「申し訳ありません。島田様。今はC区と交戦中なのです。ですので、休戦をお願い申し上げます」
無表情の島田が僕の隣に座った。
「なんか起きたの?」
途端に優しくなった島田には、お冷が配られる。
弥生が島田の席の隣に座ると、
「夜鶴さんに言ったほうがいいのかな。怪我もしてるし……何か起きそうよ……」
僕の腕の怪我を見て不安気な声を発した。
島田が瞬く間に好戦的な顔になった。
「いや、島田さんや夜鶴さんたちを巻き込みたくはないんだ。それと、3年前の野球ではすまなかったね。確か右肩だったっけ。僕はA区にある女性を探しに来ただけなんだ」
僕とヨハにもお冷が配られる。
「いやいや! 気にしてねーぜ! 右肩だったかも忘れたー! もう3年前だしな! それより、なんかスリルありそうじゃねえか?! 俺にも手伝わせてー!! 役に立つからー!」
島田は3年前から全然変わっていなかった。
弥生もそうだ。
島田と弥生はタンメンと餃子二皿を頼んだ。
注文したチャーシューメンと野菜炒めが届いた。
チャーシューメンの肉はトロトロとしていて、口の中に油をまんべんなく染み込ました。すごく美味だった。
野菜炒めを食べずにいると、ヨハと島田が口を開いた。
「雷蔵様~~。お野菜を取りませんと~~。いけませ~ん」
「そうだぞ! 野菜を食べて、俺にスリルと戦争くれ!!」
「雷蔵様~~。お野菜~~」
「野菜食べて、俺にスリル入りの戦争ー!」
素晴らしい食事の後。
外は雨から雪になっていた。
「なあ、何か起きたんだろ。なら協力出来るんじゃないのか?」
島田は食い下がる。
「いや、命の危険があるんだ」
「大丈夫だって、藤元がいるんだぜ」
弥生がニッコリと微笑んで、
「何か危険なことが起きたら、すぐに言ってね。うちの旦那も私も協力するから。すぐにすっ飛んでいくからね……」
心配げな弥生が好戦的な島田を青緑荘へ連れて行くと、僕は非合法なことをしているんだったと、今になって気が付いた。スリー・C・バックアップの横流しをしようとしているんだった。
僕は一体?
「雷蔵様~~。そんな険しい表情~~。初めて見ました~~? お加減いかがですか~~?」
ヨハの間延びした声が聞き取りにくくなった。
河守 輝の言葉が頭に響いた。
(因果応報という言葉……知らないの。……悪いことを密かにしていても、いつかは日の目にでるものよ……)
晴美さん……。
僕は君を……。
因果応報か……。
今ではその言葉が怖くなった……。
でも、僕はどうしてもお金がほしいんだ……。
僕はこれからどうしたらいいんだ……。
気が付くと、黒いベットの上だった。
藤元の家の二階のようだ。隣のベットから藤元のいびきが聞こえる。近くに立っているヨハが僕の顔を覗いていた。
「雷蔵様~~。心をどこかに忘れていました~~です。大丈夫ですか~~」
「ああ……なあ、ヨハ」
「はい、なんでしょう?」
「僕はどうしてスリー・C・バックアップのデータを、10憶で買おうとしたのかな? お金なら一生困らないほど持っているのに……」
ヨハはニッコリとして、
「私には解りません~。でも、雷蔵様がそうおっしゃるのなら~。答えは~~、他人に聞きましょうよ~~。人間は~~例え他人でも普通の人間ですよ~~。答えを持っている人も~~居ると思いま~~す」
「はっ、はは……。そうだね。その通りだね……」
僕は急に恥ずかしくなった。
そうだ。誰かに聞いてみよう。
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