ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第16話 水鶏芭海の人肉食生活と、鶴来ランの新生活☆(前編)

公開日時: 2020年9月11日(金) 20:00
文字数:2,276

【カニバリズム】……人間が人間の肉を食べる行為。人肉嗜好。共喰いという意味もある。法律では当然のこと、倫理的にもタブーとされている。人肉嗜食を行う者をカニバリストという。人肉嗜食はしばしば性的嗜好と結び付けられるフェティシズムにもなる。人肉の栄養価は低い。

 人には三大欲求といわれるものがある。

 人に限らずなのだが、代表的な欲は「食欲」「睡眠欲」「性欲」の三つだ。

 食欲は言わずもがな、生き物はたいてい食わなくては生きていけない。

 睡眠欲は眠気だ。人は寝ないと脳の機能に支障をきたす。

 性欲は個体の生存には不必要だが、子孫繁栄のための機能だ。生物ならば持っていて当然と言える。

 どれも生きるうえで必要な欲求に他ならない。とりわけ、水鶏芭海くいなはみにとって食欲とは非常に重要な側面を持っていた。

 芭海はみは食事に人生の重きを置いていた。塾考し、長い時間をかけて下準備をし、調理し、食器にまで気をかけ、味に見合った雰囲気にまで気を遣う。時には睡眠を削ってまで食事のために労する。彼女は食に情熱を注いでいた。

 芭海はみが最も重要視していたのは食材だった。食材は自ら目で見て選ぶ。運よく触れることができたならば、入念に肉付きを確かめる。

 求める獲物は簡単には手に入らない。食材の調達には一度の失敗も許されない。調理に匹敵する下準備を積んでから実行に移す。すんなり行くときもあれば、上手くいかない時もある。大事なのは下調べだ。

 今日、芭海が手に入れた食材は若い女性だった。年齢はだいたい20歳くらいだとみていた。所持品にあった身分証明書を確かめると、21歳だった。ちょうどいい。

 その獲物は大学生だった。去年町のプールで見かけてから、ずっと気になっていた。マンションに一人暮らしで、実家は県外。登校ルートも把握し、バイト先も突き止めた。飲食店のバイトからはいつも12時頃に徒歩で帰宅する。

 彼女がバイトを終え、帰路についたところを芭海は狙った。人気の無い路地で、最初は普通に正面からすれ違った。高校生の芭海が深夜に出歩いていることを不審に思ったかもしれないが、彼女は特に気に留めなかった。すれ違った後、少し歩いてから踵を返し、足音を消して忍び寄った。

 蛇のような俊敏さで首に腕を回し、絞めあげた。完璧に決まった裸絞めから逃れる術はない。ましてや獲物はか弱い一般女性で、対する芭海はこのテのことに慣れていた。呻き声をあげることすらなく、獲物の意識は落ちた。

 彼女を抱っこし、芭海は近所の公園まで運んだ。華奢な芭海が成人女性を抱え、よろけもせず歩く姿は合成写真のように不自然だった。公衆トイレの個室に隠しておいたキャリーバッグに獲物を詰め、芭海は家に帰った。パトカーの巡回ルートを迂回したため時間がかかったが、陽が昇る前に家についた。

 今日は日曜日。学校は休みだ。存分に調理ができる。そのために体調を整えていたし、興奮していたから眠くはなかった。家に着いてすぐ、芭海は獲物を解体部屋に運んだ。

 人肉嗜好のある父親から譲り受けた別荘には解体部屋と解体具が揃っていた。勝手の良い大きな冷蔵庫と、焼却炉まで完備されている。食材にされた人たちの骨が、粉々に砕かれたうえで埋められていた。昔は骨を買い取ってくれる知人がいたが、その知人は今は海外にいると父は言っていた。その父も今は海外にいた。

 服を脱がし、所持品と一緒に袋に詰めた。調理が済んだら焼却炉で燃やす。生まれたままの姿の獲物をひょいっと持ち上げ、芭海は作業台の上に載せた。

 芭海は獲物の名前を知らない。身分証を見たときも名前は気にしなかった。家畜を解体する作業員が、豚や牛に名前があるかなどと考えないように、芭海はこの女性の氏名や家族、人生に一切関心がなかった。

 カニバリストのなかには獲物を暫く監禁し、好みの肉質になるまで調節する者もいるが、芭海は捕らえた肉をありのままに楽しむ嗜好を持っていた。

 作業台に仰向けに寝かせた獲物の胸に芭海は手を置いた。大人しい鼓動を掌に感じた。手をあてたまま、六十鼓動するまで芭海は待った。集中力を高めてから、芭海は作業を始めた。

 芭海の手法は原始的で、さらに独自の嗜好が加わっていた。機械は使わず、包丁やノコギリを用いる。作業部屋の壁には、父の自慢の解体具が並んでいた。

 まず、獲物の足をワイヤーで天井に吊るした。真っ逆さまに吊るされた獲物の頭のすぐ下に、バケツを用意する。髪を掴んでちょうどいい角度まで首を伸ばさせ、バケツの位置と見比べた。芭海はバケツを横に3センチ調整した。

 手放さないように指を絡めて髪を強く掴み、芭海はよく研いだ鉈を振りかぶった。よーく狙いを定めてから、芭海はまだ息のある獲物の首を鉈で払った。

 普段から芭海が手入れを欠かさない鉈の刃は、頸椎を綺麗に断ち獲物の頭部を体から切り離した。動脈から溢れた血が真下のバケツに、滝のように流れ落ちた。切断の角度は完璧だった。

 吊るした体から血が無くなるまでのあいだに、芭海は生首の処理に取り掛かった。調理は時間との勝負だ。獲物はかなり美形で、芭海は無意識に美女を選ぶことが多かったのだが、胴から切り離した女性の顔には全く興味を示さなかった。

 芭海の人肉嗜好は性欲とは結びつかない。あくまで調理することと、味や食感、芭海は食べることに強く執着していた。獲物を選ぶ際や、服を脱がした時、首を切り落とした時や、逆さに吊るされて垂れさがる乳房、首の断面からしたたる血液を見ても、皮を剥いで丁寧に肉を削ぎ解体する際も、調理して食べる時も、芭海は性的な興奮を覚えることはなかった。どうやら芭海は女性が好みなようだったが、性的快楽を得るために殺害したり、食べたりなどすることはなかった。

 芭海は包丁で丁寧に頬を切り取り始めた。血がこぼれていないかを見るために、芭海はバケツに目をやった。バケツは半分ほど血が溜まっていた。まだ交換しなくても大丈夫そうだった。

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