治安がよくなってから、僕の利用と雇用がごっちゃになった関係で友人となっていた。
「雷蔵さん~。これからどうしようか~」
原田は心配げな声をしている。
「いつ頃、スリー・C・バックアップのデータの裏に気が付いたのかな?」
僕は話の順序を整理するために言った。
「それも四日前よ」
九尾の狐がいとも簡単にそう言った。
「あの電話は一体?」
「少しややこしいけど、聞いてね」
河守がニッと笑ったがすぐに俯いた。
「最初は本当にお金だけが目当てだったのよ。スリー・C・バックアップのデータを誰かに10憶で買ってもらいたかったの。だけど、スリー・C・バックアップの裏に気が付いて、10憶どころじゃないって大騒ぎ」
河守は力なく笑うと、
「最初は、私と姉さんがC区を警戒していればいいだけと思ったの。それで、A区に引っ込んだんだけど……」
原田はマルカの肩を撫でて、
「でも、俺はそんなんじゃダメだって言ったのさ。相手が巨大すぎる……」
河守は俯きながら、
「そう、それで私たちに関わった原田さんがある計画を考えたのよ。雷蔵さんをおびき寄せて協力してもらえばなんとかなるって。元々、C区は私たちと雷蔵さんが絡んでいる情報は何らかの方法で入手しているわ。だから、あなたを狙っていたはずなのね。電話で全てを話してしまうと、こちらの居場所も気が付いてしまう……。相手は多分、高度な盗聴か何かで私たちの動向を探っているようね。……私たちの居場所がバレると命に関わるわ。でも、とっても強い雷蔵さんがここまで来たら、当然、私たちの勝ちよ……」
そこまで話すと河守は僕の顔を見つめて、ニッと笑った。
「ちょっと、待ってくれ。何故僕のなさ」
「それは簡単。雷蔵さんほど強い人がこの日本にいるかしら?」
僕は吹き出した。
「……解った。君たちは凄いんだね」
僕があっさりとした会話にすると、
「もうー。雷蔵さんはそうやって、命を無駄にしそうだから、大変なのよ……」
河守が辟易して、続けた。
「まさか電話で言うわけにはいかないでしょ……。こんなことだもの……。雷蔵さんがこっちへ(A区)こないといけないし……簡単に言うと危険を知らせてこっちに来てもらうってわけ……」
原田はマルカの肩に馴れ馴れしく手を置いている。
「いやー、敵がC区だからこれから大変だねー。あ、雷蔵さん。これからどうするの?」
原田は少し震えている声で気楽に言った。
「多分、敵はエレクトリック・ダンスを僕が知るのを感づいているはず」
「そうだねー。そうだよー」
原田は首を捻り、色気づいて今度はヨハに抱きついた。
「雷蔵様~~。正攻法~~。C区と戦争をするのは~どうですか~~」
「うーん……まずは、できるだけ情報を集めようよ。こっちには九尾の狐と原田がいるんだし。エレクトリック・ダンスのことをもっと知ったほうがいいと思うんだ」
と、その時にマルカが立ち上がり、緊張したヨハが原田を押しのけた。
「雷蔵様~~!! 警戒して下さい~!! 敵が来ました~。C区のノウハウが10番アーチと5番アーチと1番アーチから、それぞれ5体来ました~~!!」
「喫茶店の裏から逃げましょう!!」
九尾の狐は小型の端末を折り畳みショルダーバッグに入れると、カウンターの奥の喫茶店のマスターに合図を送った。
喫茶店のマスターは遠くで頷くと、こっちへ来いと手を振り誘導した。
カウンター席からは九尾の狐の護衛のノウハウが二体立ち上がった。
手にはベレッタを持っている。
僕たちが質素なカウンターの奥へ行くと、飾り棚に並ぶ多種多様なコーヒーカップを目の当たりにする。左の方に更に奥へといく通路があった。そこは木製の壁で出来ていて、裏口に通ずる出入り口がある。大人が屈んでやっと入れる小さな木製の引き戸だ。
「雷蔵様。危険です!!」
マルカが急に身を挺して身を屈めようとした僕を庇った。
マルカに被弾すると同時に、喫茶店の窓が粉々に破壊された。外で散開した15体のノウハウが、サブマシンガンを一斉に撃ってきたのだ。大量の銃弾は店内のお客を殺戮する。護衛のノウハウと6体の狙撃銃を持ったノウハウがすぐさま発砲しながら、応戦していた。ヨハとマルカが自分たちの体を盾にしたりして、僕たちを木製の壁の通路へと逃がす。喫茶店のお客が一人また一人と次々に撃たれて倒れていった。周囲にバラバラとコーヒーカップや皿が散乱する。
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