「なぁ、マルコが勤めている王国のヤツらって
"アズル"って持ってたりするのか?」
アズル
種族によっておそらく異なる『必殺技』。
マームートンでは物理攻撃の強化・体術などが
挙げられるが、おそらく他の種族は魔法などを取得することができると推測できる。
「はい。噂には聞いています。
現在、王国では新入兵士の祝賀会が行われているのですが、
どうやら、数十人が"アズル"を発現した者がいるとか・・・。」
(なるほど。新米王国兵士として一部のプレイヤーはこのゲームに参加しているってわけか)
クリアするための条件としての最初の関門は
『プレイヤー200人の内100人まで生き残る』
クリアに近づくための鍵は手に入れた。
この情報を得れただけでも、兵士を生かしたメリットを十分に享受できている。
「ですが、長年王国に勤めている人も
アズルが発現している方もいます。
何も新入りだけが持っているわけ
ではないんですよ。」
(ん・・・?つまり、キャラクリの時に
<王国陣営>で既卒と新卒で分かれてるってか?)
誰がNPCで誰がリアルプレイヤーなのか意味がわからん。
「もしオレがアズルを持った熟練の兵士と闘ったらどうなる?」
つい興味心が湧き出て、聞いてしまった。
「殺されるでしょうね。彼らは、危険度SSのドラゴンを使役していたりします。
さすがに、あなたでも無理だと思います。」
(ドラゴン・・・??おいおいプレイヤーだけじゃねぇのかよ。もはや洋ゲーの世界観だぜそれ。)
「はははっ冗談だよ。聞き流してくれ。
そういや結構歩いてきたけど、そろそろ宿場町つくかー?」
MMOで徒歩の移動。なかなか地味だぜ。
普通は、乗り物とかに乗れねぇのか?
馬車とか。
「この関所を通って大橋を渡ります!
町に着いたら、王国とかあまり口に出さないほうがいいですよ?
未来は廃村確定なので、大した給付金はでてませんが、王国の敬虔な信徒もいますし。」
「ああ。わかった。」
言っていた通り、関所の受付は誰もいない。
扉もそのまま開いており、もはや関所が役割を果たしていない。
「でもマームートンのあなたを連れてきたら、
たぶんビックリするだろうなぁ。」
「おいおい。オレは見世物じゃないんだぜ?」
「はははっ」
少し空気が和み、大橋を渡っていく。
巨大な川が流れており、現実世界のような汚い色をしていない。ぜひとも、この川を現実世界に導入してほしい限りだ。
そのときだった。
大橋の終わり。
開放された扉に、黒い直線が張られていることに気が付いたのは。
「お、おい!!なんか張られているぞ!!」
「え??なんです?イやな人だなぁ。
体系は兵士の中では小さいですが、もう成人済みですよ?
そういう冗談はやめてくださいよ~。」
兵士はそのまま歩いていく。
そして、その直線が重なる部分に全身が触れる。
ビリビリリリリイ!!!!!!!!!!
兵士の顔、首、上半身を切り裂かれたのかと思った。"ワイヤー"だ。
そのワイヤーに電撃が走り、全身が丸焦げになった。
ついさっき笑顔を見せていた兵士が、あまりにも無慈悲に身体が崩れ、そのまま消滅する。
「ふーん。やっぱりNPCには"アズル"は見えてないってことか!
もう一人殺せると思ったけど、さすがに連続キルはできないな。」
頭上を見ると、門扉の柱に立つハゲた坊主がいる。顔は悪党顔で、いかにもずる賢さを
兼ね揃えていそうだ。
「なんだぁおめぇ。プレイヤーか?」
せっかくの朗らかな雰囲気を潰されて、やや苛立ちを覚える。
「ああ。君もこのゲームの参加者だね。
じゃあ僕は君と闘わなければならない。」
敵は、門扉の上からフロントフリップをして腰につけている
かなり長い鞭を展開する。
そのまま鞭を縦ぶりし、オレに向かってくる。
(早い!!ガードをせねば)
右手を前に出して庇い、攻撃を防ぐ。
バチバチッと全身に強い電気が走る。
「ぐはっ。なるほど。これが本格的なpvpってか。かなりいてぇじゃねぇか。」
かなりえぐい痛みが全身を駆け巡る。
しかも鉄の鞭・・・現実でぶん殴られるよりよっぽどいてぇ。
「ふっふっふ。本当にブリッツァを選んでいて正解でした。
仕込み罠であるワイヤーのアズル・長距離射程の武器。そして相手の部位の動きを縛れる雷属性を操れるとなれば、クリアもそう遠くない!!」
鞭を自由自在に振り回して、距離を取らせることを強制させる。
(クッ下がったはいいがどうする。。
今のオレに遠隔攻撃はねぇ。」
「あまりにも離れた相手に対しては・・・。」
青白く光るその左手には、雷が迸る。
「魔法だってあるんですから!!!!」
直線状に伸びてくるその電撃の速さについていけない!!
(まずい・・・!!!!)
ぐっ、岩を展開して盾を張るアズルを取っとけば良かった・・・ダッシュじゃ、、間に合わねぇ!
