ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第23話 大白熱! サイコ・プレデターVSダークハンマー!!(後編)

公開日時: 2020年9月15日(火) 12:00
文字数:2,090

 ダークハンマーの読み通り、芭海はみの体内から生成する眼球を寄生させた物体を、武器とする力である。眼球よりも大きな生物以外の物質であれば、何であれ武器とできる。

 そこに落ちている石、ガラス、コンクリート、包丁、銃、ナイフ、外灯、鉄筋――この街にある全てが、芭海の武器となるのだ。

『ククク……面白イ』

 不気味な笑い声を漏らし、ダークハンマーは肩を微かに上下させた。

『コレマデ幾度ト無クハートフル戦士ト闘ッテキタガ……貴様ホド傍若無人ニ振ル舞イ、ソシテオゾマシイ姿ノ能力ヲ持ッタ者ハ居ナカッタ……』

「思ったよりよく喋るね。ダークハンマー?」

 ダークハンマーの胸の炎が強く燃え盛った。道路にめり込んでいたハンマーが霧のように溶け、ダークハンマーが握る柄に向かって宙を漂っていった。霧と再結合した柄は変形し、巨大な出縁型メイスになった。メイスを握りしめ、ダークハンマーが芭海へ迫る。肩をすくめて芭海は呟いた。

「ダークハンマーというより、ダーク鈍器~だね。ゴリラみたいな見た目してるし」

 メイスを手で叩きながら、ダークハンマーは低い声に微かに喜色を滲ませた。

『久々ニ味ノ有リソウナ相手ダ。楽シマセテ貰ウゾ、サイコ・プレデターヨ』

「どうかな? 僕は味わわれるより味わう派なんだけど。捕食する側なんでね」

 鎧のブーツが踏みしめた道路が凹み、ダークハンマーが猛る。

『イザ、尋常ニ!』

 うねりを生じさせ、ダークハンマーがメイスで殴りかかる。芭海はドアの盾で防御してメイスの直撃を避け、ダークハンマーの股下へ滑り込んだ。ダークハンマーの眼下を通り抜けた直後に身を翻し、芭海は巨体の膝裏を標識で殴打した。ダークハンマーの左膝が、がくっと下がった。

 芭海がジャンプし、猫背で膝をついたダークハンマーのうなじに狙いを定めた。眼と口の役割を果たしている以上、首を断てば大きなダメージとなるはずだ。

『サセヌワ!』

 芭海がうなじに標識を叩き込もうとした瞬間、片膝をついた体勢のまま、ダークハンマーの上半身が半回転しメイスで芭海を殴り飛ばした。

「っ!?」

 咄嗟にドアの盾で防いだものの、芭海は道路沿いの雑居ビルへ突っ込んだ。ビルの対面まで貫通し、芭海は一本向こうの道路へ投げ出された。

 ダークハンマーが立ち上がり、反転した上半身をぐるりと戻した。芭海が手にしていたドアの盾は壊れていた。芭海の能力で強化していたとはいえ、流石に直撃を耐え切ることはできなかったようだ。

「やれやれ……何が尋常に、だよ……卑怯者め」

 芭海は標識に目をやった。今の衝撃で標識も折れ曲がっていた。使い物にならないと判断し、芭海は標識を捨てた。芭海自身の怪我は軽い打撲程度だった。

「そうだなぁ……」

 ズシンズシンとダークハンマーが歩く音が聞こえる。おそらく芭海を追ってくるだろう。

 芭海はあっちの道路よりは多少被害がマシな通りを見渡した。避難した後で人気はなく、日中だというのに閑散としている。武器になりそうなものを目で探し、芭海は道路沿いに工具店があるのを見つけた。

 それから、非常に好都合なことに工具店の前には配送車と思しき大型トラックが停められていた。芭海は目元をにやっと綻ばせた。

 ごぽっとえずき、喉を下から上へ何かが昇った。面頬を大きく開くと、芭海は口から眼球を十個吐き出した。

 

 

 ダークハンマーは芭海が突っ込んだ小ビルをメイスで破壊し、追跡のための道を開いていた。メイスに殴り散らかされた小ビル内のインテリアが、外壁とともに路上へ落下する。なかにはバスタブや、アニメか何かのコスプレ衣装もあった。

 小ビルに穴を空けながら突き進み、あと一振りで壁を貫通する所までいった。その時、壁の向こうからエンジン音がけたたましく鳴り響いた。

『ヌ!?』

 タイヤがアスファルトを擦る音がしたと思った直後、小ビルの壁をぶち破り大型トラックがダークハンマーに激突した。

『ヌゥアアアアアア!?』

 トラックに道路まで押され、ダークハンマーは反対側の建物にサンドイッチされた。自慢の怪力で押さえ込もうとしたにもかかわらず、トラックは一切止まらなかった。

 運転席では両目をにっこりさせた芭海がハンドルを握っていた。ワイパーを掴んで引きちぎり、ダークハンマーは芭海を睨んだ。

『貴様、まさか……!?』

 ダークハンマーの目の前にあるフロントガラスに、ぎょろぎょろ動く眼球が埋め込まれていた。他にも、トラックには至る所に眼球が寄生していた。木の蔓に巻かれるかのように血管を張り巡らされたトラックは、十個の眼球を備えたグロテスクな様相を呈していた。

「そ~……れっ!」

 芭海はギアチェンジし、アクセルをべた踏みした。ハートフルエナジーにより強化されたトラックのタイヤが、悲鳴を上げながら猛回転した。寄生した眼球の魔法によって限界を突破したエンジンが本来の許容の数倍の馬力を生み、ダークハンマーを轢きながら建物を三棟貫通した。

 建物を貫きながら引きずられたのち、隣の通りへ撥ね飛ばされたダークハンマーは瓦礫とともに路上を転がった。一、二階に穴を空けられ倒壊する建物の瓦礫をものともせず、芭海が運転する強化トラックは道路へ躍り出た。

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