「おっと、応援席から誰か飛んできましたね」
竹友が不思議がった。
空を飛ぶその人物はコーナーへと降りて、神社なんかでお祓いに使う棒を振り回している。
「何が起きているいるのでしょう?」
竹友は斉藤に首を向けた。
「さあ……解りませんが……おや?」
「あー!! 山下選手のランボルギーニ・ソニアと淀川選手のランボルギーニ・ラプターが走り出しました!! 命の別状はなかったのですね。それにしても、なんて頑丈な車でしょうか、ピットは必要ないですね。斎藤さん」
斉藤は首を傾げ、
「いや……確かに死んでしまうはずですが……」
僕は再びコーナーからストレートで初速を上げた。
先頭のノウハウは絶妙な減速をしてコーナーから出て初速を上げた。
ストレートでは、後方からもノウハウが乗車しているトミカスカイラインターボとフェラーリ FFが迫って来た。
スリーワイドになった。三台が横一線になることだ。
「おーっと、スリーワイド!!」
竹友はマイクを握り、
「これは難易度が高い!!」
「ええ、これは難しいですね。私なら、様子を見るか。どちらかが先頭を走ればその車に優先権がありますが、相手はノウハウのBチームですからね」
そうこうしているうちに、後ろを走っている流谷がコースアウトした。
Cチームの10tトラックがぶつけてきたからだ。
流谷は止む無く車から降りて、スカイラインGTRを押してコーナーに入ろうとする。
その時、後方からもう一台の10tトラックが迫って来た。
「あ!! 轢かれました!!」
竹友が悲壮感漂う言葉を残して、立ち上がった。
「死者がでてしまいましたね……この勝負。駄目でしょう……」
斉藤は空を飛ぶ人物を目撃した。
その人物は流谷の袂に降りると、神社なんかでお祓いに使う棒を振り回した。倒れていた流谷が何事もなく起き上がった。
「え!!」
竹友はさっきより真っ青になって、マイクを握りしめた。
「信じられません!! 流谷選手が生き返りました!!」
斉藤もぶるぶると震えて、
「何が起きているのでしょう……」
流谷は再びスカイラインGTRを藤元と押して、なんとかレコードラインに入った。
「頑張ってね!!」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振り、応援した。
「はい!! 妻の梨々花のために頑張ります!!」
流谷はすぐ目の前のコーナーを猛スピードで走り出した。
僕は未だスリーワイドから抜け出せずにいた。じりじりしそうだが、昔の僕の冷静さを保持し、相手の動きを観察した。
コーナーが迫って来た。
僕は横一台の車に体当たりをして、派手なドリフトをした。
「あっーと!! 雷蔵選手、体当たりとドリフトでスリーワイドを抜け!! 先頭のカナソニックスカイライも抜いた!!」
竹友が信じられないといった顔で、斉藤と目を合わす。
「ええ……。信じられません……。人間には無理な冷静さですね」
「おや? 田場選手と島田選手は猛スピードでストレートを未だ走り続けていますね」
竹友は首を傾げた。
「あ、そうか?! 相手の車を寄せ付けないのではなくて、体当たりで追い払っているのでしょう」
斉藤は愕然として言葉を放った。
2週目。
広いレーシング場を走るのは後、後4週までになった。
僕は河守のために走っていた。
そう。A区のためにだ。
昔の僕が陥れようとした場所を、今度は全力で守ろうとしている。運命とは皮肉といえるのが普通なのだろうか。
晴美さんが好きだった。
昔からだ。
だけど、僕はいつの間にか河守が好きになっていた。
何故だろうか?
車が出せる最大限の猛スピードを、ストレートで振り絞る。僕の前方には誰もいない。その瞬間、僕だけが走るレースのショーをしている感じが、錯覚だけれど、していたんだ。
風の音も歓声の音もエンジンの音も、僕だけのものだ。
「興田君。例のものを……」
角竹のしわがれ声は震えていた。
この大歓声の中で、現奈々首相を暗殺してしまえば、いくら茶番で勝っても意味がないのだ。
「ええ……。解りました」
興田の声はしっかりとしている。息子のためにとこれまで、努力を惜しまなかった父としての最後の花向けなのだろう。
「父さん。俺にやらせてくれ」
道助は応援席にいるアンドロイドのノウハウ数体に合図を送った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!