ご近所STORY2 エレクトリック・ダンス

ちょっぴり笑えるSF ご近所物語の続編です
主道 学
主道 学

6-35

公開日時: 2024年7月22日(月) 20:33
文字数:1,956

「藤元さんは、必ずやってきます。エレクトリック・ダンスを阻止です」

 晴美さんが力強く拳を振るう。

 晴美さんも3年前からあまり変わらない。

「ああ……」

 夜鶴はそんな晴美さんをニッコリと見つめた。

「そうね。でも、現奈々川首相の命も守らないと、人の命は無駄にしてはダメよ……」 

 河守がニッと笑った。

 僕は何故か赤面したようだ。

 河守の顔が何故かまともに見れなかった。

「雷蔵さん……。どこかで話さない。私たちを生き返らしてくれたんでしょ……ちゃんとしたお礼もしたいし……」

「ああ……」

 僕は河守を自分のバーへと連れるために、私用エレベーターへ案内した。


 箱の中でもやっぱり河守の顔がまともに見れない。

 そんな僕の顔を河守が覗いて、ニッと笑った。

「だいぶ人間らしくなってきたわね……」

 そう言うと、河守は悪戯っ子のように笑い出した。

 僕は急に顔を隠したくなった。

 きっと、赤面しているだろう。その顔を必死に見られまいとしていた。

 ドギマギしていると、エレベーターは51階へと着いた。

 バーに着く。


 左側に種々雑多な最高級の酒が陳列している飾り棚のあるカウンター席。正面から右側にはお洒落なテーブルが幾つもある。窓の外には光り輝く云話事レインボーブリッジが聳えていた。

 窓際の洒落たテーブルの一つに河守が座った。

 僕はぎこちなく一番上等な酒とグラスを二人分用意した。

「ねえ、提案がるのだけど、あの人たちのことは今は放っておいて、私たちの時間を作りましょうよ。どうせドンパチ賑やかになるのは、一週間後なのだし」

 窓の外には、様々なネオンの巨大なテーマパークのようなビルディングも見える。

「まずは、生き返らしてくれて、ありがとう」

「いや……」

 僕はまともに河守の顔が見えないで困っていた。


「ちゃんと私を見て……」

「ああ……」

 河守は僕の顔を覗いてニッと笑う。

「あなた。凄く強くなったわよ。それに、どう? 多分、もうお金が欲しくならなくなったんじゃない?」

 見透かしたような河守の瞳を見つめて、僕は頷いた。

「そう……。やっぱり、あなたは人間なのよ。神なんかじゃない。そう……人間よ」

 僕は人間だ……。

 今までのことが、僕の視界で走馬灯のように過る。

「頂きます」

 河守はグラスのクリュグを一口飲んだ。

「わ、凄く美味しい!!」

「……君のこと。少し話してくれないか?」

 僕は赤面した顔を一時気にせず真面目な顔をした。

「ふんふん。私に興味も出てきたとこだし……いいわ。一様話してあげるわね……」


 河守はグラスを傾けながら、生い立ちを話してくれた。

「私はA区で生まれたの……。凄く貧乏だったわ……。だから、姉さんと必死に勉強したの。A区ではみんなで協力しないと、生きていけないのよ。だから、物心がつくと近所の人たちとすぐに一緒に働いていたわ。B区の都市開発プロジェクトチームに入ったの。そこでノウハウの管理をしたり。でも、最初は人間性が完全に欠けているプロジェクトだったの。それでね……。大変だったわよ……。私たちA区の人たちは家畜のように働かせられていたわ。お金もないし、高い税金も払わないといけないし……。そこで、私と姉さんはこのままじゃいけないと思ったの。お金のあるB区からたくさんのお金を貰うような職を探そうってね。貧乏で人間性を奪われたA区の生活から脱却するためにね。そして、国からの奨学金でB区社会復興特別院大学にいって、矢多辺コーポレーションへ入社したの」

「何故、僕を標的にしていた」

 河守はくすりと笑って、

「凄いお金持ちだから……。結婚したかったの」

 僕は河守の顔を見ながら、一瞬動けなかった。

 こんな素敵な彼女の言動は僕に理性どころか何もかもを奪い去った。

「ねえ……日本の危機を救ったら、結婚を前提にしてお付き合いしましょう」

 僕は一度も飲んでいないグラスをテーブルに置いた。

 勇気を振り絞る。

「ああ……。僕の寝室のカギはいつも開いているんだ。いつでも入れる」

「じゃあ、一緒に行きましょう」

 僕たちは寝室へと向かった。


 朝。

 9時に起床。

 河守と一緒に寝室のバスルームで一汗流すと、みんな昨日のうちに帰ったようた。

 こんなにすがすがしい朝は生まれて初めてだった。

 窓からの太陽の日差し。

 ビル風の音。

 部屋のカーペットの香り。

 コーヒーの香り。

 サンドイッチの味。

 全てが……素晴らしい。

 トレーニングジムで一汗掻いたり、駐車場で小一時間も車の種類を説明したり、大きなキッチンで一緒に大きなサンドイッチを作ったり。ランボルギーニで広い駐車場内を走り回ったり。

 河守と僕の家で楽しく遊んでいたら、いつの間にか夜になっていた。

 僕は生まれたままの気持ちで、河守を黄色のランボルギーニに乗せた。様々なネオンが照らす道をドライブした。

「ねえ、私は仕事でしかB区に来ないの……色々と紹介してくれる?」

 助手席の河守が微笑んだ。


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