「グあああああああ!!!!!」
その魔法はガードをする余裕もなく、俺の全身に痛みが直撃する。
「ひっひっひ。少し前、ここを通ったプレイヤーを倒したことで僕はレベルアップしました。」
「それによって得たのがアズルツリーポイント。。今の私は、誰にも止められない。最強のブリッツァ―なんですよ!」
鞭が再びオレに向かってくる。
強い電気を纏っており、掴んだところをカウンターすることは不可能。
暴力的な鞭の横振り。身体をのけ反らせるには、やつのやや低い身長から繰り出される
鞭を回避するには至難の業。
なればこそ!!
オレは全力で直進する。
パッシブで鍛え上げられたその脚力は、
たちまち、自身で回避のために取った距離を詰める。
ヤツの電撃鞭を跳躍し、回避!!
その後、払った鞭の位置からさらなる往復の一撃を放つために
電気ハゲは、上空から大地へ斜めに鋭く穿つ準備をする。
さながら、バレーのアタックの体制をとるように。
「なに・・・はやい!!!」
鞭の威力を高めるために、やや体制を硬直させていた。
しかし、男は見誤ったのだ。彼のその速度を!!
そして加算されるスピードパッシブ!!
その速度は野生動物をも彷彿とさせる。
現実世界では近寄ることのないその速度を!!
「ひ、ひいいい!!!しねええええええ!!!」
思いっきりふったその鞭にはさらなる電気が
まとわりつく。
「あめえんだよ!!」
中途半端な斜めからの微妙な角度の一撃を回避。
鞭はやや威力が落ち、刹那・・・地を這うことになる。
「もらったああ!!!」
足に全力を込めて、鞭を踏みつける!!!!
「なんだと!!!!」
吐血の一撃
その拳に宿るオレンジ色の光。
その一撃は、おそらく"アズル"によるもの。
決して、耐えられるものではないだろう。
そのまま飛び込んでくる。
(死への恐怖が僕を蝕む。)
ここで死んだら、どうなる・・・
意味のわからないゲームをやらされ、と思ったら
序盤からラッキーなことに一人狩れて・・・
現実の死・・・そんな恐怖が僕を包む!!!
(ダメだ!!このままでは終われない!!)
「お前が右手のアズルを使うなら・・・
ボクはお前の拳を全力でつぶす!!!!」
鞭を手から離し、両手を前にかざす。
さぁ発動しろ!!ボクに与えられた王国のアズルよ!!!!
サンダーバード
効果:超接近距離の際、魔法の威力・範囲・速度を1.5倍させ
特定の部位を狙う際に参照される魔力精度も通常の2倍となる。
条件①両手に武器がない
条件②両手を敵に向けている
条件③発動後24時間は再発動できず、36時間は得た経験値の半分を
王国陣営が取得、自身に入る経験値は全て0となる。
条件④王国陣営プレーヤーおよびNPCに当てることはできない。
(狙うは一瞬。ヤツのバフがついたその拳ごと!!)
遠隔魔法のアズルである『ボルテックス』は
鳥のような形になり、そのまま左腕に飛ぶ。
産声を上げたその電撃は、威力十分。
利き腕を完全に潰してしまえば、
いくらベースステータスに差があったと
しても終わりだ!!!
鳥類の形をした電撃は、バフがかかった彼の腕を貫通!完全に逝った!!!
「フッ。完全にお前のアズルを無効化した。
勝ち目はもはや微塵もない!!」
「なっ!!」
そのまま飛び込んでくる!!
化け物か!!しかし、左腕が機能しないなら、ダメージは微小!距離を取りもしくは鞭を拾って攻撃・魔法を使えばいい!
「攻撃が左腕だけだと思うんじゃねぇーよ!!!!」
潰されてないほうの手でくるか・・・!?
ならば、ガード、いやマームートンの威力は利き腕でなかろうとガードできない!
回避をしながら鞭を回収。そのまま隙を見て鞭で乱打すればいい!!
くる!!!と思ったが、彼はボクを追い越して、背後に駆け抜ける!!
ヤツのオレンジ色に光っている腕は、力を入れることは到底できそうもない、
なにせ明らかに折れて使い物にならない腕だ。
代わりに、彼が上げるその足は鋭利な刃物のようなものがついており、その狂気がアキレス腱へ急降下する!!
直立破壊!!!!!
直撃。その攻撃は自分を支える足の重要な
部位に刺さる。
刺さったら最後。
役割は破壊され、直立することが不可能となる。
「あ、ああ・・・が。。」
そのまま倒れ、橋を支える床と一体化する。
(む、むり・・だ。
ヤツは腕のみのアズルを持っているわけでは
なかった。。のか。)
そのまま僕は倒れた。
僕を構成しているポリゴン。
それが崩れ落ちていく。
一度勝ったことで慢心したか・・・?
いや、もう僕は、、こんな地獄に残らないで
いいんだ・・・。
もうこんな痛い思いをしたくない。
関所間の大橋で行われた闘いは、
決着を迎えたのだった。
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