ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第20話 芭海の決意! 燃え盛る恋心!!(前編)

公開日時: 2020年9月13日(日) 20:00
文字数:2,289

【ハートフル戦士の能力】……変身した少女のハートフルエナジーの根源にある夢や希望が、能力の性質に大きく影響を与える。また、本人が得意とする技能をもとにした能力が発現することもある。例として、先代のハートフル戦士にいた剣道を習っていた少女は、刀を用いる能力を発現していた。

 ごく稀に、一人が複数の能力に目覚める場合があるが、ハートフルランドの統計では数百年に一度しか現れていない。

 

 朝4時に目覚めた水鶏芭海くいなはみは、歯磨きと顔洗いを手早く行い眠気を飛ばすと、Tシャツとスパッツを着てすぐに外へランニングに行った。

 腕時計でタイマーを計りながらハイペースで走る。別荘地帯をぐるりと一周して帰ってきた頃には、汗だくになっていた。

 ロッジの中に戻ると、芭海は休むことなく筋力トレーニングを始めた。いつも使っている負荷器具は自宅にあるので、身一つでできる簡単なトレーニングで済ませた。

 床は芭海の汗でびしょびしょに濡れていた。湿ったTシャツを脱いで裸になり、芭海は自室のロフトを利用して懸垂した。懸垂しているあいだも、芭海の体からは絶えず汗がしたたり落ちた。首から背中、両肩に広がるタトゥーが汗できらきらと輝いていた。

 体を鍛えることは父から言いつけられていた。人肉の解体には体力を使う。特に女である芭海は、ヒト一人を自由に扱うための筋力を得るために多大な努力を強いられた。徹夜で解体を行う日以外は欠かすことなく、トレーニングに努めていた。

 父は素手で人を制圧する技術も教えてくれた。その昔、軍隊に所属していたという父はあらゆるスキルを芭海に叩き込んだ。父が教えたスキルのなかには、警察に捕まった際に抜け出すための知識と技術もあった。手錠抜けやピッキングなど。

 おかげで今や、芭海は並大抵の人間では手がつけられないほどの実力者になっていた。これらのスキルはトラブルに巻き込まれず平穏に生きるためのものであり、当然誰かを相手に試したことなどなかったが、実際のところ芭海の格闘技術はプロの闘技者や軍人に比肩していた。

 たっぷり汗をかいた後、入念にストレッチして体を癒し、芭海はシャワーを浴びた。それからようやく朝食をとった。今朝は野菜と人肉ハンバーグだった。

 ロッジの玄関のドアは、勝手に開かれるとブザーが鳴る仕組みになっていた。ブザーは解体部屋とキッチン、食卓、芭海の自室と書斎に設置されており、泥棒や警察などの侵入に備えている。食事をとっているあいだも、解体部屋の戸締りをチェックするあいだも、ブザーが鳴ることはなかった。

 あの喧しい犬の妖精は、昨日の夕方に一度来たばかりだったので、流石に朝から顔を出すことはしなかった。

 芭海は制服に着替え、ロッジから直接登校した。いつもは車で通っている道を徒歩で下るのは少々面倒だったが、日頃から鍛えている芭海にとっては何てことなかった。

 山道から降り、スマホを見るとクラスメイトから通知が来ていた。

『課題やったー?』というメッセージが来ていた。芭海は返信を打った。

『やったよー』

『さすがー』

『やってないの?』

『それがなんと』

『?』

『やったんですよこれが』

『やってるんかーいww』

 高校の友人とは仲良くやっている。一緒にいると、時々解体しやすい体格をしているなとか、ちょっと脂肪が多いなとか色んなことを考えてしまうけれど、理性で食欲を抑えてなんとかやり過ごしている。

 近しい人間を獲物にするやり口は良くないと父にも教えられていた。友人が行方不明になった場合、関与を疑われるリスクは非常に高い。できるだけ身近でなく、安全に身辺調査ができ、土地勘を活かして捕らえられる獲物が最適なのだ。

 高校の正門を、ごく普通の生徒となんら変わりなくくぐっていく。傍目には彼女はただの女子高生で、挨拶を交わす友人も教師も、誰も芭海が人肉嗜好の殺人鬼であるなどとは思いもしない。

 本性がバレていけないことは当たり前だが、周囲の人間を見ていると、たまに愚かしいほど呑気に思えてしまう。いつどこで、誰に殺されるかわからないんだぞと、捕まえて縛りつけて教えてやりたくなる。拷問は別に趣味ではないが、わざとストレスを与えて脳や肉の味を変えようとするカニバリストの知人がいることを、芭海は思い出した。そのカニバリストは芭海が小学生の頃に事故で呆気なく死んだ。父とともに、死んだ知人の家にあるカニバリズムの痕跡を始末したことはよく覚えている。その知人の解体具の一部は、今も芭海のロッジに保存され重宝されていた。

(誰かに襲われなくても、人は簡単に死ぬ。事故も自然災害も、ダークゴットズだかなんだかの殺戮も同じだ。呆気なく死ぬし死に方は選べない……)

 芭海がわざわざ危険を犯してまで、プードルンに協力して戦う義理は無い。芭海の意思に揺らぎは無かった。

(いつまで付きまとうんだろうな、あの犬ッコロは)

 うんざりとした気分を一旦忘れ、芭海は教室に入った。既に登校したクラスメイト2、3人が芭海の席の近くに集まり、スマホを見て何やら騒いでいた。芭海はその集まりの隣の席に鞄を置いた。

 椅子につき、隣の席で騒いでいるクラスメイトの女子に話しかけた。

「なに観てんのそれ?」

「あ、芭海おはよ~」

「おはよう」

「見てよこれ、今朝ツイツターで流れてきたんだけどさぁ~」

「ん?」

 きゃっきゃ騒いでクラスメイトはスマホを見せてくる。芭海は画面を覗き込んだ。

 おかしそうに笑いながら、クラスメイトは話した。一緒にそれを観ていた友人たちも笑っていた。

「なんかぁ~、何県だっけ? ××町ってとこで化け物が暴れただとかいう騒ぎあったじゃん? この前は△△町でもあったけど」

「あったね。詳しく知らないけど……」

 プードルンの話によればダークゴットズの手先による仕業らしい。自然災害規模の被害が出ているが、あまりに超常的な現象が引き起こされていたため、世間的にも未知の怪物の仕業だという見方が強かった。また、ダークゴットズの配下であるストーンホルダーの目撃情報や映像が多数上がっていることも、一連の大災害がただの天災でないことを証明する一因となっていた。

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