異世界でも油こそ正義!!

雑食ベアー
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第11話 異世界での初料理

公開日時: 2021年9月12日(日) 12:00
文字数:3,283

 『さざなみの癒し亭』での自分の部屋に戻ったミチオは、チャンスが来たと思いながら料理の支度を開始した。セポマから油や食材を購入して麻袋に入れ、袋を担ぎ部屋を出て行った。


 しばし歩き、露店管理所に到着すると、窓口の前でスピトさんが待っていた。


「おう、来たか、厨房にいくぞ」


「あれ、ミスティさんは?」


「おつかいを頼んだ。あと少ししたら戻ってくるはずだ」


「そうですか..」


「料理してれば来るだろう。さて、使用する箇所はあちらになる」

案内された台所をみると大鍋がキチンと準備されていた。


 袋で担いでいた物を取り出し、料理の下準備を始める。今回、作るのは揚げ物界のビッグネームを2品。フライドポテトに鶏の唐揚げだ!


 まず、初めに大鍋に油を投入して竈に火をつけた。油の温度が温まるのに時間が掛りそうだったからだ。


 次に備え付けの包丁とまな板を使用して、鳥もも肉を1口大に裁いて木製の深皿に置き、塩コショウをする。包丁とまな板を生活魔法の水生成で洗ってから、じゃがいもも洗い8分等に切り別の深皿に置く。時折、油の温度を絶対温感で見ていく。

 

 肉の入った皿に小麦粉をまぶし、じゃがいもを生活魔法の風で乾かす。

そして、油が適温になるまで鍋の前でミチオは待機している。


 これらの動作を流れるように繰り広げるミチオを見たスピトは大いに驚いた。

『ここまでとは..』と思いながらもどんな料理が出来るか想像もできない状態だ。


 鍋の油が180度に達したの確認してから、鶏肉を鍋に投入する。

ジュワーーと油の音が厨房に鳴り響く。その音に驚くスピト。

ミチオは木製のトングを取り出し、鍋を軽く混ぜる。


「うわ~、凄い匂いと音」

隣に来たミスティが感想を漏らす。


「マティーは?」


「書類を決裁してから来ますよ」


 肉を鍋に投入して数分後、新しい皿に投入した肉を取り出した。

その次にじゃがいもを鍋に投入したらまたもやジュワーーという油の音が響く。


「なんだい、これは!」


「料理だそうだ」


「食べれるのかい?」


「最初から見たが食えないものはなかったよ」


 それから数分後、またもや鍋に入れたじゃがいもを深皿に取り出す。

そして、塩を振りトングで混ぜ始めた。


 そして、紙コップにそれぞれ入れて出来上がりっと!

から揚げとフライドポテトが入っている紙コップをスピトさんに渡そうと振り向いたミチオだったが.. 試食役が2名と思っていたのだが3名になっていた。


「あ~、とにかく熱い内に喰ってくれ! 話は喰ってからだ」

ミチオは毒見用として残しておいたものを口に入れ咀嚼したが、作り立ての揚げ物の熱気にやられ口から、ホフホフと冷ましながら食べた。


 その様子を見た3人は、未知の料理を恐れながら口にした。

口に入れ噛んだら、恐ろしい程の熱気が駆け巡ってきた。肉の方では、サクっとした感触とほとばしる肉汁と肉の脂が溶けだしてジューシーであった。一方、じゃがいもではホクホクとした感触と少ししょっぱい塩味が絶妙にマッチしていた。


「これは、揚げ物と言う料理だ。肉の方が唐揚げ、芋の方がフライドポテトと言う。一応、フライドポテトを屋台で販売する予定だ」


「唐揚げと言うものは出さないのか!?」


「今回は、手っ取り早く揚げ物を説明するために手抜きなレシピで作った。販売するならば、キチンとしたものを提供したい」


「これで!手抜きなのか!?」

スピトは絶句した。これほどまで美味しい料理を食べるのは初めてだったからだ。しかし、この青年はこれ以上の味を提供できると言う。


「あんた本当に料理人だったのかい?」

マティーが半信半疑でミチオに問うた。


「何度もいっているが俺は料理人だ。塩も砂糖も調味料だ」


「ミチオ君、砂糖は錬金素材だよ? それを調味料にするのかい?」


「真っ白い砂糖なんて錬金術師が秘匿していて市場に出ないんだよ!」


「錬金素材? しかも真っ白い砂糖は秘匿物か~

なるほど、協会長が砂糖に固執して俺を料理人と思わない訳だ。

仕入れ先は教えられませんが真っ白い砂糖は工場で生産されてますよ」

もちろん、異世界でだ。


「だそうだよ。マティー?」


「ふん、一先ず料理人だと思っておくよ!」

マティーは一足先に協会へ戻っていった。


「それで、俺の料理人としての価値はどうだった?」


「うん、問題なしだよ。特別ブロックを手配しよう!

