ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第3話 対決! サイコ・アクセルVSダークグラビティ!!(後編)

公開日時: 2020年9月5日(土) 12:00
文字数:2,424

 

「う~ん……なんか、変身って良い感じだね~」

 首をコキコキ回し、才子は足踏みした。体が軽い。力が漲る。

 脳に溢れる全能感。これが変身するということか……コスチュームに目をつむれば、最高ではないか。

「あれ、ローファー壊れちゃった」

 先ほどのスーパーダッシュのせいだ。衣服は普通のままだから、簡単に壊れてしまうのだ。気を付けなければ素っ裸になってしまう。

 靴底が抜けたローファーを脱ぎ捨て、才子は腕を伸ばして準備運動した。浮遊したビルの先端が、こちらを向きつつある。どうやら相手の方はやる気満々のようだ。

「じゃあ、行きますか!」

 時速350キロのスタートダッシュで、才子はダークグラビティがいる街へ向かった。

『潰……レロッッ!!!』

 ダークグラビティが右手を振り下ろし、ビルが一斉に才子へ突撃する。

 才子は助走をつけ、ビルに向かってジャンプした。突っ込んでくるビルの屋上を突き破り、屋内に侵入する。

 直角に傾いた屋内の壁を足場に、ビルのなかを走り抜ける。ビルの最下層に到達し床を蹴破って外に飛び出すと、ビルの跡地に立ちこちらを見上げるダークグラビティを発見した。

「ははっ! みっけ!」

 才子がダークグラビティに向かって拳を振り下ろす。ダークグラビティが素早く後ろへ下がり、才子のパンチを躱した。才子の拳が直撃した地面が大きく陥没する。

 追撃しようとしたが、ダークグラビティの姿がない。空を見てみると、才子の攻撃を躱したダークグラビティは、宙に浮いていた。

「自分のことも浮かせられるんだ……」

 ジャンプすれば届くかな、と才子が考えていると、ダークグラビティがパチンと指を鳴らした。

「? 何を……」

 次の瞬間、才子の目の前に黒い球体が現れた。ダークグラビティが作る、重力を生む球だ。

「あ、ヤバッ……」

 直後、アスファルトを削りながらビルが横滑りし、両サイドから才子を挟んだ。

 激突したビルはめり込み合い、傍目には才子が完全に潰されたように見えた。

 しかしすぐさまビルの壁を突き破って才子が脱出し、ダークグラビティのもとまでジャンプした。

「びっくりしたなぁ! この!」

『……フン』

 ダークグラビティが左手を才子の前に突き出した。掌の前に、黒いダイヤ型の物体が現れる。

 重力を生む球体とよく似ていたが、形が違う。

 才子は構わず、ダークグラビティを殴ろうとした。

 ところが、黒いダイヤの前で才子の拳はぴたっと止まった。まるで見えない壁に遮られているかのようだった。

「何、これ……!?」

 瓦礫の街から才子たちがいる街にようやく辿り着き、妖精用のハートフルフォンの望眼鏡モードで戦況を見守っていたキュウコは、驚愕を露わにした。

「あれは、もしかして……!」

 拳を止めた才子を見下ろし、ダークグラビティは言った。

『ブッ飛ベ』

 見えない何かに凄まじい力で押され、才子は吹き飛ばされた。

 背後にあったビルを3棟貫通し、4棟目のビルに激突したところで、才子はようやく止まった。

 キュウコは思わず声を上げた。

「斥力キュ!?」

 ダークグラビティの胸の中に、もう1つ赤い炎が灯った。ダークグラビティの左手に現れたダイヤは、胸に現れたのと同じ赤い炎で覆われていた。

「『リパルジョンストーン』も持っているキュ!? そうか! 2つのストーンから生成されているから、あんなに強いんだキュ!」

 右手で重力、左手で斥力を操る。それがあのダークグラビティの能力だったのだ。

「才子! 才子は大丈夫キュ!?」

 いや、きっと無事ではない。才子は無双の攻撃力を得る代わりに、コスチュームもろとも防御力まで失っている。攻撃力こそ強いが、自身はダメージに弱いのだ。

 キュウコはハートフルフォンの望遠鏡で才子を探した。突っ込んだビルのなかで、起き上がる才子の姿があった。

「良かった、生きて……、キュ!?」

 いや、違う。無事ではない。キュウコは思わず口を手で覆った。

 セーラー服はボロボロに破け、下着が露わになっている。それ自体は問題ではない。

 問題は、その露わになった腹部に、鉄筋が突き刺さっていることだった。

「才子っ!」

 鉄筋は才子の左脇腹を前後に貫通していた。平気そうな顔で立ち上がってから、才子は自分の腹に鉄筋が刺さっていることに気が付いた。

「うわっ、めっちゃ刺さってるじゃん!」

 他にも頭からも流血し、体じゅう傷だらけだった。頬も裂けて血が流れ出ている。

「あれ、でもあんまり痛くない……なんでだろ」

 サイコパスといえども人間である。痛みを感じないわけではない。しかし、攻撃力に全振りされたハートフルエナジーには、痛覚を遮断する作用も失われていた。

「あ、脳内麻薬か。なるほどなるほど」

 才子の痛覚を鈍らせていたのは、エンドルフィンと呼ばれる脳内麻薬だった。

 内在性鎮痛系かかわり、痛みを和らげる作用がある。それと同時に――

「都合がいいね♪」

 エンドルフィンは、多幸感をもたらす。

「よいせっ」

 腹に刺さっている部分を残し、才子は余分な鉄筋をへし折った。刺さっている鉄筋は抜いたら出血が止まらなくなりそうなのでそのままにしておく。

「は……ははは……」

 才子は嬉しかった。エンドルフィンなんかなくても、才子はこの瞬間、人生で最大の幸福を感じていた。

 だって、夢だったから。

 変身ヒロインになって、敵と戦うことが夢だったから。

 この時を、ずっと待っていたから――この時のために、才子は生きていたのだから!

「最っっっっ高だあああああああ!!!!」

 これが、才子の夢なのだから!!

 嬉しくないわけがない! 楽しくないわけがない! 幸せだ! 世界で一番!

 このためなら、死んでもいいと思えるくらいに!

 本当の夢に燃える才子が生むハートフルエナジーは、最高純度だった。全身からハートフルエナジーを噴き出しながら、才子は唇の血を拭って走り出す。

「さぁ、ヤろう……!」

 

 突き破った壁を逆戻りして、才子は隣のビルへ飛び移りながら、ダークグラビティのもとへ向かった。

 ヒロインらしい、最高の笑顔を花咲かせて――

 

「ぶっ殺してやる!!!!!!!」

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