ダークハンマーの左腕からパイルが発射した。芭海は前方へ走りながら屈んで躱し、パイルを丸ノコで一刀両断した。パイルを先端まで切断した丸ノコを振り下ろし、アスファルトに触れて火花が散った。
肘のシリンダーが回転し、新たなパイルを装填した。二本目に発射されたパイルは、芭海の進路を塞ぐように路面に突き刺さった。
「!」
一瞬、芭海の視界がパイルで遮られた。その隙に間合いを詰めたダークハンマーが、パイルの陰から芭海に殴りかかった。路面を削りながらモーニングスターが左方から迫る。
「ほいっ!」
丸ノコをモーニングスターに接触させる。芭海はモーニングスターに丸ノコが刺さると、即座に回転をオフにした。回転を止めた丸ノコはモーニングスターにめり込んだ状態で固定された。ダークハンマーはパイルを薙ぎ倒し、モーニングスターを振り抜いた。
『ヌ!?』
芭海を殴り飛ばしたと思っていたダークハンマーは、周囲を見回して芭海を探した。芭海は丸ノコにしがみつき、ダークハンマーが振り上げたモーニングスターに密着していた。
『ドコヘ行ッタ!?』
頭上にモーニングスターを振り上げて構え、ダークハンマーは芭海を待ち構えた。芭海は丸ノコから手を放し、ダークハンマーの頭上へ落下した。
眼球を寄生させ強化したトンカチを、芭海がダークハンマーの脳天に振り下ろした。頭頂部から兜に亀裂が割れ、ダークハンマーは眼を丸くした。
『グオオオオ貴様ァァァァッ!!』
滅茶苦茶に暴れて芭海を振り落とす。足下に着地した芭海目がけ、ダークハンマーは至近距離でパイルを発射した。
『潰レロッ!』
「ははッ、必死だねぇ?」
射出されたパイルを芭海はトンカチでぶん殴った。発射口の内部でパイルが停止し、トンカチがミシッと軋んだ。
パイルの後部が詰まり、シリンダーが回転できず装填を妨げた。舌打ちし、ダークハンマーはモーニングスターを振り下ろす。芭海はトンカチを構える。
モーニングスターを打ち返した反動で、芭海は後ろへ転がった。威力に耐え切れず、トンカチが折れ曲がった。
ダークハンマーはパイルを詰まらせたまま、発射口で殴りかかった。後ずさる芭海の踵が、アスファルトとは違う硬い感触に触れた。
「!」
襲いかかるパイルを、芭海は紙一重で躱した。殴りつけられたアスファルトがめくれ上がり、芭海が先ほど踏んだマンホールの蓋が外れ宙に浮いた。芭海はマンホールの蓋をキャッチした。
トンカチから剥がした眼球をマンホールの中心に埋め込む。血管がマンホール全体に広がり寄生した。
「スゥ――――」
息を吸いながら、芭海は強化した円盤を手にその場で一回転した。息をぴたっと止め、円盤を振りかぶる。イメージしたのはテレビで目にした、陸上選手の円盤投げ。ダークハンマーはモーニングスターを頭上に掲げていた。
ハートフル戦士の恩恵たる身体能力と、芭海がこれまで培った運動センス、そして極限下で研ぎ澄まされた集中力が奇跡の投擲を生む。
芭海が放り投げたマンホールの蓋は、高速回転しながらダークハンマーの右手を直撃し、モーニングスターを握る小指と薬指と中指を切断した。
『ヌアッ!?』
振り下ろしたダークハンマーの手から、モーニングスターがすぽっと抜けた。眼前に浮いたモーニングスターを、芭海は思い切り蹴り飛ばした。蹴飛ばされたモーニングスターはダークハンマーの顔面に激突した。
『……ンガァッ……!』
ダークハンマーが仰け反り、後ろへ倒れかけた。衝突のはずみでモーニングスターから外れた丸ノコを、芭海はジャンプして掴んだ。無防備なダークハンマーの首を狙い、芭海は丸ノコのスイッチを押した。
(トドメ――!)
ダークハンマーの低くおどろおどろしい声が、言った。
『パイル・バースト』
次の瞬間、ダークハンマーの鎧の全ての関節部から、細いパイルが全方位へ無差別に発射した。まるで花火のように散ったパイルのうち、首から発射した一本が芭海の丸ノコを打ち返した。一拍遅れて発射した一本が、体勢を崩した芭海の腹部を直撃した。
「ぐぁ……っ!」
受け身も取れず、芭海は路上に落ちた。芭海は腹を押さえてもがき、胃の中とともに眼球を幾つか吐き出した。
「おえッ……げえぇぇ……っ!」
朝食べた人肉ハンバーグを戻してしまった。ああ勿体ない。
(んの野郎……相手が人間だったら生きたまま小腸引きずり出して痛めつけてやってたぞッ!)
倒れかけていたダークハンマーがぴたっと止まった。無理矢理上体を起こし、体勢を立て直す。発射口に詰まっていたパイルを引っこ抜き、シリンダーを回す。パイルを装填すると、次はモーニングスターを拾った。指二本だけでは握力が足りなかったため、掌からパイルを生やして柄を貫通させ、モーニングスターを手に固定した。
憤怒に歪んだ眼で、芭海を睨む。
嗚咽しながら、芭海は武器になるものを探した。アスファルトの破片ならそこらじゅうにあるが、こんな物投げつけたところで大した時間稼ぎにもならない。
ハートフル戦士に変身し鋭敏な聴覚を得ていた芭海は、道路の数十メートル先からこちらを目指す人の足音とキャタピラーの回転音を耳にした。目を凝らすと、自衛隊が新たな部隊を率いて現場の偵察を行っていた。
隊員たちはフル装備だった。ライフルに爆薬、そして後方には戦車が走行していた。芭海は目元を緩ませた。
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