自分の書いた小説の中の悪役に憑依しちゃいました。

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fishbaum24

一話

公開日時: 2024年10月11日(金) 20:26
更新日時: 2024年11月11日(月) 17:36
文字数:3,695

宮川(みやかわ)侑佳(ゆか)

2000年6月2日生まれ、AB型、女

職業は小説家

只今、締切直前の原稿を猛スピードで仕上げています。



プルルルルップルルルル

締切直前のピリピリしている時期に電話をかけてくる人物はただ1人。同じくピリピリしている私の担当者の武田(たけだ)さんだ。

普段は優しいのに締切前になると人格変わるから正直この電話とりたくない…でもとらないとあとで5倍くらいになって返ってくるんだよなぁ


「……も、もしもし…宮川、です」


「今から原稿とりにいく」


「申し訳ありません…あともう少し待っていただけないでしょうか……?」


「はぁ?!!まだ終わってねぇのかよ!お前な…今まで何やってたんだよ!」


「すみません…あと3日待ってください…3日後には必ず完成しますので、お願いします」


見よ、この借金の取り立て屋と借り手のような会話。多分この部分だけ切り取ったら、誰も小説の原稿のこと話してるなんて思わないだろう。



電話越しにバカでかいため息をつく武田さん。

「あと3日な!3日以上は待てないからな!!」

ブチッ


武田さんはそう言い残して(怒鳴って)そのまま電話を切った。


「………怒鳴らなくったっていいじゃん…」


怒鳴られたことにもやもやしながらも、髪の毛を結び直し、伸びをしてから改めてパソコンと向き合う。



“李 紅林(り こうりん)は泣きながら竜聖(ろんせい)への愛を訴えた。

「どうして?!私はこんなにもあなたを愛しているのに!あなたはあんな女と結婚するために婚約者である私を殺すっていうの?!」

竜聖は自分への愛を伝えてくれている紅林を冷たく睨んだ

「お前は知らなかったかもしれないが、俺は昔からお前が嫌いだった。遅かれ早かれお前を殺していたさ」

「10年間ずっと好きだったのに、、、許さない!方 竜聖(ほう ろんせい)!私はあなたを許さない!死んだら呪ってやる!!」


竜聖は自らの婚約者を殺した。”



「自分のことを10年間も好きでいてくれた女の子をこんな簡単に殺すなんて、、、自分で作ったキャラだけどこの男最低。」




”蘭華は自分を騙し、母国を滅ぼそうとした竜聖に怒りを覚えた。

しかし怒りの感情以上に蘭華には竜聖への愛情があった。


「竜聖、私達逃げましょう?どこか遠い田舎に逃げて、そこで静かに暮らしましょう?私はあなたを失いたくありません」


自分の国を捨ててでも自分を選んでくれた蘭華だが竜聖はそれに応えることはできなかった。


「すまない蘭華、俺はこの国の第一皇子だ。国民の期待に応え、国民を守る使命がある。君の提案を飲むことはできない。」


竜聖はそう言ったあと蘭華の宮殿をでた。


「竜聖…私はいつまでもあなたを待っております。」


誰もいなくなった宮殿で一人、蘭華はそう呟き静かに涙を一粒流した。”





”竜聖は自分が朱孤(しゅこ)の国の侵略に失敗したのだとそこではじめて気づいた。その後国に帰り、竜聖は侵略失敗の責任を取らされ国を追放された。


それから3年後、


竜聖は行先を決めるわけでもなくただただ歩くだけの毎日を送っていた。

服はぼろぼろ、髪はぼさぼさになり、髭は伸びきっていて右手には酒をもって元皇族とは思えないような姿をしていた。”





”蘭華は竜聖の姿を見て一瞬驚いたような顔を見せた。

すると蘭華の後ろから「母様!」と呼ぶ声がする。竜聖はその声の方を見るとそこには幼少期の自分にそっくりな子供がいた。竜聖はすぐにその子が自分の子だとわかった。そしてその場で泣き崩れ「ごめん」と繰り返した。

そんな竜聖を見て蘭華はそっと竜聖を抱きしめた。


「おかえりなさい」


完結”


「終わったー!!!!」


あとはこれを印刷して武田さんに見せるだけ。


あーでもやばい、どうしよう、すっごく眠い

今すぐ寝たい

ちょっとだけ寝させて~

起きたらやるかr…



____________



「お……う…さま!…お嬢様!!!」



んぅ~誰?うるさいなあ

原稿書き終わったばっかなんだからもうちょっと寝させてよ



………ん?原稿…?



