ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第33話 作戦失敗!? ダークガンの猛攻に戦士チーム大ピンチ!?(前編)

公開日時: 2020年10月13日(火) 20:00
文字数:2,893

 

 三十分前、渋谷へ向かう車を運転しながら芭海が素朴な疑問を呟いた。

「それにしても、よくガンストーンなんて物騒なもの造ったよね、妖精も」

 後部座席にいたオウルンが芭海を振り向く。「ホ?」

「エナジーストーンを造ったのは昔の妖精なんでしょ?」

「そうだホッホー」

「ハートフル戦士に銃を持たせようとしたわけだ」

「ホ……」

 報道ヘリが中継するダークガンの映像をスマホで視聴していた千早が、投げやりな口調で会話に入った。

「おおかた、ガンストーン自体が造られたのは火縄銃の時代だろうさ」

「え?」

 バックミラー越しに芭海と千早の目が合う。千早はすぐにスマホの画面に視線を移した。

「当時の戦士や妖精にとっては、ダークゴットズに対抗するのに画期的な武器さ。ハンマーストーンやパイルストーンを見るに、武器をもとにしたエナジーストーンは大量に製造していただろうしね。銃を使わない手はなかった。そうだろ?」

 オウルンは気まずそうに肯定した。

「そ、そうだホッホー」

「まさか銃がここまで発展し、大量殺戮を可能とする兵器にまで昇華するとは、当時の妖精たちは考えてもみなかったのさ。違うか、プードルン?」

 後ろを走る車を運転するプードルンの声が、後部座席の真ん中に置いたオウルンのハートフルフォンから聞こえた。

『千早の言う通りだワン。科学技術がここまで発展することを、私たちは予測できなかったワン』

「核のストーンを造られなかっただけまだマシだな。そんなものが敵の手に渡れば詰んでいたぞ。ただでさえ相手の破壊力は化け物だっていうのにな」

「ふ~ん」芭海は思案顔で千早とプードルンのやり取りを聞いていた。

 プードルンが独自の分析を口にした。

『見ている限り、ダークガンの能力はおそらく「現存する銃火器を発現する能力」だワン。存在しない銃……たとえばまだ発明されていないレーザー銃だとかは、造り出すことはできないはずだワン』

「それは同感だな。ただ厄介なのは発現する銃や弾の数に限りが無いことだ」

「…………」芭海はハンドルを指でトントンと叩いていた。会話が途切れたのを見計らい、芭海は運転しながらプードルンに尋ねた。「ねぇ、プードルン」

『なんだワン?』

「ガンストーンみたいに、昔はそこまで強くなるとは思わなかったけど、科学技術が進んで能力が派生したエナジーストーンって、他にもある?」

 ほんの僅かに電話の向こうが沈黙した。芭海はサイドミラーで後続のプードルンの車を見た。回答をプードルンが躊躇うのも無理はない、と千早は思った。妖精、もといハートフルランドにとって、予期せぬ発展と凶暴な進化を遂げたガンストーンをはじめとする凶器型のエナジーストーンを造ってしまったことは、汚点ともいうべき大失態だったからだ。

『……それは……』

 千早が後押しした。「できるだけ情報は得ておきたい。双方の情勢に一番詳しいのは君だ、プードルン。私たちを死なせたくないなら、有益な情報は何であれ共有するべきだ」

「今さら妖精の失敗をどうこう言うつもりはないよ」

『……わかったワン』

 プードルンはかつてハートフルランドで製造された、凶器を源にしたエナジーストーンを列挙していった。その中の一つに――……。

 

 

『二……一――』

 千早が奇襲開始のカウントを終えようとした瞬間、激しいノイズがしたかと思うと、通話が一方的に途切れた。ダークガンの後方1キロメートル地点の高層ビルの五十階に隠れていたランと芭海は、通話が切れたことに驚き、顔を見合わせた。

