「雷蔵様~~。河守様~~!! 身を低くして~~下さい~~!!」
ヨハは僕と河守を守って、被弾する。超特殊ラバー組織の覆うヨハの体は弾丸を受けてもその弾力でびくともしない。
「身を低くしてください!!」
マルカも九尾の狐と原田を守るため体を盾にした。
僕たちが引き戸から出る頃には、荒廃した喫茶店のお客とマスターはみんな死んでしまっていた。
鉛色の空の外へ出ると、15体ものノウハウが追いかけているのが解る。大通りを行き交う人々の驚きの顔が僕の脳裏に焼き付いた。
那珂湊商店街の喫茶店から、僕たちは九尾の狐の指示でA区の河守の住んでいる青緑荘へと戻った。那珂湊商店街では僕たちがいるとかなり被害が大きくなるからだ。河守の住まいは青緑荘(島田と広瀬の住んでいるところ。また、夜鶴が昔住んでいた)の202号室だ。その近くに藤元が住んでいるから人が死んだとしても、生き返らせることができると考えたのだろう。そして、念の為にアンジェを呼んだ。自宅の警護は複数のノウハウに任せた。もう手薄でも構わないだろう。
201号室の2LDKに着くと、河守が奥のリビングルームで私服に着替えた。九尾の狐は、エレクトリック・ダンスの情報を入手するために、小型の端末をいじり、原田はマルカを連れてリアルの情報屋へと会いに早々に外出をした。
私服の河守は僕とベランダへと向かった。
外はしんしんと雪が降り積もり、11月の空は暗雲の冬空へと変わっている。
「雷蔵さん。あなたはどうしてスリー・C・バックアップに引き付けられたの?」
唐突に河守が聞いてきた。
「正直……解らないんだ」
「へ……?」
僕は暗い空を見つめた。
「僕は昔から吸血鬼が血をほしがるように、いつもお金を欲しがるんだ。何故だろう……?」
「お金は一生困らないのにね……」
河守が呆れた。
「ああ……」
僕はスリー・C・バックアップのデータを何故欲しがるのだろう。
ヨハの言葉を思い出した。
そうだ、誰かに聞いてみよう。答えを持っている人がいるはず。
僕が口を開こうとしたら、
「あのね……。こんなこというのもなんだけど、あなたは自分をよく知らないのよ」
「え……?」
「そう。確かにあなたは片方では強いわ。巨万の富を持っているし、この日本で屈指の大金持ちだし……。でも、自分すら知らない。だから、あなたは自分自身の力で自分を知りたいのよ。より良くて、本当の自分をね。でも、自分を知らずに、会社でも日常でも簡単に大勢の相手を蹴散らしてしまうから、いつも欲求不満で……だって、そうでしょ。ライバルもいない。周りはいつもへこへこしている。内面に満たされない攻撃的になっている欲求が周囲を彷徨っているんだわ」
僕は経済の神のはずだ。
でも、人間なのか?
「僕は神なのか……? それとも、人間なのかな……?」
「あっきれた。神なんかじゃないわ。あなたは人間よ。そして、その中でも非常に弱い人間よ」
「……え?」
「あなた。ここA区で一から生活したら……。きっと、本当の自分を見つけるわよ」
「……そ、そんな……」
「まあ、無理だけどね」
河守は悪戯っ子のように笑った。
「さあ、難しい話は置いておいて、今日の夕食を買いに行きましょ」
「ああ……」
僕と河上がコンビニに行こうとすると、九尾の狐が甘い物を買ってきてと頼んできた。僕は用心のためにヨハを連れた。
「かしこ~まりました~」
ヨハはスキップをして、外へと出た。
外は雪が降り積もっていた。
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