ハートフル☆戦士 サイコ♡アクセル

―サイコパスの少女が変身ヒロインになったら―
闘骨
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第7話 神崎千早の正体! 長い冒険の始まり!!(前編)

公開日時: 2020年9月7日(月) 12:00
文字数:2,999

【ダークゴットズ】……負の感情が生むダークエナジーで組成される怪物。神話に登場する神に似た姿をしているため、このように呼ばれている。人々を絶望に陥れダークエナジーを吸い取り、人間界を征服することを目的としている。

 地球人口増加に伴いダークエナジーが増え、昔よりも力を増している。高い戦闘力と破壊力を持ち、殺戮を好む。圧倒的な力を持つダークエンペラーがトップに立ち、ダークゴットズを統べている。

 

 千早の発言に、キュウコは固まっていた。ハートフル戦士を勝利へ導く、千早はそう言った。

 もちろんキュウコたち妖精にとっては願ったり叶ったりだ。そうしてもらわなければ困る。しかし目の前にいるのはサイコパス、冷徹な人間のはずだった。千早と同じ言葉を口にした少女はこれまでもいたが、彼女たちは情熱に溢れていた。千早にも似た情熱があるのだろうか。

 千早は才子を助けようとしてくれている。もしや彼女は、生意気な性格によらず善人なのではないか?

 何人もの純朴なハートフル戦士と出会い、導いて来た妖精はそんな淡い期待を持たずにはいられなかった。そんな希望を大きな瞳の奥に浮かべるキュウコから、オウルンはいたたまれなさそうに目を背けた。

 千早は赤黒い液体の入った死体槽を親指でさした。

「奴らに勝つためにはまずこいつを修復することが必須だ。サイコ・アクセルだったな。本名は?」

「日ノ出才子だキュ」

「細胞も組織もほぼ全て残っている。私の能力『血と肉を統べる指(ブラッディ・ドクター)』を使えば元に戻せる」

「本当かキュ!?」

「無駄にでかい声を出すな妖精。あの町でも言ったことだが、もとの形に戻し心拍と脳波が復活するなら今のこの状態は仮死に過ぎない。日ノ出才子にはなんとしても生きてもらう」

「あれ、そういえばキュ……」

 キュウコが首を傾げて言った。

「どうして才子が死んだ時、すぐにあそこに駆け付けられたんだキュ?」

「近くで見ていたからだ」

 千早はさらっと答えた。当たり前だろう、とでも言いたげだった。

「キュ!?」

「こいつと」死体槽を指す。「ダークグラビティが戦う様を安全な場所から見ていた。オウルンとともにな」

「な……っ!?」

 キュウコは声を荒らげた。つい熱くなり、千早に詰め寄る。

「どうして助けに入ってくれなかったんだキュ!?」

 激昂されても、キュウコを見る千早の冷ややかな眼差しは変わらなかった。千早は眉一つ動かさず言った。

「見極めていた」

「何をキュ!」

「この戦いに勝てるかどうかをだ」

「キュ……?」

 ちらっと千早の目がオウルンを見る。

「オウルンと初めて会った時、俄かには信じ難かったが真実であるとすぐに理解した。私は賢いからな。ここ近年起こっていた謎の災害や事件についても納得がいった。だがそれと同時に疑問を抱いた。隆盛したダークゴットズ相手に、果たして我々ハートフル戦士に勝ち目があるのか?」

 三人が共通して思い浮かべていたのは、ダークグラビティが破壊した町の惨状だった。ダークグラビティはダークゴットズの下っ端に過ぎない。量産できる雑兵だ。しかしたった一体の雑兵により才子が住んでいた町は壊滅した。歴代のハートフル戦士を追い詰め、世界を闇で覆わんとするダークゴットズの勢力は尋常ではない。

「君らのプロジェクトD……サイコパス的傾向を持つ少女をハートフル戦士に起用するという案も、賭けに等しい。本当に今の強力なダークゴットズに対抗でき得るだけの力があるか明瞭じゃなかった。

 だから日ノ出才子とダークグラビティの戦う様子を観察して、見極めようとしたのさ。ダークゴットズへの勝機があるのか、否か。傍目には勝ち目はない。試しにどんなものか拝んでやろう……そんな気分だったさ、私は」

