午前8時にマルカと藤元が帰ってきた。
「雷蔵様。A区の全市役所と全不動産の住居データを洗いました。九尾の狐の居場所が解りました。ここから西にいったところの地下エリア。那珂湊(なかみなと)商店街に、人目にまったくつかない空き家があるそうです」
マルカの言葉に僕は大きく頷いた。
「よし、早速行こう」
僕はキーを持ち出した。
「ちょっと、心配。僕は番組あるから行けないけど、きっといいこともあるよ」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振って、
「安全、無事のおまじない。何か起きたらまた来てね」
藤元にお礼を言うと、僕とマルカとヨハは車屋さんに頼んだ4座席の赤いスカイラインに乗り出した。
雪の道を走り抜け、西へ1時間余り、A区の地下エリア那珂湊商店街へと向かった。
吹雪いてきた。
車窓から雪が降り積もるA区が見渡せる。4年前は僕はここを金のために陥れようとしていたのだ。ハイブラウ(知識人の・文化人の)シティ・B。アンドロイドのノウハウによって、ほぼすべての労働を人間のかわりに独占してしまう。その政策は僕の父さんが前々から考案していた。
僕は昔から金に飢えている。
特別な乾きがある。
どうしてだろう?
「雷蔵様~~。また、上の空で~す」
助手席のヨハが僕の顔を覗き込むように見つめていた。後部座席のマルカも心配している。
「そんなに~一人で~~悩まなくても~~」
「…………」
電子式の液晶ミラーで後ろを見ると、雪はこのA区を白に染めていた。
雪に覆われた那珂湊商店街の入り口の花模様がついているアーチが見えてきた。丁度、下り坂のような地下へ通じる道がアーチの向こうにある。
そこへ入れば、九尾の狐を見つけられるだろう。
「九尾の狐は、那珂湊商店街の三番アーチ付近に住んでいます」
マルカが補足説明をした。
僕はそれを聞いて、スカイラインを地下へと走らせ、駐車場を探した。金網フェンスで囲まれた砂利が敷き詰められた駐車スペースをすぐに見つける。
道路沿いの脇にあった。
地下の那珂湊商店街は、それぞれ一番から十番まで十字路の入口にそれぞれ花柄のアーチがあり、通路を挟んで立ち並ぶ店などには、種々雑多なショーウインドーに電化製品から食品。工具や衣料品などを揃えていた。
僕はマルカとヨハを連れて、三番アーチを探す。
行き交う人々は平和な顔をしている。昔と違って、今の社会全体が平和になったので、あまり気にしたことがなかったが、とてつもなく素晴らしいことだと思えてきた。
僕はその素晴らしいことを壊そうとしたのだ。
僕は一体?
「雷蔵様」
マルカの声ではたと気が付く。
「雷蔵様~~。上の空から戻りませんと~~。あそこの人です~~」
僕はヨハの指差す人物を確認した。
三番アーチの中央に立つ女性がいた。二体のノウハウを連れ、こちらを見つめていた。行き交う通行人はこちらを見ると、笑顔が薄れどこか緊張した顔になる。
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