ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第27話 芭海仲間入り! 才子を蘇らせよう!(後編)

公開日時: 2020年9月22日(火) 12:00
文字数:2,217

 芭海はみは思いのほか、スムーズに千早の説明を飲み込んだ。初めのうちは拘束を解こうと暴れ、キュウコとプードルンに押さえつけられていた。指を結んだ結束バンドをちぎった時は流石に千早も引いていたが、理論立てて解説していくうちに徐々に理解を示していった。

「落ち着いたか? 水鶏くいな芭海」

「……うん。まぁ、とりあえず。納得とまではいかないけどね」

 芭海を押さえるのに必死だったキュウコとプードルンは汗だくになっていた。芭海の中にある警戒心や敵意が薄れたことは、彼女の目を見れば千早にもわかった。

「解いていいぞ」

「芭海、暴れないと約束できるかワン?」

「約束するよプードルン」

「…………」

 芭海とじっと目を合わせ、少々ためらいを見せてからプードルンは結束バンドを鋏で切った。拘束を解いた後も、芭海は大人しく椅子に座っていた。

 芭海の前まで回転椅子を引いて座り、千早は手を差し出した。

「握手は嫌いか?」

「別に」

 千早と芭海は握手を交わした。この瞬間、芭海は千早の首を折ることができたが、実行には移さなかった。千早たちに必要なのは信頼関係よりも協力関係を明確に築くことだった。初めは互いが無害であることを示さなくてはならない。当然、いつ誰が裏切るかは、互いに常に考慮に入れていた。

 だからこれは、仮の握手だ。

 千早にとって芭海は必要であり、芭海は才子と再会するために千早を必要とする。

「お友達ごっこはしなくていい。これは共同戦線だ。そこのランもな」

「わかってるよ。君の名前なんだっけ?」

「神崎千早だ」

「そうか。じゃあ神崎」

「なんだ」

 千早が引こうとした手を、芭海が強く握った。顔は穏やかだったが、手は万力のような力で千早のことを引き寄せていた。プードルンが止めに入ろうとしたのを、千早が睨んで制止した。

 筋が出るほど、芭海は千早の手を強く握った。骨が軋んでいたが、千早は眉一つ動かさず掴まれた手に目を落とした。

「指の中にカッターでも入れてるのか? さっき結束バンドを切ったのはそれか」

「先に一つ言っておくぞ」

「なんだ?」

 千早の腕を引き、自らも身を乗り出し、鼻が触れそうなほど顔を近づけて芭海は言った。見開いた目が千早の細い目を喰らいつくように見つめていた。

「僕は才子ちゃんのために戦う。もし君が復活した才子ちゃんの邪魔をしたり、危害を加えるようなことをしたら、ここのキッチンでお前の膵臓を料理する」

 千早はノータイムで返答した。「私の目的はダークゴットズとの戦争に勝つことだ。そのために日ノ出才子の力は必須だ。そして日ノ出才子の目的は――」

「変身ヒロインになることだ」

「そうだ。私たちは全員利害が一致している。私が日ノ出才子の邪魔をする理由も害する利得もない。君の癇に障るような事態にはならないさ」

 芭海はフクロウのように首を回し、プードルンとキュウコとロケロン、そして鶴来ランを見た。

「……君らも同じだ。僕と才子ちゃんの邪魔をしたら殺す」

 妖精たちが青ざめる一方で、ランはニコニコとまさに普段通りの笑顔で振る舞った。

「承知しました。芭海さんですよね? 芭海とお呼びしてよろしいですか? 同い年なので仲良くできそうですね」

「…………」

 ランを見て、こいつも戦士なのならつまり『そういうこと』なのだろうと芭海は察した。芭海と同じ人種なのだ。

 千早の手を放し、芭海は椅子に腰を下ろした。千早の手には芭海の指の痕がくっきり残っていた。

「共同戦線だな。わかったよ」

 芭海はもとの、淑女的というより紳士的な落ち着いた態度を取り戻した。ピリピリとした空気が冷め、キュウコたちはようやくほっと胸を撫でおろした。

「……」千早は折れた自分の手を見つめていた。無表情のままハートフルエナジーを込める。曲がった指がもとに戻り、折れていた骨が繋がった。治療した手を開閉させ、千早は芭海をギロッと睨んだ。

「理解が遅ぇ。次舐めた真似したら、全身の血流を逆流させてやるからな」

 完治した千早の手を見て芭海は呟いた。「大概化け物だね」

 床を蹴って椅子のキャスターを回し、千早はデスク前へ移動した。暗転させていたディスプレイを点け、マウスを操作し始めた。

「これくらいのことは君にもできるようになってもらわないと困る。さっき説明した通り、日ノ出才子を復活させるためには君らのハートフルエナジーを私に分けてもらわないといけない。他人にハートフルエナジーを与えるのにも技術がいる。ハートフルマジックと呼ばれるものだ。ハートフルエナジーのコントロールは訓練で身に着けられる」

 ホワイトボードに貼り付けたカレンダーを千早が見た。芭海もカレンダーに目をやった。

「遅くても二日だ。二日でハートフルエナジーの譲渡を覚えろ。やり方はランに襲われ。私は日ノ出才子の再結成を本番に備えて詰める」

 カレンダーの七日後には赤ペンで丸印が付けられていた。今日、つまりストーンホルダーの出現から次の襲撃までの目安となる一週間後だ。

 才子を蘇らせるのには多大な時間と労力を要する。実行した後は全員のハートフルエナジーが枯渇する計算だった。才子の復活は敵が現れるタイミングと外して行わなくてはならない。早ければ早いほど、万全なコンディションで敵を迎え撃てる。

「君の習得が順調であるほどに、日ノ出才子の復活は早くなる。やる気が出るだろ?」

 千早の言葉に、芭海はにやっとした。白い歯を覗かせてほほ笑み、芭海は言った。

「もちろん。才子ちゃんのためなら、すぐにでも身につけてみせるよ」

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