「晴美さん!! 試合はまだ終わっていない!!」
僕は応援席の晴美さんたちの袂へと走って戻ってきた。
「ええ……。そうですね。その通りです」
晴美さんが僕の顔を見つめた。
「雷蔵さん。あなたの戦いは人間の戦いでした。人間の力でノウハウを倒したのです……これから、私たちがしなければならないこと。それは人間性で機械に勝つことです」
僕は河守に笑顔を向けて、
「ええ……ええ…………そうですね…………」
僕は泣いていた。
「あ、田場選手と島田選手が6週目です。未だに周囲のノウハウの乗る車を寄せ付けません」
竹友が不思議がった。
「ドライビングテクニックがいいのです。周囲のノウハウの車は体当たりをして遠ざける。まるで、この無法レースを最初から得意としているみたいですね。その精神と腕で今まで走り抜いている。本当に……島田と田場はこのレースのためだけに生まれてきたみたいですね……もっとも……適正があるだけかも知れませんが……」
斉藤は微笑んだ。
島田と田場がそのままコントロールラインを鬼の形相でゴール。
後、二台。僕のチームの車が入れば勝利だ。
だが、相手も三台のノウハウの車がゴールしてしまっている。
後、二台。どちらかの車が先にゴールすれば決着する。
「斉藤さん。今、一番ゴールに近い車は?」
竹友が斉藤に首を向けた。
斉藤は素早くレーシング場を見回し、
「原田選手かペンズオイル ニスモーGTRですね。後、ニスモ GT-R LM。カルソニック スカイライン。流谷選手と遠山選手ですね」
斉藤はストップウオッチを見つめて、
「二番目が津田沼選手と山下選手です。でも全長12メートルのトレーラーのブロックじゃ、どうしようもないでしょう。三番目が淀川選手です」
「先頭のCチームはゴールをするためにと、その車を用意したようですね」
「ええ。そうでしょうね。改造をしていますし、かなり早いですね。おや?」
斉藤は原田の乗るスカイライン クロスオーバーを見た。
原田はスピンをした。
相手のニスモ GT-R LMが体当たりをしたのだ。
その後ろを走る。トラックによって流谷と遠山もスピン。
ノウハウの時速300キロはでるトラックは妨害作戦をしだした。
「この勝負に勝つんだ!!」
角竹は作業班にしわがれた声を振り絞る。
「ええ……大丈夫ですよ。ノウハウには高度な思考ルーチンもあります。富田工場の最新データをアップデートしてありますから。妨害からゴールまで、人間よりも賢く攻め続けます」
茶色い作業服の男は少しだけ余裕を見せる顔をした。
「そうだといいが……」
「父さん。奈々川 晴美の暗殺。やっぱりそれもこの際は強化したらどうだい?」
道助は真剣な表情で言葉を噤む。
興田は何も言わなかった。
そして、更に、
「日本の将来は俺が立て直す。その言葉は小さい頃から繰り返していた。それが、今は実現っていう魅力ある現実を手に出来るんだからさ。これからもエレクトリック・ダンスを進めるために勝負にも勝って、奈々川 晴美も消さなきゃ」
道助は幼少時から日本の衰退ぶりを落胆していた。そして、政治家の道を歩んだ。
「道助くんの言う通りだ。興田くん。あの手を使おう。満川くん。もう一体のノウハウを応援席に潜ましてくれ」
角竹は満川の方を向いた。
「はい……」
応援席にテレビ局のカメラマンが撮影の準備をした。
「ここから、見えますのが……Aチームの応援席にてございます」
美人のアナウンサーは晴美さんのいる応援席で、藤元とタッグを組んで、放送していた。
「ハイっす!!」
藤元は晴美さんを面前に据えて、神社なんかでお祓いに使う棒を振り熱心にお祈りしていた。
晴美さんはカメラに向かって、ウインクした。
アンジェたちが一瞬緊張した。
「晴美様!! 何か変です!!」
アンジェは向かいの応援席を調べた。
高度な対人データ解析をしていると、一体のノウハウがロケットランチャーを隠している姿が瞳に映った。
「ヨハ!! 敵がいます!!」
アンジェはハンドガンを抜いた。
だが、一発の砲弾が放たれた。
砲弾は一直線に晴美さんの場所へと吸い込まれる。
夜鶴がコルトを抜いた。
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