自分の書いた小説の中の悪役に憑依しちゃいました。

fishbaum24 f
fishbaum24

三話

公開日時: 2024年10月12日(土) 21:24
文字数:2,958


嘘でしょ…?そんな展開、作者である私も考えたことなかったし、竜聖が紅林を好きになるなんてそもそも絶対にありえないことなのよ…?

だって竜聖…あんたは紅林が原因でお母様を亡くしているじゃない…




私はこの小説を書き始める前のキャラクター設定の段階でどうしても竜聖のキャラクターに矛盾を感じていた。本来、国民にも召使い達にも優しく接する竜聖がいくら悪女だからといって自分のことを一途に愛してくれている紅林を殺したいほど嫌っていることに違和感があったのだ。

そこで私は竜聖の母である王妃の死因を幼い紅林が泉に落ちたところを救うために亡くなったことにした。

幼い頃のトラウマはそう簡単に消えるものじゃないし、これで竜聖が紅林を完全に嫌う理由ができた。と、思っていた。



なのに今私の目の前にいる竜聖は紅林を嫌うどころか婚約破棄を拒否するくらい紅林を好きになっている。って


そんなの良くないに決まってる!そんなことしたら物語が正しい方向に進まないじゃない!物語が正しい方向に進まないということは私が書いたこの先この世界で起こることが全部パーになる!ってことはこの先起こるかもしれないトラブルに対処できなくて私は平和な生活を手放すことになり、最悪の場合死ぬ!

そんなこと絶対にさせない!何とかして物語の方向を戻さなきゃ…!







「お気持ちは大変うれしいのですが、私はもう竜聖様を愛してはおりません。」




「…っ!なぜだ?」



「これといった理由があるわけではないのです。ただある日突然竜聖様への気持ちが冷めてしまったのです。もう竜聖様のどこを愛していたのかも忘れてしまいました。ですので、竜聖様との婚約を解消したいのです」


私の言葉を聞いた竜聖は俯き、そのまま何も話さず、動かず、じっとしていた。

え、ちょっと言いすぎた?


「あ…」

ここで私はあることを思い出した。

作中、竜聖は白雀の国1の美男子だったことが理由でいろんな女に言い寄られてはいたが、当の本人ははあっても、誰一人と一夜をともにすることはあっても好きになることはなかった。そんなとき蘭華と出会い、蘭華を愛するようになり、それが初恋となった。ということは蘭華を好きになる前に紅林を好きになってる今、紅林が竜聖の初恋ということだ。


それに気づいたとたん私の中の良心が痛み始める。


どうしよう、やっちゃったなこれ…


「あ、あの…竜聖さm



「紅林以外のものは皆、外に出ていろ」


私の言葉を遮ってうつむいたままの竜聖が言った。

みんな命令に従って次々部屋から出ていき部屋には私と竜聖様の2人だけになってしまった。



「あ、あの、竜聖様?なぜ他の者たちを外へ?」


竜聖はゆっくりと顔を上げる

彼の瞳を見た瞬間、強烈な威圧感に私は身動きが取れなくなった。


な、にこれ…身体が動かない


真っ黒な竜聖の瞳が、私を睨みつけている。

強い憎しみと切なさを帯びた彼のまなざしに頭の中では警報が鳴り響いて、本能が逃げろと叫んでいる。


竜聖は一歩、また一歩と私に近づいてくる。

重い脚を動かして後ろへ退る。

ただ歩いているだけのはずなのにそれが死へのカウントダウンのように思えてしまう。


嘘でしょ?!作者の私でも物語のベースは変えられないってこと?私ここで死ぬの?!


とうとう竜聖に壁まで追い詰められ、覚悟を決めて目を閉じる。

その瞬間身体が宙に浮いたような感覚になり、反射的に目を開けると竜聖が私を抱きかかえて寝台の方向に歩いていた。



「え、ちょっ!え?!竜聖様?!」


この状況はなに?!なんなの?!


