ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第2話 誕生! ハートフル戦士サイコ・アクセル!!(後編)

公開日時: 2020年9月4日(金) 18:02
文字数:3,990

 

 妖精たちによって、日本国内にいるハートフル戦士に適任とされる6人の少女たちが捜し出された。

 キュウコが捜していたのは、その6人のなかで最も純度の高いハートフルエナジーを持つ少女……日ノ出才子だった。

 才子のもとへ向かおうとしたちょうどその時――タイミング悪くダークゴットズの人間界侵略が始まってしまったのだ。キュウコは急いで才子を捜した。

「見つけたキュ!」

 しかしようやく見つけた才子は、奇しくも街を破壊するダークゴットズの手先のすぐ目の前にいた。なんという偶然――いや、これはもはや運命か。

 才子を助け、世界を闇から守るためにはもはや、彼女をハートフル戦士に変身させるしかなかった。まるでそうするように導かれているかのように――運命が、世界が才子を戦士にしろと告げているかのように――キュウコに選択の余地はなかった。

――本当に、サイコパスを変身させていいのか?

 心の迷いを振り払い、キュウコは戦士に変身するアイテム『ハートフルフォン』を才子に向かって放り投げた。

「日ノ出才子! 説明している暇はないキュ! このハートフルフォンを受け取るキュ!」

「え!? 説明してくれないの!? まずは自己紹介からでしょ!?」

(な、なんだキュ、このリアクションは……やっぱり普通じゃないキュ!)

 ダークゴットズの手先が、キュウコが投げたハートフルフォンに気が付く。黒い鎧が手を伸ばし、才子に向かって飛んでいくハートフルフォンを奪おうとした。

「あなた妖精さん!? 妖精さんだよね!? うひょおおおおやたあ~~本当にいたんだ! やっぱり私はヒロインになれるんだ! ずっと夢だったの!?」

「な、なんでこの状況でそんなに喋れるんだキュ!? いいから早くアイテムをキャッチするキュ! 奪われちゃうキュ!」

「私、日ノ出才子! 元気いっぱいの中学2年生!」

「それはもう冒頭で聞いたキュ!」

 ダークゴットズが伸ばした手が、ハートフルフォンを横取りしようとした。

「あぁっ! ハートフルフォンが!」

 その時、才子が素早く立ち上がり、ダークゴットズに足を引っかけた。

「キュ!?」

『!?』

 体勢を崩しダークゴットズの手先が派手に転んだ。

「私の夢は――」

 ノールックでハートフルフォンをキャッチし、才子は幼い頃から練りに練ってきたキメポーズをとった。

(『アイテムがスマホ型だった時のポーズその⑤』!)

 ビシィッ!

「私の夢は、変身ヒロインになって、悪者をやっつけることッ!!」

 才子のテンションに若干引きつつ、キュウコはやけくそで叫んだ。

「画面にタッチして、『ハートフルチェンジ』と叫ぶキュ!」

「叫ばなきゃだめ? 小声だと変身できない仕様?」

「ああもうなんでもいいキュ!」

 本当に扱いづらい! こんな女の子初めてだ!

 でも、この非日常的な状況でもあんな風に平常心でいられるなら――そして何よりも、絶望することなく、自分の夢を胸を張って語れる女の子なら――……

 サイコパスを使うなんて不安でしかなかった。なのに、才子を見てキュウコは思ってしまったのだ。

(あの娘なら――本当に世界を救ってくれるんじゃないかキュ……!!)

 才子はハートフルフォンを胸の前で構え、叫んだ。

「ハートフルチェンジ!」

 ハートフルフォンが激しい光を放ち、ハートフルエナジーが溢れ出す。ダークゴットズの手先は、たまらずその場から離れ、才子と距離を置いた。

 ハートフルフォンを経由して溢れ出る才子のハートフルエナジー激しく光り輝き、瓦礫と死体だらけの地獄を明るく照らした。キュウコは息を呑んだ。

「すごい……なんて純度の高いハートフルエナジーだキュ……!」

 サイコパスは即物的で刹那的、長期計画に疎く目先の快楽に走りやすい。故に犯罪行為に走りやすい。

 だが、別の見方をすれば、眼前の目標に対して強い集中力と最高のパフォーマンスを発揮することができる、ということである。

 なかでも日ノ出才子の夢や目的は、『変身ヒロイン』になることだった。変身そのものが目標なのだ。だからこそ彼女の夢から生まれるハートフルエナジーは最も純度が高く、強い。

 キュウコは確信する。これほどハートフル戦士に適したサイコパス少女は、いない!

 ハートフルフォンから放たれた光に包まれ、才子は身を任せた。この胸が熱くなるエネルギーに思うまま身を任せていれば、体は自然と変身する。きっとそういうものだ。初めてだけど本能でわかる。

 足、腕、スカート、胴――体に力が漲るのを感じる。

(これが、変身……!)