 ハートフル戦士サイコ・プレデターこと芭海は、ハートフルフォンで数度千早に呼びかけた。

「出ない。なんだ? もう作戦開始していいのか?」

 ハートフル戦士サイコ・ブレイドことランがカーテンの陰からダークガンを覗き見た。

「いえ、まだブラッドの攻撃は始まっていません」

「じゃあどうしたんだ?」

「先ほどの銃声、もしかしたらブラッドが攻撃を受けたのかもしれません」ランはハートフルフォンに向かって言った。「ロケロン、ブラッドの様子はわかりますか?」

『こっちも連絡が取れなくなったケロ!』

「わかりました。私がブラッドの様子を見に行きます」

 床に突き立てていた大剣を握り、ランが部屋の出口へ向かおうとした。芭海が呼び止める。

「待って、たぶん僕が行った方が速い。下に停まってたバイクを強化して走る」

「ではお任せします」

 芭海が立ち上がる。「ダークガンを見張ってて。何かあったら言って」

「ええ、もちろ――」

 芭海の提案を快諾し、ランはダークガンの方をちらっと見た。その時、ランが目を大きく見開いた。

 黒い筒状の物体が、白い煙の尾を引きながら飛行しこちらへ向かって来ていた。同じ形状の物が二つ並んで飛んでおり、まるでロケットのような外見だった。

 ランと芭海に、ぞっと寒気が走った。

((ミサイル……!?))

 ダークガンが放った漆黒のミサイルが、ランと芭海のいるビルの五十階を直撃した。上下階の窓が衝撃波で粉々になり、直撃を受けた五十階からは爆炎と粉塵が噴き出した。

 二人がいたのはオフィスフロアだったが、既に避難が済んでいたためがらんとしていた。整然と並んでいたデスクがことごとく吹き飛ばされ、爆風を受けた壁が派手に破ける。蛍光灯が全て割れ、オフィスは暗転した。

 崩れた天井の瓦礫やカーペットが火を上げ、黒煙と粉塵が立ち昇るなか、ランが大剣を杖代わりに立ち上がった。大剣を盾にしたため、ランはなんとか爆風の餌食とならず事なきを得ていた。

 火災に見舞われ、変わり果てたオフィスを見回しランは声を上げた。

「プレデター! 無事ですか!?」

 燃えるデスクの下敷きになっていた芭海が、瓦礫を押しのけて起き上がった。

「無事ではないけどね! 生きてるよ」

 芭海の手にはボロボロのカーテンが握られていた。ミサイルが直撃する寸前に、カーテンを引きちぎり能力で強化していたのだ。爆風を多少緩和できたものの、所詮はカーテン。布に過ぎない。ノーダメージとはいかなかったようだ。

 足下の瓦礫を蹴飛ばし、芭海は苛立たし気に声を荒らげた。

「いったい何なんだ!?」

「ダークガンの攻撃だと」

「だろうねぇ!?」

 芭海は落ちていたデスクを拾い上げ、プレデターアイを寄生させ盾代わりにし、窓際まで行った。1キロ先のダークガンを見ると、先ほどまではなかった多銃身のガトリング砲が背面に出現していた。

 その銃口は、まっすぐ芭海のことを向いていた。

 

 

 ダークアイがダークガンに命じた。

(『マダ二人トモ生キテイル。蹴散ラセ』)

(『……イエス……』)

 ダークガンの背中を覆うサブマシンガンの群れが蠢き、左右に分かれた。数十丁のサブマシンガンを掻き分けるようにして、2メートルを超える巨大なガトリング砲が飛び出した。

 GAU-8 アヴェンジャーはアメリカ空軍機に搭載されるガトリング砲の一つで、発射速度毎分3900発、射程距離1220メートルを誇る最強の航空機関砲とも云われている。

 アヴェンジャーとともにベルトリンクがだらりと垂れ下がった。

 ダークアイが指示した方角へ向け、ダークガンはアヴェンジャーの砲口を向けた。ランと芭海がいるビルは、アヴェンジャーの射程距離にいた。

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