スリー・C・バックアップのデータ。将来で莫大な大金になる可能性をはらんでいるが、日本を窮地に陥れるかも知れない危険なデータだ。そんな大きな天秤で測るような考えなら昔から僕は何の躊躇もせずにしていたはずなのに……。でも、こんなに苦しいのなら……誰かに聞いてみよう。
僕はその時になって、河守の笑顔が浮かんだ。
なんとか美人の範囲に入っている顔をして、スタイルも並。僕の遊び友達の女の子たちより、全然普通で……。でも、どこかがいいと思える時がある。
そう、捨てたものじゃないと思える。
河守……。
朝になると雪が積もっていた。
「よーし、何か食べに行こう!! 番組まだ大丈――夫!!」
藤元の大声が一階から響いた。
僕は5時に起こされた。
それから、入浴を10分だけして、玄関へ向かうとヨハと藤元が待っていた。
「今日はコンビニの流谷 正章さんにスーパーアタッーク!! 彼、今もう働いています!!」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振って、先頭を歩いて行った。
足元の雪が冷たさを靴に滲ませた。
僕は何だか新鮮な気持ちになった。
まるで、初めて大好きな車に乗った時のようだ。
そういえば、僕は流谷にも酷いことをしたんだった。
コンビニに入ると、店内の明るさに驚いた。雑多な品物が所狭しと立ち並ぶ棚に置かれてあり、流谷ともう一人の男性が店番をしていた。僕の顔を見ると、流谷は一瞬はっとしたが、すぐにニッコリと笑って、
「フライドチキンいかがですかーー!!」
元気良く言ってくれた。
早速ヨハがレジに行って、フライドチキンを買った。マイナンバーカードはA区でも使える。普通A区は現金が必要なのだが、生憎僕たちは持っていなかった。
「雷蔵様~~。一本おまけして下さいました~~」
「あ……ありがとう。その……前は悪かったね」
流谷くんはニッコリ笑って、
「もう忘れました!」
流谷 正章。20代で中肉中背のフリーターだ。
「ハイッ、野菜も取る!!」
藤元がコーン入りのサラダパックを僕の前に突き出した。
ヨハは大喜びでサラダパックを受け取ると、僕の選んだとんかつ定食を持ってまたレジへと向かった。
それぞれ朝食を買うと、藤元の自宅へと戻る。
藤元はチキンカレーを買った。そして、温めてもらってきた。
僕は何故か新鮮な感覚を覚えた。
「ありがとうございます~~。藤元さん~~」
ヨハはスキップをしていた。
食事の後、藤元が番組だと言って出掛けた。
ヨハがしばらくすると、キッチンにある真っ黒いテレビを点けた。
雪の降る中。
「おはようッス。って、まだ誰も起きていないかもッスね。取りあえず勝手にニュース始めるッス。云・話・事・町TV――!!」
美人のアナウンサーは元気だ。
ピンクのマイクを隣の藤元に向ける。
「おはようございます。藤元です。新しい信者。新しい仲間。来世で未来で、きっといいことあるよ。信者熱烈大募集中です!!」
背景にB区の街並みが見える。
「ハイっ!! よろしく!! …………じゃねえよ!! お前信者入っただろう!!」
「だって、まだ三人しかいないんだよ……」
「そんなことより、仕事ッス!!」
藤元は首を垂れるが、元気を取り戻し。
「ハイっす!! 今日の天気と運勢は、まずは天気予報から……えーっと……」
藤元は空を見つめて、
「今日は午後からたぶん大雪っスね。それから……運勢は……あ! なんと異性運激熱です!! 僕も恋人募集中ですよ!! よろしくお願いします!! 一緒に宗教しましょうよー!!」
美人のアナウンサーは、眉間の皺を気に出来ないほどニッコリと微笑んで、藤元の頭をピンクのマイクで刺した。
番組はそこで終わった。
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