蜘蛛を愛する観る将JK 将棋の聖地に行ったらなぜか喫茶店で探偵見習いになる

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第3話 怪しすぎるサングラスの男 1

公開日時: 2022年9月12日(月) 14:20
文字数:1,552

「邦ちゃんの言う通り、転売目的の線が濃厚だな」


 先ほどまでの孫娘を思う好々爺から一変し、『元刑事』モード全開になった内藤さんはベンチに腰を掛けて話を続けた。


「ここに来る女子高生が限定品を持っていることを知っていて、一瞬の隙をついて盗った。もしくは、あちこちで高く売れそうなマスコットを狙っている一味か。これは思った以上に大事になりそうだな」


(ひぇ~、今日はただ千駄ヶ谷の将棋会館に行きたかっただけなのに)


 単なる失くしもの探しだと思いきや、どうもそんなレベルの話に収まらない様子に藍は焦った。その一方で、探偵の助手的な気分に浸れて悪くはなかった。


 「なにかユミちゃんのマスコットって、組み紐以外になにか特徴はあるかい。限定の品ならナンバーが記されているとかないか。よく時計でもあるだろう。刻印がついている時計」


「そんな品は一般人が買える品物じゃねぇから。時計以外にも高いぬいぐるみとかには確かに刻印されている。でもよ、アイドルのマスコットにそんな印ついてないだろう」


 内藤さんは否定的だったが、とりあえず状況確認でユミに電話をかけてみた。


「今な、邦ちゃん達と御苑に来ている。もしかしたら転売目的の盗人じゃねぇかって話になってよ。二人組以上とか、ちょっと怪しい雰囲気の人を覚えていないか。あとさ、組み紐以外に目印というか特徴みたいなのあるか」


 孫娘の話を聞きながら内藤さんは一生懸命メモを取り、その文字をマスターと藍は目で追った。


『マスコットの右肩にワンポイントで青色の星の刺繍がある。それは完全オリジナル』


「分かった。ありがとうな。じいちゃんが必ずホシをあげるから。うん、待ってろ」


 電話を切ると、突然藍に向かって内藤さんは指令を下した。


「シリアルナンバーは無いらしい。そんでお嬢ちゃん、オークションでみー君のマスコットを探してくれないか。その中で、右肩に青い星の刺繍があったら、それは完全にユミのだ」 

「わ、分かりました!」


 その場で手あたり次第、フリマアプリやオークションサイトで探してみたがそれらしきマスコットは見当たらなかった。


「もし、転売なら昨日盗って今日出品は難しいかと。写真を撮ったりと準備も必要です。それに、元々なかった『星』があれば出せないでしょう」


 出品されない可能性もあることに気が付き、内藤さんの表情が暗くなった。持ち主にバレるおそれのある品物は、処分される可能性があるからだ。


 マスターは何かを感じ、話題を変えた。


「もし転売目的ではないなら、彼女へのプレゼントとかもあるぞ。男女問わず入れあげているほど、無茶なことするからな」

「盗んでまでなんて、そんなの愛じゃねえな」 


(転売なら明日以降、出品されるかもしれない。いつまでたっても出品されなければ転売目的の線は消えるけど、果たしてどうなるか)


「手に入らないから好きな子へのプレゼントで、という線もあり得ますね。この辺りにいた時、ユミさんと同世代か大学生くらいの男性がウロウロしていたら完全に参考人レベルですね」

「それがさ、一人いたらみたいなんだよ。マスク着用で黒いサングラスかけてヘッドフォンをつけて、ベンチの周りをうつむき加減に行ったり来たりしていた若い男が」


(完全に怪しい。でも、自分から『私は怪しい人間です』という雰囲気の人って実は犯人じゃないことが多いし……)


「それって……」


 藍が自分の考えを口にしようとした瞬間、ユミさんの言う『怪しい若い男』が目の前を歩いて行った。


「あ、あんな人ですか?」


 藍の裏返った声に反応を示した二人は彼女が指さす方向を見た。


「うん?!」

「お、あれは……」


 驚いたことに、マスターが大きな手を振って呼び止めたのだ。


「おーい。こっちこっち」


 自ら怪しい人ですと周囲に教えるような外見の若い男は、軽く会釈しながら近づいてきた。

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