ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第25話 自衛隊と共闘! 10式戦車VSダークハンマー!!(前編)

公開日時: 2020年9月17日(木) 15:55
文字数:2,959

 陸上自衛隊第××師団第××普通科連隊に所属する飯田いいだ三等陸尉は、89式5.56mm小銃を構え、三十人編成の班の先頭を歩いていた。隊員たちには緊張が走っていた。先に出撃した班は、謎の怪物によって全滅させられていた。

 飯田たちは怪物付近の建物に取り残された民間人がいないかを確かめて回っていた。陸上からの攻撃では歯が立たないと判断され、間もなく戦闘ヘリにより攻撃が始まる予定だった。怪物との距離は100メートルを切っていた。いざとなればすぐに戦闘へ移行できたが、果たして飯田が手に持つ小銃があの鎧騎士に通用するかは疑問だった。報告によると、先行した班の攻撃では傷一つ付けられなかったらしい。

 自衛隊は事前に偵察のドローンを飛ばしていたのだが、先ほど怪物から放たれた杭のようなもので撃ち落とされてしまっていた。

 飯田は仲間がそこのビルで生存者を捜索するあいだ、道路に残り怪物の様子を観察していた。怪物は先ほどから、何かと戦うかのように獲物を振り回したり、もがき苦しんだりしていた。

 B級映画のモブキャストになった気分で、なんとも居心地が悪かった。何もかもが奇想天外すぎて理解が追いつかない。怪物よ、せめてこっちに関心を示さないでくれよと、飯田は祈っていた。民間人を救出して、さっさとこんな所からは撤退したい。戦闘ヘリの攻撃が開始されるまで、あと5分だった。

 怪物に動きがあった。飯田がいる班に向かって、パイルを発射したのだ。

「来るぞ! 後退! 後退!」

 パイルは飯田の脇を掠め、ほんの50センチ隣の路上に突き刺さった。パイルがアスファルトを抉った震動で、飯田は転びそうになった。上官が、ビルで捜索する仲間に呼びかけるのが無線から聞こえた。

『坂井班、その場で待機! 目標が見えるか!?』

『見えます!』

『ヤツの動きを逐一報告しろ! 攻撃が来るぞ!』

 怪物の左肘でシリンダーのような装置が回転した。右手に持つ凶器を掲げると、怪獣のような足音を響かせながらこっちへ走り出した。

「畜生……こっち来やがった!」

 小銃を構え、飯田は10式戦車とともに後退した。その時、何か妙なものが目に映った。

「ふぅ、やれやれ」

 路上に突き刺さったパイルの上に、人が座っていた。黒い装束を着て、顔半分を不気味なマスクで覆った少女だった。

「え!? ……は!?」

 飯田はそれが誰で、何が起きたのか見当もつかず混乱した。なんでこんな場所にコスプレ少女がいる?

 その少女は、ダークハンマーが放ったパイルに掴まり、ここまで移動してきたサイコ・プレデターこと水鶏芭海くいなはみだったのだが、飯田がそれを知ることなど当然ありはしない。好都合にも大量に『武器』を運んでくれた自衛隊に、芭海は感謝を述べて地上に降り立った。

「助かったよ、自衛隊の皆さん」芭海は飯田に歩み寄り、手を差し出した。「その銃の使い方、教えてくれない? 拳銃しか撃ったことなくて」

「……」飯田は一つだけ思いついたセリフを口にした。「早く避難しろ!」

 芭海はみが眉間を寄せた。

「話が通じないなあ」

 背後でパイルの発射音がした。芭海は素早くしゃがむと、その頭上をパイルが高速で通過していった。パイルをもろに喰らった飯田は下半身しか残らなかった。迷彩ズボンを血で真っ赤に濡らし、飯田の足が仰向けに倒れた。

