【ダークエナジー】……負の感情から生み出される力。ダークゴットズは人の恐怖や死の間際の絶望からダークエナジーを吸い取る。また、ダークゴットズが与えた被害の報道を見た人間の不安感もダークエナジーとなり、ダークゴットズに蓄えられる。ハートフルエナジーよりも容易に発生する。
ビルから飛び降り、才子は道路を走る。素足で踏みしめたアスファルトが、超人的脚力によりめくれ上がった。
ポケットのなかでハートフルフォンが着信した。構っている暇はないと思い無視していると、ハートフルフォンが勝手に通話モードに切り替わり、ハンズフリーでキュウコの声が聞こえ始めた。
『才子! 怪我は大丈夫キュ!?』
走りながら才子は応答した。
「今はね! いまハイになってるから、あいつを斃すまでは大丈夫だと思う! その後はたぶんぶっ倒れるから、なんか妖精のアレなパワー的なやつで治療してね! それか病院ね!」
『戦えるのかキュ!?』
「もち!」
電話の向こうで逡巡してから、キュウコは言った。
『ダークグラビティの弱点を教えるキュ!』
「おお! それは助かる!」
視線の先にダークグラビティが見え始めた。右手に黒い球体、左手に黒いダイヤを出現させている。
才子を睨みつけ、ダークグラビティは低い声を出した。
『出血シテイル? ……攻撃力ノ代ワリニ防御力ヲ捨テテイルノカ……』
右手の球体が空高く飛んだ。球体が引力を発動し、道路に駐車している大型バスを浮かせた。
キュウコが早口でダークグラビティの特徴を才子に伝えた。
『ヤツは右手で重力、左手で斥力を操るキュ!』
「ますます初回の敵キャラじゃない強さだね! ウケる」
『ウケ……とにかく想像以上に強いキュ!』
ダークグラビティの胸の中で、紫色と赤色の2つの炎が轟々と燃え盛った。
『ダークグラビティは、ダークエナジー……人の負の感情から現れるパワーを力の源にしているキュ!』
黒い鎧の内側で燃え盛る炎が、キュウコの言うところのダークエナジーのようである。
「負の感情ねぇ……」
『ダークグラビティは街を壊して、被害者や報道を見た人間が抱く負の感情からダークエナジーを得ることを目的にしているキュ!』
凄惨な事態を作り、被害者が増えれば増えるほどダークエナジーは増える。そしてそのダークエナジーを得れば得るほどに、ダークグラビティは強くなるのだ。
「街の人たちの恐怖や怒りが、アイツをより強くしちゃうってこと?」
『そうだキュ!』
「じゃあエネルギー切れは待てそうにないね……」
街じゅうに溢れる悲鳴やパニックになる人混みを遠目に眺め、才子は他人事のように言った。
『ダークグラビティの弱点は、胸の中にあるエナジーストーンだキュ!』
「あの燃えてるやつ?」
『そうだキュ! ダークグラビティは重力のストーンと斥力のストーンの2つを持っているキュ! この2つがある限り、ダークグラビティは倒せないキュ! エナジーストーンをもとに活動しているダークゴットズの手下は、ストーンホルダーと呼ばれてるキュ!』
「オッケイ! じゃあとにかく胸に手ぇ突っ込んであの火をぶっ壊しちゃえばいいんだね!」
空に浮いていた大型バスが落下する。が、才子の方へ飛んでくるのではなく、バスは真下のダークグラビティがいる所へ落ちていった。
「?」
道路に落ちる直前、ダークグラビティが左手のダイヤでバスに触れた。
斥力が発動し、大型バスが大砲のように放たれた。
「うおわ!?」
今までの重力で浮かせ、無造作に投擲するだけの攻撃とはまるで違う。才子に狙いを定め、加速しながら水平に直進してきていた。
走りながら、才子は拳を振りかぶる。突進してくる大型バスを、渾身の拳で迎え打った。
「はぁああっ!」
才子のパンチと正面衝突したバスはフロントが大きく凹み、全ての窓ガラスが割れ内部からエンジンが飛び出した。
「よいせっ」
推進力を失ったバスにしがみつき、才子は膂力に任せて持ち上げた。15トンのバスを掲げ、才子は逆にダークグラビティに向かって投げつけた。
何故か避けも防ぎもせず、大型バスはダークグラビティに直撃した。
「よっしゃああ!」
が、直後に大型バスがバラバラに砕け散り、ダークグラビティは健在だった。
「あれ? 全然効いてない?」
『才子! 才子!』
「あ、キュウコ。まだ電話繋がってたんだ」
どこからか見ていたらしく、キュウコは才子に敵の特徴を補足してくれた。
『ダークグラビティの体はダークエナジーでできているキュ! だからヤツにはハートフルエナジーの攻撃しか効かないキュ!』
「それってつまり、物理攻撃全部効果なし、ってこと?」
『そうだキュ!』
才子は口をへの字に曲げた。ずる~い。
「銃とかは?」
『効かないキュ!』
「ミサイルとか、核兵器も?」
『ハートフル戦士の攻撃じゃないとダメージを与えられないキュ!』
ということは、才子が直接ぶん殴らなければいけないということだ。
あちらの物理攻撃は才子に効くというのに、これではあまりに不利だった。しかしその程度で才子は落ち込まない。むしろより気分は盛り上がっていた。
ヒロインは常に不利なものだ。フェアな戦いなどありはしない。不利な状況を覆して勝利してこそ、真のヒロインと言えよう。
「じゃあ、言われた通り――」
その場で跳躍運動し、才子はスタートダッシュを切った。
「ぶん殴ろうかッッ!!」
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