ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第23話 大白熱! サイコ・プレデターVSダークハンマー!!(前編)

公開日時: 2020年9月15日(火) 05:00
文字数:2,061

 ストーンホルダーには物理攻撃が一切通じない。ダメージを与えることができるのは、ハートフルエナジーを込められたボディか武器による接触のみである。

 そのはずが、ダークハンマーはありえるはずのないダメージを受けていた。素手で殴るならまだしも、芭海はみが凶器に使ったのはただの道路標識である。芭海の肉体と違い、ハートフルエナジーの込められていないただの金属の棒に過ぎない。そんなものが、ダークハンマーの顔に傷をつけていたのだ。

『ドウナッテイル……?』

 芭海は標識をくるくると回し、剣のように構えて首を傾げた。顎をくいっと上げ、挑発する。ダークハンマーに接触した標識は壊れていなかった。

『ドンナ小細工ヲシタ……!?』

 道路からハンマーを引き抜く。アスファルトには、ぽっかりと大きな穴が空いた。ダークハンマーは獲物を野球のバッターのように両手で握り、構えた。

『何ニセヨ――力デ圧シ潰スマデ!』

 ダークハンマーが武器を振るう。両手で握ったフルスイングは先ほどより速度と威力があった。芭海が後ずさると、踵が倒れていた自衛隊員の死体にあたった。死体のポケットに収められていたコンバットナイフに芭海は目をつけた。

 風を切りながら振り抜かれたハンマーを、芭海は屈んで躱した。ふわっと浮いた髪にハンマーが掠る。自衛隊の死体から、芭海はナイフを取った。

 ダークハンマーが足を一歩前へ踏み出し、フルスイングしたハンマーを勢いに乗せたまま頭上に振りかぶった。芭海は標識とナイフを手に、ダークハンマーの方へ駆け出す。

 ハンマーを全力で振り下ろし、ダークハンマーの体が宙に浮いた。地震が起きたかのような衝撃が街を襲い、道路が端から端まで蜘蛛の巣状に割れボコンッと陥没した。

 ダークハンマーはまたしても驚愕に眼を剥く羽目になった。

 巨大なハンマーを支えていた長い柄が、ダークハンマーの手の前で切断されていた。そして芭海が、切断した柄の上に着地していた。芭海の左手にあるナイフが日光を反射して光った。

 柄から腕の上を駆け抜け、芭海は再びダークハンマーの顔面へ一撃加えた。顔面を標識で殴ったのち、肩に登って後頭部にナイフを突き立てた。ダークハンマーの頭にナイフを刺したまま、芭海は巨体の背後へ飛び降りた。

『グヌゥ!?』

 苦悶の声を上げ、ダークハンマーは頭を押さえた。探るように手を這わせ、後頭部に辿り着くと深く刺さったコンバットナイフを抜き取った。

『グアア……!』

 切断された柄を握ったまま、ダークハンマーは芭海の方を振り返った。眼の光が怒りを浮かべるように細く尖り、芭海を睨みつけた。

『貴様ァ……』

 ダークハンマーは抜き取ったナイフに妙な感触を覚えた。ちらっと眼をやると、ナイフの異様さに気がついた。

『……何ダコレハ?』

 ナイフの柄に、眼球が一つ付着していた。サイズからして人間の眼球だ。

 眼球からは赤い血管が伸び、ナイフの柄や刃の全体に纏わりついていた。血管はナイフに根を張り、まるで侵食するかのようにへばりついていた。

 眼球がぎょろぎょろと動く。血管はドクドクと脈打っていた。

『…………』

 芭海が持つ道路標識を見ると、同じように眼球が寄生し血管に覆われていた。標識と血管を見比べると、怒りに歪んでいたダークハンマーの眼が平常を取り戻した。

『ナルホド、ソウイウコトカ』

 ダークハンマーは柄を路面に突き立てた。個体の性格なのか、妙に親し気な態度でダークハンマーは話し出した。

『ワカッタゾ、貴様ノ能力ガ』

 芭海は小首を傾げた。「へぇ、そう」芭海は顔の半分が面頬に覆われているため、表情は読み取れなかった。

 ダークハンマーはナイフを芭海に見えるように掲げた。

『コノ目玉ヲ寄生サセタ物体ニハートフルエナジーヲ付与シ、強化シテ武器トスル……ソレガ貴様ノ能力ダ。コノナイフヤ、貴様ガ持ッテイル獲物ノヨウニ。ソシテ……』

 ナイフに寄生した眼球を握り潰した。眼球がぶしゃあっと破裂した途端、根を張っていた血管が塵になった。ハンマーの柄を切断するほどの威力を持っていたナイフが、ダークハンマーの手によってあっさりと握り潰された。

『コノ目玉ヲ破壊サレルト、物体ハ通常ニ戻ル……トイッタ仕組ミカ』

 腰に手をあて、芭海は目をにこっとさせた。

「ご名答♪ 見た目のわりに賢いね」

『目玉ヲ寄生サセタ物ヲ何デモ武器ニスル……小賢シイ能力ダ』

「その通り♪」

 芭海の面頬が牙の模様に沿ってガパッと開いた。顎の下に手をやると、口の中から粘液のついた眼球が一個吐き出され、掌に落ちた。眼球の瞳の色は、芭海と同じ紫だった。

 芭海は路肩で真っ逆さまにひっくり返っている廃車に歩み寄り、運転席のドアをもぎ取った。そして吐き出した眼球をドアに付着させる。

 眼球がぐるぐると忙しなく回転した。途端に眼球から血管が生え、車のドアを侵食し始めた。血管は穴を空けることなくドアの内部に侵入し、深く根を張り瞬く間に一体となった。

 血管まみれになったドアを盾のように持ち、標識を剣のように構え、芭海はダークハンマーと正対した。

 

 サイコ・プレデターの能力――『こだわりの調理器具ビューティフル・クッキング・タイム

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