ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第30話 戦士3人と妖精たちの新生活、そして迫る新たな敵!(後編)

公開日時: 2020年9月30日(水) 12:00
文字数:2,292

 プードルンの身なりを見てキュウコは訊いた。

「芭海と一緒に運動を?」

「そうだワン。途中で置いて行かれたけどワンね。……芭海と、少しでも信頼関係を築きたくて」

「……信頼関係……」

 キュウコはプードルンに声をかけられるまで、考えていたことをそのまま口にしてしまった。

「できるのかキュ?」

「ワン?」

「あの子たちと信頼関係を築くことなんて、できるのかキュ……?」

「…………」

 プードルンは真剣な顔で逡巡した。数秒の沈黙を置いてから、キュウコの手を放しプードルンは言った。

「わからないワン。……正直、私も芭海のことは好きではないワン。サイコパスに不信感があることは、80年の頃から変わらないワン」

 サイコパスを戦士とする『悪魔計画』を封印する最終決定を下したのはプードルンだった。サイコパスの少女を交えたダークゴットズとのこの新た戦いについて、最も思い悩んでいるのは彼女だった。

 重苦しい声で、プードルンは言った。

「それでも……やってみなければ、失敗するかどうかもわからないワン」

「……プードルン」

 芭海が戦士として立ち上がってくれることを、プードルンは全く予想していなかった。何が現状を好転させ、何が自分たちを地獄へ突き落すのかは、その時にならなければわかるはずもないのだ。

「だから、キュウコも……才子と向き合うことを、諦めないで欲しいワン」

「…………」

 才子との関係にキュウコが悩んでいたことを、プードルンは見抜いていたようだった。大先輩で参謀本部の議長である、プードルンには敵わない。キュウコは今日朝起きてから、初めて笑うことができた。

「ありがとうキュ、プードルン。キュウコも、頑張ってみるキュ」

「頼りにしてるワン。じゃあ、朝ご飯楽しみにしてるワン。じきにオウルンも起きてくるだろうから。……私は、芭海と一緒にトレーニングしてくるワン」

「わかったキュ」

 芭海のもとへ向かうプードルンに、次の言葉は自然と出てしまった。

「気をつけてキュね」

 

 

 午前七時、神崎家で朝食が始まった頃のことだった。

 場所は東京。

 ある高層ビルの屋上に、二体の黒い鎧騎士が現れた。

 一体は胸の中に白い炎を灯したストーンホルダーだった。名はダークアイ。ダークゴットズが人間界へ放った偵察兵である。

 奇怪なことに、ダークアイの兜は前後が同じ形状をしており、後頭部にも顔と同じ覗き穴があった。覗き穴にはそれぞれ二つずつ白く光る眼があり、ダークアイは合計で四つの眼を持っていた。

 アイストーンを核に生まれたダークアイの能力とは、所謂『千里眼』だ。前後四つの眼による360度の視界に地平線まで映る全てのエリアを、例えどこであろうと『視る』ことができた。

 任意の場所に実体のない『眼』を出現させ、最大四つまで同時に『視る』ことが可能である。さらに二つ目の核、テレパシーストーンの能力を用いて、千里眼で収集した情報をダークアンダーワールドに伝えることが彼の役目だった。

 テレパシーは離れた仲間と任意に意思疎通を図る能力だ。かなりのダークエナジーを消費するが、最大出力ならば世界の壁をも破り、ダークアンダーワールドと通信することができた。

 ダークアイが収集したダークエナジーはダークアンダーワールドとの通信でほとんど消費されてしまうが、彼の仕事はダークエンペラーに献上するダークエナジーを集めることではない。あくまで人間界を偵察し、敵情を調べ報告することが彼の存在意義だった。

 度重なるストーンホルダーの敗北により急遽、先だって一週間前から人間界で情報収集を行っていたダークアイは、たった今人間界へ降り立った同胞と合流したところだった。

『何ヲスルベキカハワカッテイルナ?』

 もう一体のストーンホルダーは、ダークアイと同じ平均的な背丈だった。胸の中には灰色の炎が灯り、兜の形状だけが他の者とは異なった。頭部は現代風の戦闘用ヘルメット、目にはゴーグル、口部にはガスマスクを装着していた。ゴーグルの奥には灰色の眼が光っている。

 ただでさえ声の低いダークアイよりも遥かにこもった聞き取りづらい声で、もう一体のストーンホルダーは言った。

『……イエス……』

 端的な回答だった。ダークアイがテレパシーを用いても、同胞が返す言葉は全く一緒だった。この同胞は会話を最小限のワードで済ませる個性があった。個性が強いストーンホルダーは、それだけ生まれてから日が長く、そして強いということだった。

 会話を進めるために、ダークアイは自らが率先して喋った。

『ダークハンマーヲ仕留メタハートフル戦士ハ一人ダケダッタ……ダガ、恐ラク他ニモ二、三人ノ戦士ガイル。人間界ノネットワークニハ目撃情報ヤ映像ガ多ク残サレテイタ』

『…………』

『戦士ノ正体隠匿能力ニヨリ追跡ハ困難ダ。ダガ、我々ガ暴レレバ奴ラハ必ズ現レル』

『……イエス……』

『オ前ノ役目ハ人間ドモヲ蹂躙シ、ダークエナジーヲ集メルコト。ソシテ、オ前ニ応戦シテ来ルハートフル戦士ヲ抹殺スルコトダ』

『……イエス……』

『オ前ノ戦闘力ト、私ノ観察眼ト分析力ヲ併セタナラバ、ハートフル戦士ヲ迎エ撃ツコトナド難シクハナイ』

『……イエス……』

『ダガ油断ハスルナ。奴ラハ三人モノ同胞ヲ屠ッテイル』

『……オフコース……』

 摩天楼が乱立し、人で溢れ返る都心の街をダークアイは一望した。遥か遠くにある、無数の人混みが行き交う交差点に手を添え、視界の中で捻り潰すかのように拳を握った。兜の中で反響する低い声で彼は言った。

『デハ行コウ……我ガ同胞、ダークガン』

 ガンストーンから生まれし殺戮の化身——ダークガンはゴーグルの奥の灰色の眼から、カッと光を放った。

『……イエス……キルオール皆殺し……』

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