「ほらぁ、んなこと言ってるうちにもう来ちゃったじゃん!」

 小銃は飯田もろとも吹き飛んでしまった。飯田のレッグホルスターにある9ミリ拳銃を取り、芭海は戦車の上に跳び乗った。

 プレデターアイ眼球を吐き出し、戦車に埋め込みながら、芭海はハッチを素手でこじ開け乗員に怒鳴った。

「撃て!」

 プレデターアイから伸びた血管が戦車を侵食していく。芭海は合計20個の眼球を戦車に寄生させた。

「誰だお前!?」

「いいから撃て! 目の前にいるアレが見えないのか!?」

 ダークハンマーはもうすぐそこにいた。車長と怒鳴り合いながら、目を盗んで芭海は車内にもプレデターアイを投げ込んだ。

「全員死ぬぞ!」

「……っ」

 顔に大粒の汗を浮かべ、車長が乗員に命令を下した。

「砲撃準備!」再び芭海を見上げて彼は言った。「君も中に入れ! 危ないぞ!」

「僕のことは気にするな」

 ハッチを強引に閉め、芭海は戦車から降りた。ダークハンマーは30メートル先。10式戦車にまんべんなく血管の侵食がいき渡ったことを確かめ、芭海は手元にある拳銃にも眼球を寄生させた。グリップに寄生した眼球がぎょろぎょろし、銃身が血管でグロテスクにデコレーションされる。

「小六の時に行った、グアムの射撃場以来か……」スライドを引いて弾丸を薬室に送り込む。「撃ち方、覚えてたらいいんだけど」

 ダークハンマーが戦車に向かってパイルを発射した。ちょうど同じタイミングで、戦車の主砲から徹甲弾が放たれた。

 凄まじい砲撃音とともに発射した徹甲弾には、芭海が車内に投げ込んだプレデターアイがしっかりと寄生していた。赤い血管を纏った砲弾と、ダークハンマーのパイルが正面から激突した。

 凄まじい破裂音が轟き、パイルと徹甲弾はともに粉々に砕け散った。榴弾のように辺りに破片が飛び散る。破片の一つに額を切られ、血が片目を塞いだ。手でごしごし目をこすって血を拭い、芭海は戦車の装甲を叩いた。

「もっと撃て!」

 戦車が二発目を撃った。次の徹甲弾はダークハンマーのパイルバンカーを直撃した。徹甲弾と相殺され、ダークハンマーのパイルバンカーが破壊された。

『ヌオオオオオ!! 貴様、人間ノ兵器ヲ強化シタナ!?』

「ははは! いけいけ!」

 芭海の能力でハートフルエナジーを得た戦車の砲弾は、ダークハンマーに対抗しうる有効な兵器と化していた。もしこの場にミサイルでもあったならば、街もろともダークハンマーを木端微塵にすることさえできた。

(そんなに都合よく転がってるもんじゃないからね、この場は戦車で我慢だ♪)

 三発目の徹甲弾はダークハンマーの胸に着弾した。鎧が剥がれ、体内で燃える二つのエナジーストーンが露わになった。

「装甲が剥がれた! いける!」

 このまま自衛隊に倒してもらおうと考えていた芭海の目に、眩しい光が映った。光の正体は、ダークハンマーの体内で燃えるエナジーストーンだった。

「なんだ!?」

 剥き出しになった胸部内にあるエナジーストーンが激しく燃え盛る。炎はダークハンマーの全身に燃え移り、咆哮とともに鎧が強く発光した。

『ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 ダークハンマーが右手のモーニングスターを高く掲げた。黄色とオレンジ色の炎に包まれたモーニングスターが大きく膨張し、変形を始めた。

 後退しながら戦車が主砲を撃つ。エナジーストーンに当たるかと思われた徹甲弾は、ダークハンマーの左腕で叩き落とされた。左腕は二の腕までもげたが、ダークハンマーは意に留めなかった。

 ダークハンマーの全身に細かい杭が棘のように生えた。棘まみれの趣味の悪い鎧へと姿を変え、ダークハンマーは炎に包まれた武器を芭海たちの方へ突きつけた。

 炎が晴れ、変貌を遂げた武器が露わになった。

 それはダークハンマーの肩幅ほどある巨大な鉄球だった。鉄球からは無数のスパイクが生えており、鉄球そのものはダークハンマーの右手と鎖で繋がれていた。

 ダークハンマーの眼がカッと光った。鉄球を背後へ放り投げ、ダークハンマーは鎖を振りかぶった。

「ヤッバそう!」


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