご近所物語の続編です
主道 学
主道 学

1-2

公開日時: 2024年7月6日(土) 18:22
文字数:1,889

 玄関を開けると、スーツ姿の使用人たちが僕の帰りを待っていた。一見、秘書のように思えるけれど、秘書ではない。ただ……。

 みんな可愛らしい顔立ちだ。

 女の人たちだけれど、実はアンドロイドだ。家庭用でもあって防犯にも適していた。

 数年前に他のボディガードと一緒に特注で揃えたんだけれど、治安がよくなってからは家庭の世話をやいてくれるだけとなった。今は人間のボディガードは誰も雇わない時代になった。

「夕食は何になさいますか?」

「いつものように」

 僕は3体いるアンジェ、マルカ、ヨハに言った。

 34階はキッチンルームだ。大きな厨房とレストラン並みの広いテーブルが複数。

 その上には一階ずつにバスルームやトレーニングジム、バー、リビングルーム、和室などがあって、それぞれ20畳くらいの広さがある。

 アンジェは長く赤いスカーフを首に巻いてあって、短い茶髪で小さい顔が印象的なアンドロイドだ。マルカは大きな黄色のリボンのついた長髪で黒毛だ。高身長のヨハはブルーのショートカットで、緑のネクタイのように首から下げている。

 みんな20歳くらいの年齢の容姿で、ブルーの半ズボンとチュニックという格好だ。

「また~。いつものお肉ですか~」

 ヨハが間延びした声を発した。


 輸送中の事故で修理を頼んだけど、頭の内部だけは故障してしまったままだ。

「ああ。それと食後に、僕の部屋にいつものジントニックを持ってきてくれ」

「かしこ~まりました~」

 ヨハたちがキッチンへと向かう。

 僕はキッチンルームから56階の寝室へ私用のエレベーターで行くと、ライトグレーの広いクローゼットへと向かった。そこで、スーツを脱いでナイトガウンに着替えると、今度はまたエレベーターに乗って46階へと行く。

 そこは少し広いシャワールームだ。

 僕はそこで裸になると、一日の疲れをとった。

 しばらく、室内にしっかりとした事務的な声が響いた。

「雷蔵様。ハンバーグステーキができましたのでお早めにお上がりください」

 階下のヨハの声だ。

 ヨハは間延びした故障が目立つ時と、しっかりとした時があるアンドロイドだ。

 三人のアンドロイドには色々な機器が内臓されていて、その一つに僕の家の全室内のスピーカーに音声を出力することができる機能がある。

 僕はバスルームからでると、冷たいシャワーを浴びた。

 再びエレベーターに乗るとキッチンのある34階へと降下する。

 機能的で大きなキッチンはその他の階にもあるにはあるが、僕はいつもは34階を使っていた。

 機能美のある広いキッチンで一人で食事をしていると、

「たまには、お野菜を取りませんと……」

 アンドロイドのリーダー、アンジェが心配そうに僕の顔を見つめていた。

「そうですよ。毎日お肉だけでは……。お野菜を取らないとお体に悪いですよ」

 マルカも不安気な声を発した。

「僕はあまり野菜は食べない」

「そんな~。体に~~悪いですよ~~」

 ヨハも心配してくれた。

 多量のビタミン剤を飲んで食事を終えると、後はエレベーターに乗って56階の寝室へと行く。パソコンを立ち上げて、ジントニックを飲みながら、仕事と雑用を片付けて就寝。

 

 朝。

 6時起床。

 寝室にあるバスルームで入浴。

 34階で朝食のコーヒーとハムカツのサンドイッチを食べながら、新聞を読んだ。

 新聞には奈々川首相が載っていた。昨日の可決されたスリー・C・バックアップの見出しだ。

 僕は溜息を吐いてテレビを点ける。

 キッチンの壁に設置してある大型のパノラマのテレビだ。

 

「おはようございます。云話事町放送Bです」

 テレビには男性のアナウンサーが、マイク片手に云話事マンハッタンビルのガラス張りの正面玄関にいた。

 周囲には大勢のマスコミが集まっていた。

「昨日、奈々川首相によるスリー・C・バックアップの可決がされ……」

 アンジェが二杯目のコーヒーを淹れてくれた。

「C区は元はと言うとB区の一部だったのです。6年前から様々な高度な技術を、前奈々川首相(晴美の父親)の意向により開発をしておりましたが、それはもともとはアンドロイドのノウハウの大規模な労働への導入を考えてのことだったのです。例えば工事や倉庫内作業や医療などの作業は、ノウハウのもっとも得意とする分野だったのですね……。ですが、ハイブラウシティ・Bは人間性を欠いたものへと変貌したと現奈々川首相の発言と行動によって、方針が是正されていきました。今ではスリー・C・バックアップは必要不可欠な社会貢献のためにと……ノウハウをより人間に近づけるために……」

 僕はサンドイッチのお替りをマルカに頼んだ。

 マルカはキッチンへと行くと、高速な包丁さばきでサンドイッチを作っていた。

 僕はチャンネルを変えた。


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