寝台の前で止まったと思えば、そのまま寝台に押し付けられ、頭の上で両腕を固定される。



「竜聖様っ離して下さい!!」

固定されている両腕をどう解こうとしても普段から鍛えている王子に普段から部屋でぐうたらするしか脳が無い私がかなうはずもない。


竜聖は片手で私の両腕を固定し、もう片方の手で私の顎を掴み強引に自分の方に顔を向かせる。


「紅林、そなたは私のどこを愛していたのか忘れたと言っていたな。ならば思い出させてやろう」


なにが起こっているのかまだよくわからず、呆然とする私の唇に温かいものが覆いかぶさる。

「んっ…?!」

驚いて彼の唇から逃げようと顔を逸らそうとしても逃がさないと言わんばかりに後頭部に彼の手がまわる。

段々酸素が薄くなってきて、意識が遠のいていく中でふと目を開けると竜聖の頬には糸のような涙が一筋流れていた。

なぜ私は彼の涙を見てこんなにも胸が締め付けられているのだろうか…





窓から差し込む光に起こされてそっと目を開ける。

部屋には私一人しかいなくて、寝台の横の小さなテーブルの上には竜聖が昨日持っていた簪が置いてあった。

その簪をみて昨日起こったことを思い出し、急いで布団の中と自分の服を確認するがおかしな点は無く昨日の出来事が夢だったのではないかと思わせるほどだった。



「はぁ…なんでこんなことになっちゃったんだろう~…」


ほぼ半泣きになりながら昨日の出来事を思い出し、竜聖から紅林への執着が異常なことに頭を抱えた。


だがしかし、私はこの物語の作者。天気や建物、食べ物だって全部私が作ったもの!このイレギュラーな事態を解決できないわけがない!

なんとかして物語をもとの流れに戻す!

そのためにはまず竜聖と蘭華をくっつけさせないと!

でもどうやったら竜聖と蘭華をくっつけることができるんだろ、、、


ぐうう~


作戦を考えようとした矢先、腹が私にものを食べろと訴えかけてくる。



「うん。ご飯食べてから考えよう!腹が減っては戦はできぬ!!」


そうして鈴香を呼んで朝の身支度を済ませた後、朝食の準備をしてもらう。


「いただきます!!」


「お嬢様、昨日は竜聖様とどのようなことをお話されたのですか?」


「ブッッ!!!」

予想外の鈴香からの質問に口の中のものが飛び出てしまう。


「お嬢様!大丈夫ですか?!」


「大丈夫大丈夫!ちょっと変なとこに入っただけだからきにしないで!」


「それならいいのですが…」


「そうだ茉莉花茶を持ってきてくれな?」


「かしこまりました!」


あっぶねー!言えるわけない!竜聖にベッドに押し倒されてディープなチューをされたなんて絶対言えるわけがない!

こんなこと鈴香が聞いたら泡吹いてぶっ倒れる絶対!!このことは絶対に墓場まで持っていく!






「ごちそうさまでした!今日もおいしかったって料理長に伝えておいて!」

空になったお皿を前に手を合わせる

「かしこまりました!」


「それと、いまから王宮にいくわよ」


「竜聖様に会いに行かれるのですか?」


食器を片付けながら聞いてくる鈴香。


「いいえ!皇帝陛下に会いに行くの!」


「皇帝陛下ですか?!ですが皇帝陛下にお会いするには一か月前から申請が必要なので、恐らく王宮に行ってもお会いできないと思うのですが…」

鈴香は不安そうに私を見つめる。


まぁそこらへんはまかせろって!私を誰だと思ってるの?この物語の作者なんだから!いま皇帝が王宮のどこにいるかなんてお見通しよ!


「大丈夫!散歩がてらに会えたらいいなー程度だから!さっ!行こう!」



「あ!お嬢様!お待ちください!!」


荷物を持った鈴香の手を引いて馬車に向かって走る。


私が元いた世界に神様がいたとしても、今この世界の神様は誰が言おうと私!待ってなさい!この世界の神であり、創造主であり、作者であるこの私が絶対にこの物語をもとの流れに戻して見せる!



















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