時速350キロで走り出した才子は、ダークグラビティへ直進——はせずに、敵の20メートル手前で切り返し、弧を描いてダークグラビティの横に回り込んだ。
『ナニ!?』
正面からくると睨み、斥力のダイヤで待ち構えていたダークグラビティは、横から迫る才子への反応が致命的に遅れた。
「3・発・目っ!!」
才子がダークグラビティを思い切り殴り飛ばす。ダークグラビティは街灯に激突し、バウンドしながら路面を転がっていった。
『オノレ……!』
ダークグラビティが立ち上がる。が、才子の姿が見えなかった。
途端にアスファルトを削る凄まじい足音が背後から響く。まさかと思い振り返ると、高速ダッシュで背後に回り込んだ才子が、拳を振りかぶり待ち構えていた。
『速ッ……!?』
才子の拳がダークグラビティの顔面にめり込む。再び殴り飛ばされたダークグラビティは、道路を隔てた対面のビルに突っ込んだ。
「はは……!」
ダークグラビティを殴る手応えに、才子は歓喜の笑い声をあげた。
「はははははははは!」
ハートフルエナジーを溢れさせ、ダークグラビティを追ってビルに走る。
「いいねいいねぇ! 最高だね! やっぱり悪者との戦いはこうじゃないと!!」
ビル内で倒れていたダークグラビティが起き上がる。才子に殴られた顔の一部が剥がれ、床にぼとっと落ちた。ダークグラビティは黒い鎧の体をカタカタタと震わせた。
『オ……オオオォォォォオオオノォォレエエエエエエエエエエ!!』
ドアを蹴破ってビルに入り、才子が満面の笑みで言う。
「なになに!? 怒った怒った!? 怒りの感情とかあるんだねぇ!」
ビルの1階は菓子店のようで、ダークグラビティが突っ込んだ衝撃でショーケースが割れていた。
頭上に黒い球体を出現させ、床に散らばるガラスを才子に投擲する。才子は体じゅうにガラス片が刺さることも厭わず、前進を続けた。
『クッ!』
ダークグラビティの視界に、カウンターの裏でうずくまり怯える、菓子店の女性店員の姿が映った。どうやら逃げ遅れたようだった。
才子がすぐそこまで迫る。
『……!』
ダークグラビティは黒い球体を右手に出現させ、カウンターにいる女性店員を引き寄せた。
「きゃああっ!」
悲鳴を上げる女性店員をキャッチし、ダークグラビティは才子の前に掲げ、盾にした。
『所詮ハ人間! コレデ攻撃デキマイ!』
才子が走り続ける。速度を緩めることなく、拳を握りしめ振りかぶる。
おかしかった――まるで人質の女性が見えていないかのように、才子には止まる様子が全くなかった。
ダークグラビティと、盾にされた女性の眼前に迫ったその時――才子は、歯を剥き出してにいぃっと笑った。
『マサカ――……』
「おらあぁぁァッッ!!!」
才子は何の躊躇いもなく、盾にされた女性ごとダークグラビティをぶん殴った。
拳は女性の体を貫通し、ダークグラビティの胸部にクリーンヒットした。
ダークグラビディはビルの外まで吹き飛び、女性店員は才子の腕が貫通したままその場に残っていた。
才子は女性の胸に突き刺さった腕を引っこ抜いた。床にどさっと倒れた女性は目を開けたまま、既に絶命していた。おそらく即死だっただろう。
べっとりと付いた血を、才子は手を振って床に払い落とした。才子の顔には、女性の返り血が飛び散っていた。
女性の死体には目もくれず、才子はダークグラビティが飛んでいった方へ歩き出した。
「だめだなぁ、悪者のくせに……そんな甘い考えじゃぁさあ……」
胸に刺さったガラス片を引っこ抜き、才子はにたあっと笑ったまま首を傾げた。
「手段を選ばない相手にさぁ、こっちが手段を選ぶわけがないじゃん?」
血で濡れた手で拳を握り、才子は大笑いした。
「人間じゃねぇくせに、人の常識当て嵌めて戦ってんじゃねぇよ化け物! あっはははははははははっっっ!!」
ダークグラビティが突っ込み壁に空いた穴から外に出た。すると、隣のビルの前で、ダークグラビティが仁王立ちしていた。
「あはっ♡ わざわざ待ってたの?」
ダークグラビティの胸部の鎧が剥がれ、内部の炎が露わになっていた。弱点であるダークエナジーストーンをもう少しで壊すことが出来そうだ。
『ユ……』
才子は首を傾げる。
「はぁ?」
ダークグラビティは大声で怒鳴った。
『許サンッッ! ハートフル戦士ガ……ダークエナジー収集の邪魔ヲシオッテッッ!』
途端に、ダークグラビティの全身から紫色の炎と赤色の炎が噴き出した。高濃度のダークエナジーが放出されていた。
今まで1つずつしか出現していなかった重力と斥力を生む黒い球体とダイヤが、ダークグラビティの周囲に5つずつ現れた。
全身をダークエナジーで燃やしながら、ダークグラビティはおどろおどろしい声を上げた。
『ダークエンペラー様ニ献上スルタメニ溜メテイタダークエナジーマデ使ウコトニナロウトハ……許サンゾハートフル戦士……ッ!』
憤怒を爆発させるダークグラビティとは対照的に、才子は愉快そうに笑みを浮かべていた。
「あはは♡ やっと本気ってこと? いいねいいねぇ! ワクワクしちゃうねぇっ!」
ダークエナジーを燃え上がらせ、ダークグラビティは惜しみない殺意を吐き出した。
『塵モ残サズ、殺シテヤルゾハートフル戦士ッッ!!』
殺意を燃やすのは――才子もまた、同じだった。
「その調子だよ! 悪党! いい引き立て役になってよ!!」
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