ご近所STORY2 エレクトリック・ダンス

ちょっぴり笑えるSF ご近所物語の続編です
主道 学
主道 学

7-39

公開日時: 2024年7月22日(月) 20:39
文字数:1,676

 晴美さんは身を低くしていたが、また、真っ直ぐに立ち上がり、

「一家に一台だけノウハウを人間のサポートにする。これが、私の政策です。あくまでノウハウは人間のサポートなのです。どうか、皆さん。私に。人間性を一番に尊重する私に、清き一票をお願いします」

 晴美さんは演説をしながらの選挙カーが僕の目の前を通り過ぎていった。

 僕はもう安心だと思い。晴美さんの選挙カーを見送り、家に戻った。


「どう? 暗殺は防げた?」

 34階のキッチンのテーブルで、顔を伏していた河守が開口一番その言葉を口にした。

「ああ……」

「どうしたの? 何か思わせぶりな顔ね?」

 僕は胸騒ぎをしていた。

「何か変なんだ……?」

 河守が立ち上がり、僕の顔を覗いた。

「変……?」

 九尾の狐と原田が廊下のエレベーターからやってきた。

「取り敢えずは、一安心ね……」


 九尾の狐は小型の端末を大事そうにテーブルに置いて、一息入れるために大量の砂糖を入れたコーヒーをキッチンで淹れた。

「雷蔵さん。浮かない顔だね?」

 原田はあのボディアタックのせいで、顔が上気している。

 多分、久々なのだろう。

「ああ……今思ったんだけど……選挙には勝つのか?」

 僕は胸騒ぎの原因が解りかけていた。

「それは……?」

 河守が首を傾げた。

 興田 道助の宣言では金がかからない。逆にA区を食い物にすれば、B区とC区。つまり、日本の将来性に金が入る政策だ。

 しかし、晴美さんの政策は金がかかりすぎる。

 金が相当にかかって、国の人間的将来性はあるのだが、国民はそうは思はないかも知れない。

「うーん。確かに今の選挙活動的にはどうかと思うわ。あの宣言では……?」

 九尾の狐がコーヒーに口をつけた。

「この選挙で勝たないと、意味はないね……」

 原田はお洒落な度なしレンズをハンカチで拭いていた。

「でも、奈々川首相の実力に頼るしかないわ」

 河守はニッコリと笑った。

「確かに……」

 僕たちに出来ることはここまでか……。


 次の日。

 云話事放送Bで記者会見の場で晴美さんが退陣していた。

「晴美さん……」

 僕は34階のキッチンで朝食を河守と取っている時に、テレビを不安げに観て呟いた。

 そして、国民は興田 道助も選んでいたのだ。

 選挙では選挙存続期間というのがある。選挙で勝ち続ければ首相になっていられる。任期は廃止されていた。


 記者会見の場で、晴美さんの姿が見えなかった。そして、興田 道助がこう宣言した。

「日本の将来性の勝利ですよ。今から新しい政治が行われる……私が首相になったのだから、日本は発展していきます」

 新聞記者が質問を浴びせた。

「前奈々川首相(晴美さん)は退陣しましたが、どうしたと思いますか?」

 興田 道助がふざけて軽口を言った。

「きっと、前奈々川首相はトイレにいって、時間が掛かったので出てこなかったのですね」

 興田首相のセクハラ発言に新聞記者たちから笑い声が聞こえた。

 僕は頭にきてテレビを消した。

「きっと、何か起きたわ!」

 河守が突発的に電話で首相官邸の夜鶴に掛けた。

 原田が上の階からエレベーターでやってきた。

「やっぱりここか。寝室に二人でいたら、どうしようかと思ったよ。テレビで奈々川首相がいなかったから、何か起きたと思ったんだ」

 原田は緊迫した顔をして、僕の真向いの席に落ち着いて座った。

 河守のコールで、夜鶴が出たようだ。

「え……。トイレから出てこなかった?」

 河守が辟易したが、次の言葉を夜鶴が言ったようで、すぐに緊迫した。

「毒?」

 僕は見誤った。

 毒のことを知っておきながら、警戒することをしなかった。


 敵は用意周到だったのだろう。

「食材に微量に混在していた……? それで、晴美さんは?」

 河守がすぐさま受話器越しに問うと、

「一命は取り留めた……よかった……」

 僕は山下が藤元に頼まれて、渡した手のひらサイズのプラスチックのことを思い出した。

「それで、今、病院?」

 僕はカレンダーを見ると、C区に頼んだアンジェたちの修理が終わった日が明日だった。

「雷蔵さん。病院へ行きましょう」

 河守が今まで見たことがない不安な表情をしている。

 とても、心配しているのだろう。

「いや、明日にしよう。敵が待っている……」

 僕は不敵に笑った。


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