「やばい!原稿提出しないと!!」


勢いよくベッドから飛びおきた私はそこではじめて異変に気付いた。

嗅ぎなれない独特な匂いとふかふかでシルクのような肌触りの布団

クイーンサイズほどあるベッドの天蓋には真っ白な鳥が施されていた。

部屋は30畳ほどだろうか。家具やドアなどもすべて木で統一されていた。

窓からは太陽の光が差し込んでいて少しまぶしかった。



「え、どこ?」


すると急にガシャンッとなにかが落ちた音がした



反射的に音の方を見るとそこにはまるで古代中国の頃のような服を着ているかわいらしい顔をした女の子が涙目になりながらこちらを見ていた。




その子は私と目が合うと私の方に走り寄ってきた。


「お嬢さま!大丈夫ですか?!急に倒れたので心配したんですよ!」めちゃめちゃ号泣してて気まずい…


「あ!失礼しました!うるさかったですよね!!なにか口にできるものを持ってきます!」


心配したかと思えばなぜか謝ってきたその子はそう言いながら走ってどこかへ行ってしまった。

「なんだったんだあれは」


ここはどこなのか、なぜ自分はここにいるのか、いろんな考えを巡らせながらベッドを降りて部屋の中を歩いてみる。

ふと部屋の隅の鏡が目に入り、見てみるとそこにうつっていたのは私ではなかった。

「えええええええええええええ?!」


ツヤツヤの黒髪にくりっとしながらも少しつり上がった目。透き通るような白い肌。唇は水を含んだような赤色をしていた。


これはまさか……最近流行りの異世界憑依?!

しかもこれは恐らくただの異世界憑依じゃない。

私の推測があっていれば恐らくここは私の書いた小説の中。

そして私は作中96ページ目で死ぬ主人公の婚約者

李 紅林(り こうりん)


うわー、最悪

なんでよりによってすぐ死ぬ役に憑依しちゃったんだろう…

そうだ!今がもし作品が始まる前ならもしかしたら死を回避できるかも!


そう思いついた瞬間、ちょうどよくさっきの侍女がお菓子とお茶を持って戻ってきた。


えっと、私が紅林だから多分この子は…


「鈴香(りんか)?」


「はい。どうされましたかお嬢様?」


良かったあってたみたい


「竜聖様は今どこにいらっしゃるの?」

まずは話が始まってるかを確認してから行動しよう。


「竜聖様は確か朱孤(しゅこ)の国に向かう準備を竜光(ろんこう)殿でされていると聞きました」

私が書いた話は竜聖が朱孤の国についてからのお話だからまだ作品が始まるギリギリ前だわ。

今から婚約破棄をしにいけば私の命は救われる!


婚約破棄したあとはもう好きなだけこの家のお金を使って死ぬまで遊んで暮らそう!!


「今から竜聖様のところにいくわよ」


「かしこまりました。すぐ準備いたします」


______________



皇宮について私は李紅林という人間がどれだけ嫌われているかを痛感した。

歩いているだけで、周りの使用人たちが強くおびえているのがわかる。


もうやだ、悪女やめたい…




さっさと婚約破棄してすぐに帰ろう



「お嬢様?竜光殿はこちらですが…」



考え事してたら目的地を通りすぎてたみたい


「え?ああ!ごめんごめん!ぼーっとしてた。ありがとう」



「え?!」


鈴香は急に驚いたように声をあげた



「………え?」



どうかした?私なにかした?



「しっ、失礼しました!なんでもありません!参りましょう!」



「あ、そう」



え、なに?怖いんだけど?

まあいいや、とにかく今は竜聖との婚約を破棄しなきゃ




「失礼します。竜聖様」



宮殿に入り軽く挨拶をするが竜聖は机に座りながらちらっともこちらを見ずにもくもくと何かを書いていた。



え、なにこいつ。私を誰だと思ってるの?

この小説の作者なんだけど?

あんたの母親よりもあんたのこと知り尽くしてるんだけど?

もう実質神様みたいなもんなんだけど?

挨拶くらいしなよ!



って言ってやりたいけど今の私は紅林だから、落ち着いて侑佳





「本日は竜聖様にお話しがあり参りました」

はいはい。これも無視ですね。


「婚約を破棄していただきたいのです」

  

私がそういうと竜聖はやっとこっちを見た。


え、めっちゃイケメンなんだけど。こんなイケメンに書いたっけ私?

そういえば白雀の国1の美男子って書いた気もしなくもないけど、これは好きになるわ!

ちょっと紅林の気持ちがわかるかも。

  

  

「そなたからそのような話を持ち出されるとは驚いたな。なにが目的だ」

  そういいながらこちらを見る目は氷のように冷たくて、ゾッとするような目つきだった。

  

  

「いいえ、目的はありません。」

  

「嘘を申すな。そなたがなんの企みもなく私との婚約を破棄するはずがない」


まぁ、いままでずっと紅林の執着に縛られてたんだし、そう思うのも無理はないか…

  

「嘘ではございません。これ以上婚約で竜聖様のことを縛りつけても竜聖様が私を愛することは無いと気が付いたのです。」

  

実際10年間も好きだったのに簡単に殺されるしね

  

「愛する者には自分の手でなくとも幸せになってほしい。だから竜聖様の愛する人と結婚してください。理由は本当にそれだけです。10年間ずっと心からお慕い申しておりました。婚約破棄の手続きはこちらで済ませていただきます。どうぞお元気で。失礼します。」

  

こうして私は李紅林の10年間の恋を終わらせたのだった。

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