ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第8話 仲間探し! 新たなハートフル戦士、鶴来ラン!(前編)

公開日時: 2020年9月7日(月) 20:00
文字数:3,242

【ダークアンダーワールド】……ダークゴットズが住む、負の感情で造られた異空間。常に闇に包まれている。人間界へ渡るには高いエネルギーを消費する。

 神崎千早かんざきちはやとバディの妖精オウルン、バディが現在仮死状態のキュウコの3人は、■■町から3駅離れ、都心に近い△△町を訪れていた。人の姿以外で傍に居ることを千早が許さないため当然、キュウコとオウルンは人間に変身していた。3人は千早が持つスマホの地図アプリを頼りに、徒歩で住宅街を進んでいた。

 近辺まではタクシーに乗って来たのだが、カーナビの性能が悪いせいで目的地まで到着できなかった。痺れを切らした千早は運転手に万札を投げつけ降車し、足で目的地を探すことにした。

 スマホを見ながら歩く千早の後ろについて行きながらキュウコが言った。

「千早は怒りっぽいキュね。女の子はもうちょっと穏やかな方がいいキュよ」

「黙れケモノの分際で。フェミニストか君は」

「フェミ……」

「次私に文句を言ったら、そのムカつく声帯を切り取って虫に喰わせてやるからな」

「キュキュ……っ」

 どこかから子供の笑い声が聞こえてきた。オウルンが顔を上げ、「ここじゃないホッホーか?」と言った。

 そこは市街地と住宅街のちょうど境目あたりにあり、周囲には多数の小中高の学校があった。辿り着いた門から、千早はそこにある建物とスマホに映る写真を見比べた。

「ここで間違いないな」

「キュウ……ここに三人目のハートフル戦士が……」

 千早たちが辿り着いたのは教会だった。十字架を掲げた木造建築の、年季の入ったキリスト教会で、外装はつい最近白いペンキで補装されたばかりだった。見た目よりも築年数は古そうだ。正面に礼拝堂に直通すると思しき観音開きの扉がある。

 教会には孤児院が併設されていた。孤児院の庭では、幼い子供たちが楽しそうに遊んでいた。子供たちの周囲には修道服を着たシスターが散見された。

 門の表札には『聖△△キリスト教会』と『聖△△園』とあった。

「神ねぇ……」

 躊躇いなく門をくぐり、千早は礼拝堂へ足を向けた。

 

       ♢

 

 オウルンは孤児院の方へ行き、訪問の旨を伝えに行った。千早たちが訪れることは、これから会う人物によって事前に知らされているはずだった。もちろん、ハートフル戦士のことは伏せてだ。

 時間が惜しいと、千早は挨拶をオウルンに任せて一足早く聖堂に入って行った。不安なので、キュウコは千早について行った。

 この時間、聖堂は使っておらず電気がついていなかった。まだ朝だったが、礼拝堂は薄暗かった。市街にそびえる高層ビルが絶妙に陽の光を遮断しているのだ。窓から差し込む微かな光とステンドグラスを通したカラフルな日差しが、教壇に掲げられた十字架や参列席を照らしている。

 教壇の前に二つの人影が立っていた。幼い男児と修道服を着た少女だった。扉を開けた音を聞いて男児の方が振り向き、明るい声を上げた。

「あ! キュウコだケロ!」

「ロケロン!」

 緑色のショートヘアと黄色い瞳をした、だいたい7、8歳ほどの外見の男児は整然と並ぶ参列席のあいだの通路を駆け、千早とキュウコのもとまで来た。キュウコと抱き合い、喧しいほどの元気な声ではしゃいだ。

「久しぶりケロ! 無事だったケロね!」

「キュウコも会えて嬉しいキュ! 連絡がついて良かったキュ!」

 キュウコとキャッキャ騒ぐ緑髪の男児を千早はじろっと見下ろした。

(キツネの次はカエルか……本来の姿はさぞ醜いんだろうな)

 彼はロケロン、キュウコとオウルンとともにハートフル戦士のバディを務める妖精である。

 ××町での戦いから今日までの一週間、妖精用のハートフルフォンでキュウコとオウルンは仲間の妖精との連絡を図っていた。昨日、やっと連絡をとれたのがこのロケロンだった。既にハートフル戦士と接触し事情の説明も済んでいるというので、早速千早たちは三人目の戦士のもとを訪れたのだった。

