ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第22話 ある人肉嗜食者の邂逅! 大災厄生中継!!(前編)

公開日時: 2020年9月14日(月) 20:00
文字数:2,280

【ハートフルフォンのエナジー探知機能】……ハートフルエナジーやダークエナジーは未知の粒子を発しており、熱源反応のようにコンピュータで感知することができる。マップで位置を確認する場合、ストーンホルダーやダークゴットズは主に赤色の点、ハートフル戦士はそれぞれのイメージカラーの点で表示される。エナジーが強いほど点は強く輝く。

 ストーンホルダーやダークゴットズは第六感でエナジーをある程度感知することができる。また、戦士や妖精にも、機器を用いずにエナジーの位置と強さを察知できる感覚が鋭い者が、稀にいる。

 ある、孤独な一人の男がいた。

 日本で生まれ間もなく海外へ移住した男は、特に生きる目的もなく、どうせ消費する命ならば有用的に朽ちるべきだと考え、軍隊に入った。

 彼はやがて国外の紛争地帯へ派遣された。銃弾と砲弾が飛び交う地獄で、彼はある極地に立たされた。

 食糧を失い、救助はいまだ来ず、いつ現れるかわからない敵に怯える日々。死んだ仲間の水筒を手に歩き続ける。そこらかしこに転がる新鮮な死体たち。空腹が襲う。

 禁忌を犯した。

 飢餓の苦しみから逃れるために、死体の肉を削いで食べた。食べなければ生きることができなかった。

 恍惚。

 飢えを満たす血肉。夢中で頬張った。初めて感じる味。至福。

 次の日は焼いて食べた。その次の日は挽肉にしてハンバーグを作った。食糧には困らなかった。戦場から銃弾と死体が消えることはない。

 禁じられた食事で日々を凌ぐうちに、男は仲間に救出された。国に戻って間もなく、彼は軍隊を辞めた。

 あの味が忘れられなかった。

 他のものを食べていても、頭を過ぎるのは人の肉の味。食感。罪深い恍惚。他のものでは満足できない。

 彼は気がついた。この世界は、食糧で溢れている。

 77億人の食材。

 一生かけてもとても食べ尽くすことができない獲物たち。この事実に気がついた男は、自分が二度と飢えることがないと確信した。

 彼は日本に戻り、ただの人間に紛れて狩りをしながら過ごした。

 やがて、ある肌寒い秋の日。

 彼は生ゴミや酔っ払いの吐瀉物の悪臭が漂い、ネズミや野良猫が走り回る汚い路地に棄てられた、段ボール箱を見つけた。その中から、赤子の声が聞こえた。彼の足は、路地の方へ向いた。

 箱の中にいた赤子を、男は芭海はみと名付けた。

 

 

 スペイン、マドリードにあるプラド美術館を出た男は、タクシーをつかまえ帰路についた。腕時計を見た彼は途中で降り、バーへ寄ることにした。

 自宅近くの行きつけのバーでは、客と店主がざわついていた。男はカウンター席に座りながら、店内にいる全員の視線を集めるテレビに目をやった。速報ニュースのテロップがあったが、何を映しているのかわからない。テレビに気をとられていた店主は、男が来たことに気がつかない。

 カウンターを指で叩き、男は店主を呼んだ。「スコッチ」

「なんだ、来てたのか」

「何を見てるんだね?」

「日本のニュースさ。今はどこの局も同じ中継映像を流してる」

「ライブ映像なのかい?」

「ああ。近頃日本では変な事件ばかりが起きている。見てみろ、またヤバいことが起きてる。まるで映画だ。終末世界だねこれは」

「ほう?」

 出されたグラスを口に運びながら、男はカウンター上の棚に無造作に置かれたテレビをよく見てみた。さっきまで景色を覆っていた砂煙が晴れ、カメラは日本の破壊された街を映していた。

 生中継された映像は信じ難いものだった。3メートルはあろうかという、全身に鎧を纏った巨人が手にした、自身よりもさらに大きいハンマーを振り回し街を蹂躙していたのだ。

 巨大な鎧騎士は道路を踏み抜き、フルスイングしたハンマーで車や人、店などを殴り飛ばす。一振りで五台もの乗用車が路上から消えた。くの字に折れ曲がった乗用車は、数十メートル先の道路に落下した。

 歩きながら街を破壊する騎士は、通りかかったレストランにハンマーを突っ込むと、隣の建物もろとも薙ぎ払った。店内のソファやテーブルが路上を転がる。

 一人、逃げ遅れた女性がいた。鎧騎士の足下で尻もちをつき、泣き叫びながら恐ろしい怪物を見上げていた。

 鎧騎士は女を一瞥すると、迷いなく踏み潰した。騎士の巨大な具足は女性の胴体を圧し潰し、破けた腹や股から内臓が飛び出した。作り物だったとしてもかなり趣味の悪いショッキングな映像を、カメラはありまま始終中継し続けた。

「まるでヒパニック映画だ」

「デタラメだろ? 映画だとしたらちょっとセンスがないね。ヴィランのデザインがかっこ悪い」

 隣の席の客同士の会話が耳に入った。店主がその客に、食器を拭いていたタオルを投げつけた。

「馬鹿野郎、本物の映像だぞこれは。映画なんかじゃねぇ。あの化け物は実在して、あそこで死んでる人たちがいるんだぞ」

 先月も似た出来事があったな、と思い出しながら男はスコッチを飲んだ。グラスの中でロックがカランと鳴った。店主が男の方を向いて言った。

「なあ、あんた前まで日本に住んでたんだろ?」

 隣の客がこっちを見た。「本当だ、日本人じゃねぇか」

「中国人かと思ってた」

 彼は人差し指を立てて追加の酒を頼みつつ、答えた。

「ああ。日本に住んでいたよ。あの町も知ってる。僕が住んでいた場所の隣町だ」

「おいおいマジかよ」

「知り合いとかいねぇのか?」

 逡巡して彼は首を振った。

「いない。日本人は人付きあいが良くないからね」

「おい! 見ろよあれ、軍隊が来たぞ!」

 破壊活動に勤しむ鎧騎士の数十メートル先に、自衛隊が駆けつけた。歩兵が陣形を敷き、その背後には戦車が控えていた。鎧騎士は全く関心を寄せず、街を壊して突き進んだ。

「なんで軍隊は攻撃しないんだ?」

「民間人の避難が済んでいないんだ。じゃないと攻撃できない」

 数分後には、自衛隊は鎧騎士に全滅させられていた。ハンマーに叩き潰され、ぺちゃんこになった戦車をカメラはアップで映した。客は酒や食事を口にする手を止め、テレビに見入っていた。日本人の男だけがスコッチを飲んでいた。

「これ、現実なのか?」

「何もかもめちゃくちゃじゃねぇか……」

 一万キロ離れた島国で起こる災厄を電波を通して観覧した店の客たちは、戦慄し冷や汗をかいていた。ただ一人、今まさに災厄が起こる場所を出身地とする男は平然とし、無関心そうだった。

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