詳しい話は部屋で行おうか」

その一言でこの場は解散となり、ミチオは厨房の片づけをした後にスピトの仕事部屋に赴いた。


……


「まずは場所を決めてしまおうか、どこがいい?」

と露店市場が描かれている図を机に広げたスピトがミチオに聞いた。


「そうですね。この2つの内どちらかを希望します」

ミチオは既に目を付けていた場所を指した。


「管理所の隣でいいのかい? 一度決めたら場所替えは出来ないからね」


「大丈夫だと考えてます」


「うむ、ミスティはどう思う?」


「あの匂いと音があるならば、人があまり通らない方が良いと思います。

人が多い場所だと混乱する場合がありますので..」


「確かに初めての場合は、驚くだろう」

共同厨房で見た光景を思い出すスピト。


「では、こちらのブロックで決定だ。ミスティ、すまんが今すぐ竈の手配を頼む」


「かしこまりました」

ミスティは席を立ち、部屋から退出する。


「さて、ミチオ君、何点か聞きたいことがあるのだが時間は大丈夫かね?」


「大丈夫ですよ」


「ありがとう。今回は色々と協会が迷惑をかけた。申し訳ない」


「いえ、どうやら私は世間の常識がズレているみたいですし、謝罪はいりません」


「そう言ってもらえると助かるよ、私は彼女みたいに君の料理に関するものに手を出さないよ」


「本当ですか?」

ミチオは疑心に満ちた目でスピトを見抜く


「私は商人だが、金を稼いでは食道楽に費やしている。食い意地の汚い人間だよ」

肩を竦め、自虐気味にスピトは答えた。


「了解しました」


「それにしても、揚げ物だったか? 今までに味わった事のない素晴らしい味だった。唐揚げに至ってはまだまだ、美味しくなるのだろう? 今度は完成品を味わいたいものだ」

食べた時の事を思い出しているのか、煌々とした表情をしている。


「まぁ、屋台での提供は無理でしょう」


「何故かね!!」

スピトは喰い気味で反応する。


「仕込みに時間と場所を取る上、氷室が無ければ作れません。店もしくは専用の仕込み場が必要です」

鳥の唐揚げの完成形であるザンギを作るのには、食材を漬けダレで漬け込み、味を浸透させなければならない。現状の環境ではとてもじゃないが出せない一品だ。


「ふむ、ならば、協会を退会して私に料理人として雇われないか?

店も準備しよう」


「ありがたいお話ですが、自分の城が欲しいので雇われの選択肢はありません」


「そうか、もしも気が変わったら教えてくれ、それ以外でも相談に乗るよ」

ミチオの返答にスピトは少し落ち込んだ。


「では、料理に関しての相談があればスピトさんにしますね。その時には新メニューの試食もお願いするかもしれませんが..」

(よし! この都市でのアドバイザーが出来た!!)ミチオは心の中でガッツポーズをする。


「ほう、それはありがたい、ミチオ君、困っていることは無いのかね?」


「切実に店が欲しいです。提供できるメニューを増やしていきたいですからね」


「そうなると、シルバーランクになり、店を購入する資金が必要だね。購入資金は置いといて、シルバーランクになりたければ、都市に納税するか、協会に一定額の献金をすれば早くなる」


「やはり、何をしてもお金ですね」


「金策が必要だが、策はあるのかね?」


「策はありますが、その前に屋台を開きたいです」

コンコンっとノックがなり、スピトが入室の許可を出す。


「失礼します。指定した場所に竈の手配をしました。また、職人もすぐに来るとのことですので、ミチオ様にはお手数ですが現場に来ていただけませんでしょうか? 設置する場所をお決めいただけると幸いです」


「スピトさん、今日はここまでにいたしませんか?」


「わかったよ。ミチオ君、管理所には連絡しておくから、気軽においで」


「それでは、失礼しますね。ミスティさんお待たせしました」

ミチオはミスティと合流して部屋を出た。

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