「そんな……才子と一緒に戦ってくれてたら、被害はもっと抑えらえたかもしれないキュのに……」

 千早が眉間を寄せ、頬杖を突いたまま首を傾げた。

「……さっきから君は何に期待しているんだ? キュウコ」

「キュ?」

「サイコパスのなかでもネジの飛んだ人間……ようするにイカれた女のガキを冷酷な戦士に仕立て上げる、それが君らのプロジェクトD『悪魔の計画』なんだろ? 異常者を使うことはハナから前提だったはずだ。なら何故、私や日ノ出才子に良識や常識を求める?」

「キュ……」正論をぶつけられキュウコはたじろいだ。

 千早は容赦のない正論を次々キュウコに突きつける。

「日ノ出才子の戦いは君も見ていただろう? こいつは君が望む戦い方をしたか? 誰かを助けたか? 被害を抑えようと少しでも奮闘していたか? 答えはもう出ているだろう。私や日ノ出才子に人間性を求めるのはやめろ。無駄だ」

「……っ」

 キュウコは唇を噛んでいた。千早の言う通りだった。

 才子はダークグラビティを攻撃するために、人質になった一般人を殺していた。忘れようとしても、キュウコはその事実を無視できなかった。あの盾にされた女性を手にかけることを、才子は躊躇いさえしなかった。

「ダークグラビティの力の強さには正直戦慄した。だが同時に、日ノ出才子が持つ可能性が見えた。ゼロだと考えていた勝率にほんの微かな希望が見えた」

 千早ははっきりと断じた。

「私たちは勝てる。私の頭と日ノ出才子をはじめとするイカれたハートフル戦士の力を合わせれば、ダークゴットズに勝つことは夢じゃない」

 キュウコは鳥肌が立つのを感じた。拳を握りしめ、キュウコは千早に飛びつかんばかりの勢いだった。

「ほ、本当かキュ!?」

「日ノ出才子の戦い方はめちゃくちゃ過ぎる。そこには訓練と教育が必要だ。だがプロジェクトDに選ばれた少女が持つハートフルエナジーの強さは目を見張るものがある。単純計算で通常のハートフル戦士の2倍から5倍……ダークゴットズに充分対抗できる戦力だ」

「キュ~~……!」

 沈んだ顔をしていたキュウコの目に輝きが戻りつつあった。才子が瓦礫に押し潰され、肉塊に果てた時は絶望すら覚えたが、千早の落ち着きと自信のありようは嘘みたいに心強かった。サイコパスをハートフル戦士に起用することには抵抗があったが、希望を持ってもいいのかもしれない。

 彼女たちに、託してもいいのかもしれない。人類の命運を。

 千早は顎に手を当てた。

「まず私たちに必要なのは戦力集めだ。ダークグラビティにはたまたま一人で勝てたが、歴代の戦士と同じく我々も集団で戦った方が効率が良い。そしてダークゴットズに勝つためには一人も欠けてはならない。頭数が大いに越したことはないからな」

 一人も欠けてはならないとは、戦力という意味で人的資源を確保するための合理的な千早の考え方だったが、少しでも人間らしい発言を聞けたことにキュウコはつい嬉しくなった。それがどれだけ計算上のことだったとしてもだ。

「ところが、ここで既に一人死にかけている。サイコ・アクセルの火力は重要な戦力だ。こいつの復活は欠かせない」

 千早は椅子から立ち、死体槽のガラスを指で叩いた。赤黒い液体のなかに白い破片が浮かんでいた。よく見るとそれは人の歯だった。

「私の能力を使ってこの血肉をもとの形に再生させる。今すぐやりたいところだが、こうもぐちゃぐちゃな状態から完全に治すためには膨大なハートフルエナジーが必要となる。脳組織の結合から組織の再編成……考えただけで目眩がするな。再生には私のハートフルエナジーだけでは足りない」

 千早は指を二本立てた。

「少なくともあと二人、ハートフル戦士の協力が必要だ。具体的に言うと、二人のハートフルエナジーを燃料とし、私は日ノ出才子の肉体の再編成に集中する。容易ではないが、理論的には可能だ」

「……てことは……」

「他のハートフル戦士と合流しなければならない」

 キュウコとオウルンの顔を交互に眺め、千早は死体槽を掌でバンと打った。

「残り四人のハートフル戦士を捜し、協力させる。そして日ノ出才子を復活させる。それが私たちの最初の仕事だ、妖精ども」

 


 


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