 光が晴れ、変身した才子が姿を露わにした。

 ハートフルフォンは腰に付いた専用のポケットに収納され、ポケットには可愛いハートマークがついている。

 そして、才子自身の変身フォーム。

 ローファーシューズには道中で踏んだ血が付着し、スカートは先ほどのヘッドスライディングでほつれ、セーラー服もボロボロ、タイも解けかけ、顔には煤が付いており、朝髪を結んできたリボンはどこかへ行ってしまっていた。

「…………………」

 ビシィッとポーズを決めてから数秒沈黙し、才子は自分の格好を眺めて驚愕した。

「変身してないじゃん!!!?!???」

 あんなに派手に光り輝いてポーズまでキメたというのに、才子の姿は全く変化していなかった。ボロボロのセーラー服のままだった。

「なんで!? あれ、え、なんで!? えっ、なんで!? 私何か間違えた!?」

 驚いているのはキュウコも同じだった。

「ど、どうして変身していないキュ!? さっき、確かにハートフルフォンはフォームチェンジモードを発動したはずキュ……いったいどうしてキュ!?」

 才子はセーラー服の裾を引っ張ってキュウコに嘆く。

「どうなってるの妖精さん!?」

「キュ、キュウコもわからないキュ!」

 やんややんやと騒ぐ才子とキュウコを眺めていたダークゴットズの手先が、おどろおどろしい声で呟いた。

『……下ラン、茶番ダナ』

 黒い鎧が拳を振り上げ、才子に殴りかかった。

『変身デキナイヨウダガ、ハートフル戦士ニナル可能性ガ少シデモアルノナラ見過ゴセン……!』

「あっ、危ないキュ!」

『ココデ始末シテヤル!』

 鎧の拳が才子に迫る。才子は棒立ちで反応できていない。キュウコは悲壮に叫んだ。

「にっ、逃げるキュ~才子!!」

 バシィンと甲高い音が鳴り響き、衝撃波が辺りに広がった。

 才子の方から吹いた強風によろめきつつ、キュウコは目を開いた。

「いったい何が……キュ!?」

 キュウコは目を見開いた。顔というパーツを持たないダークゴットズの手先もまた、同じであっただろう。

『ナニ……!?』

 あろうことか、鎧が振り下ろした拳を、才子は片手で受け止めていたのである。一歩も動くことなく、衝撃でよろけるどころか才子はびくともしていなかった。

「数百キロあるパンチを……受け止めたキュ!?」

 黒い鎧の奥から、紫色の光が才子を睨みつけた。

『貴様……変身シテイナイノデハナイノカ!?』

「……あのさぁ」

『ッ!!??』

 鎧の拳を握りしめたまま、才子が眼球だけを動かしてダークゴットズの手先を睨みつけた。その眼光に――ダークゴットズの手先は固まってしまった。

 肉体を持たないダークゴットズの手先が、あるはずのない『寒気』を覚えたのだ。あってはいけない感情を抱いてしまったのだ。

――恐い、と。才子のその眼に、恐怖した。

「いま、妖精さんと喋ってるんだけど」

 もう一方の手で、才子は拳を握りしめた。

「邪魔すんな」

 才子が、思いっきりダークゴットズの手先をぶん殴った。

 瞬間、才子の目の前から黒い鎧が姿を消し、何かが瓦礫の山に突っ込んだ。瓦礫の山に突っ込んだ物体は、そのまま瓦礫の山を裂きながら直進を続け、優に500メートル先まで飛ばされた。

 キュウコは口をぽかんと開けていた。

「な……な……?」

 才子は拳をさすりながら、キュウコの方へ向き直る。

「で、何の話だっけ? あ、そうだ! 変身できてないんだけど、どういうこのなの妖精さん!?」

 キュウコはそれどころではなかった。いったい何が起こったというのか?

 言うまでもない――黒い鎧を、才子が殴り飛ばしたのである。

「ど……どういうことだキュ!? 変身していないのに、このパワー……」

 しかも、才子が出力したパワーは尋常ではなかった。普通に変身していたとしてもハートフル戦士がただ殴っただけではこれほどの力は出せない。少なくとも、1発で敵を500メートルもぶっ飛ばせるようなパワーはないはずだ。

「どうしてこれほどのパワーを……」

 キュウコはあることを思いつく。

「まさか……変身は完了しているのかキュ!?」

 才子は眉を寄せた。

「え? 姿は何も変わっていないんだけど?」

 変身したのは、姿ではない。才子はステータスだけがハートフル戦士に変身したのだ。

(間違いないキュ!)

 本来、ハートフル戦士に変身すればコスチュームも変化する。より夢や希望を感じる明るい服装に変化し、戦士の正体を隠し、さらにダメージを軽減する鎧の役割も果たす。

 しかし、才子の変身は違う。

 変身するコスチュームやアイテムは、戦士のハートフルエナジーで造られる。コスチュームもパワーも、根源はハートフルエナジーなのだ。

 つまり才子は――コスチュームに注がれるはずのハートフルエナジーまでをも、身体能力に変換してしまったのである。

 コスチューム、防御、正体隠匿、それら一切を捨て、ステータスを攻撃力に全振りした変身フォーム。

 だとしたなら、あのパンチの威力にも納得できる。

「な、なんていうことだキュ……」

 戦士の変身した姿は、その者の夢や心の在り方をそのまま映し出す。

 全てのエナジーを攻撃力に注いだ変身フォームは、そっくりそのまま才子の本性を投影している。

 それは、『敵を殺すことしか考えていない』という――最凶にして最強のハートフル戦士なのであった。

 キュウコは唾を呑み込んだ。

「これが……サイコパスのハートフル戦士……」

 ここに誕生する――超攻撃型ハートフル戦士。

 

 その名も、サイコ・アクセル!!!

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