「あなたがキュウコのバディかケロ?」

 ロケロンが千早を見上げて言った。本当の子供のようなつぶらな瞳が妙にきらきらしていて、千早は眉をひそめてしまった。

「違う。私のバディはもうちょっと頭がマシな方だ」

「キュ!?」

「このキツネのバディはいまスムージーみたいになって水槽の中を泳いでいる」

「ケロ?」

「あ、後で説明するキュ、ロケロン」

「それで……」千早は教壇の方へ目を向けた。教卓の前に立つシスターもこちらを見ていた。「あれがお前のハートフル戦士か」

 千早より背の高い、金髪の少女だった。端正な顔立ちで瞳は青く、髪の色は地毛のようだと見て取った。顔立ちからハーフだと千早は予想した。

 千早たちが教壇の前まで来ると、シスターは一礼した。淑やかで優しげにほほ笑む、見本のような修道女だった。千早は愛想を一切見せず、外出用のベージュ色の地味なロングコートのポケットに手を突っ込んだまま、ろくに挨拶すらしなかったが、彼女は全く気を悪くしなかった。

「初めまして」綺麗な声だった。「わたしは鶴来つるぎランといいます」

 西洋の血が入っているので大人びて見えるが、千早と同じくらいの歳だった。千早とはまた違うタイプの大人の雰囲気を纏っていた。千早の貫禄が厳しさによるものなら、このシスターの貫禄は落ち着きによるものだった。

「お話はロケロンから聞いています。同じ境遇の方とお会いできて嬉しいです」

「私は神崎千早、サイコ・ブラッドだ。御託はいい、さっさと本題に入るぞ」

「ちょっ……千早、態度があんまりだキュ」

「構いませんよ」

 穏やかにほほ笑み、ランは千早を見た。千早の相手を探るような目に対し、ランの目に警戒の色はなくただただ優しげだった。

「では談話室へ行きましょう。空けてもらえるように言ってあります」

 教壇の十字架を仰ぎ、ランは尋ねた。

「その前に祈って行かれませんか?」

 千早は即答した。「断る」

 管理人に挨拶を済ませてきたオウルンが合流した。千早たちは談話室へ案内された。

 

 

 ロケロンが紅茶を淹れて談話室に運んできた。幼いロケロンの体では大変そうだったのでキュウコが手伝った。

 千早とランはテーブルを挟んで座った。千早の隣にはオウルン、ランの隣にはロケロン、真ん中にキュウコが座った。

「どうぞ」

「要らん」

 千早は紅茶に手をつけなかった。

 千早は腕を組み、睨むような目つきでランを見ていた。ランは微笑したまま、紅茶を飲んで味を楽しんでいた。話がなかなか始まらないので、オウルンが切り出した。

「ロケロン、ランがどういう女の子なのか教えて欲しいホッホー」

「わかったケロ!」

 ロケロンは元気よく挙手した。椅子から立ち、ロケロンは仰々しくランを手で指した。

「ランは16歳の高校生だケロ! この孤児院に住んでいて、シスターとしても働いているケロ! とってもとっても優しくて、みんなランのことが大好きだケロ!」

 ロケロンがランにやたらと懐いていることは見ていて充分わかった。ランは他の子供たちにもそうするように、ロケロンのこともまるで弟のように可愛がっていた。

 千早は低い声でぴしゃっと言った。

「そこのカエルじゃ埒が明かん。私の質問に答えろ」

「ケロ!?」

 ランはビクッと驚くロケロンの頭を撫で、椅子に座らせた。ロケロンは目をぱちくりさせていた。気持ちはわかる、とキュウコは内心で呟いた。

 ロケロンの手を撫でながらランは千早に頷きかけた。

「どうぞ」

「親はいるか? いつからこの孤児院にいる?」

「ちょっと」ロケロンが声を上げた。「いきなり何てこと訊くケロ!」

「黙れ妖精、お前には話していない」

「さっきから何なんだその態度はケロ、ランに失礼だケロ!」

 ロケロンが頬を膨らませ怒る。千早が不機嫌になるにしたがい、キュウコはおろおろした。オウルンがソーサーにカップを置く音を立て、注目を寄せた。

「ロケロン、千早はこういう子だホッホー。失礼は承知の上で、今は我慢して欲しいホッホー」

「オウルン……」

「私たちはこれから協力していかなければいけないホッホー。ハートフル戦士のことは尊重するべきだホッホー」

「ケロ……」

 ランがロケロンの髪を撫で、にっこりした。

「わたしは大丈夫ですよロケロン。気にしないでください。あなたは本当に優しいですね。ありがとう」

「……ケロ、ランがそう言うなら……」


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